第2章 2008年 その2

   「鉦を叩く」


水無月みなづきだよ」鉦高らかに打ち鳴らす 尋ねてみたし月の軌道を


ここまでとページの角を少し折る 闇に静かにおやすみと言ふ


わが影の移ろふ道に鳥影も疾走するなり 撫子濃き日


ライオンのわが縄張りの湧き水の清冽なるを見回りて往く


夢のごと長き夢より目覚まさる 君の住まひを訪れをりし




   「地の底で」


父母の仲良きを見て夫婦とはさふであること疑はざりし


破れ傘雨に叩かれ柄も折れぬ ののりし止めぬ二人獣道


緑陰に足りゆく心天然の我と彼なり進化半ばの


夕光の坂にひそけき忍冬すいかずらひとに待たるる吾の吸ふ息  ==母の介護に


つきつめし一人の心 歌壇欄われに煌めく宝石探す




   「蟋蟀 こほろぎ」


けふの日のこの哀惜に出逢ふかな カナトコ雲は怒鳴りているぞ


こほろぎの呟くに似る吾子の声 蝉なら叫べ祈れかまきり


耳深くこほろぎ二匹 高低く響き止まねば夜を聞き入りぬ


開け難く立ち去り難き禁忌きんきの門 園の激しさよろぼひ出でぬ




   「じみな婚姻」


純白の花嫁の手に委ねし子 区役所に寄り勤めに行きぬ


細胞よ漸次滅びに向かふべし 若きらは発つ未だ見ぬ道


まどろみに新婚の屋をおとなへり 支へ終はれば巣立ちぬ空へ




   「自意識」


ふと知りぬ茫漠宇宙にわが脳のひとりなること 在るかの如く


筍は土を破りて柔らかに 十メートルへ整ひて待つ


時来れば土より尖り双葉生る 同じ螺旋の緑の解析

                  ==DNAの螺旋は生命にひとしなみに




   「刈られしもの」


夕まぐれすすり泣くがに群るる百合 明日は刈らるる身と知る白か


明け鴉ハローハローと不思議なり 誰か誰かが要請すらし


朝晴れて高砂百合を倒す音 小暗き樹間 白き飾りを


じつと見る九月の暦「いつ決めた?」心に問ひつ数字の列を

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