第2章 2008年 その1

   「母の心」


清浄の身体は燃えし九の日に 骨温かく抱かれて行く


おめでとう三十六の誕生日 みんな一緒に随いてゆくから


マイボーイ 全速力で漕ぎ出して母の心は追ひかけてゆく


「マボーイ」と彼も歌ふよ 今にしてプレスリーを聴くその言葉ゆえ

                  ==愛し子の歌あり改めてファンとなる


重力に反してのぼる白梅のつぼみは拳 ひるまぬ形




   「一生ひとよ


泰平の世に仰ぎ見る冬空ゆ垂直に撃つ 問ひの雫は


連らなれる命賜る哀しさよ ブロークンハート葉陰に伏すまで


誰が夢の破れざらんや 野を行けばゆらめく星らいや高にして


時充ちて崩さるる壁あるものを 囲まれている我とふ限界




   「早やも春」


花も葉も裸木も良し ありのまま興趣至極きょうしゅしごくと見ゆるぞ佳き日


人も世も淡き桜に抱かるる頃 が寛き心根思ふ


広げたる大鳥の羽ふうわりと あまねくこころ配りし子なり


咲き初めの桜を揺らすメジロ その小さき軽き土緑色


五分咲きを散らす雀ら 花ひとつくはえて楽し朝餉とすなり


花のまま旋回しつつ降る桜 雀の狼藉 花むしろ敷く ==桜の木の下にも桜が


瞑りたる眼を開きては白々と桜ばかりの窓にたはむる


時を止め夕闇桜浮かぶ図は在るや在らざる 酔ひて唄はむ


はらはらと散ればこそとふ桜花いっとき動かず時空に貼り付く


春雨のコートを脱ぐに花蕊はなしべのひとつ落ちたり 声もかすかに




   「無頼の子ら」


これの世の在るだに胸のふたがれて 歩きつ見つつ低く嗚咽す


まな裏にいがぐり頭ふたつあり 一人を足してわが誉れとす


われもまた命育む者たるか われを出でたる無頼の子らの




   「末の子の許嫁」


吾子あこの居る隘路あいろぐし藍色の華 一筋の日差しに立つと


汝がための魂の糧白き花 双手に抱け心ゆくまで


無為なるを許されてただ平安の絵巻物見る わが佳き日々に




   「皐月の白」


ことのほか五月の庭は白多し こでまりバコバ虎耳草こじそうどくだみ


やまぐはのほうの一枚風の道 白き歯車 魔神の走り


山法師けふ最高の小高さよ その身ひとつの白き念力


いつの間に折鶴らんの花の腕 香り差し伸べ触れにくるなり


こは人の昼の月とぞ呼ぶものか 皐月半ばのアジアの空に

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