第2章 2008年 その4

   「墓石の前」


合はす掌はひとつの世界「大丈夫?」とか「あのね」とか長き祈りの


汝が墓は庭石菖にわぜきしょうに囲まれて 揺るる青色 日差し淡きに


ふたつなき儚き色よ 頂きし柿とふうの葉 墓参のみやげ


想像の土を撫で上げ子らのおも 残しおきたし 知らず涙す


すずかけの朽葉の道に面差しの似る姿あり 夢にも見ずば




   「みな大変だ」


香に充つるこの清明の秋日の置き去られたる 今年は半月 ==祥月命日


探しゆく音の極北 繁茂するジャングルに食む己の言葉 ==次男の仕事


究極の「神の一撃」 数理にて挑みゐる日もサイコロ振らる


ぽつかりと空くとふ穴はやれやれとねむとするに正に現はる


ヘッドフォンは音の横溢 魂の慰撫を失ふ片耳壊れて


囀りの澄み渡る朝 祈り湧く 鳥のひと日も楽しからめと




   「晩秋の赤」


鳥影を休ませをりし枯れ松の先端落ちぬ 墓所の辺りに


紅葉狩りに滝道登る母の背の美しかりき 容赦なき老ひ


落葉道 無限のいろどり散りしくに 何故ここまでと対話を始む


妄執の赤 霜月もサルビアよ咲き継ぎ止まぬ何に競ふか




   「寒空」


冬空の蒼青あおあおとしてけふ一つ越ゆるべき山ダブルブッキング


シナプスの壊るる音か 耳近くザキッと白き電流異常


夜さ朝なかへりみて安心のひとつなく 脳に鋭き警告音す


手短かに詣づるばかりの父の墓 木枯しチリと風鈴を押す

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