12.掃除

ギャルちゃんは約束していた時間から三分遅れて現れた。そんなこともあろうかと、所定の時間より早めに時刻を設定していた巫女は、とくに咎めずに仕事内容を伝える。


「兎にも角にも掃除かな。私もしょっちゅう掃除してるし」

「もっと楽しいのはないの?」

「掃除充分楽しいよ」

ギャルちゃんは作務衣を着ていること以外は爪先から頭までギャルだったが、それについても特に咎めない。


「巫女服着れると思ってたんだけど」

「掃除しかやることないから事務員さん以外今日はみんな作務衣です。諦めてくれ」


一方の巫女くんは浅葱色の袴の上から狩衣と立烏帽子を身につけている。女性神職の正装ではないが、これで通っているから気にしたことはないのだった。


「巫女くんっていうより神主くんだね」

「雑用好きだから巫女をやってるけど、実際神主だからね。まあとりあえず髪結んで。建物に掃除機とモップかけるのが仕事内容。仕事は午前で終わるけど、わからなかったら社務所の人に訊いて!」

慌ただしく丸投げすると、巫女くんはバタバタと駐車場の方へ向かっていった。



ギャルちゃんは社務所の奥に収納されている掃除機を引っ張り出すと、昨日花火で遊んだ一番上の四階から掃除機をかけ始めた。


飽きた。

型落ちして久しい掃除機のパックを入れ替えつつ、ギャルちゃんは一つ溜息を吐いた。


「今日は掃除だけかあ」


そういえば巫女くんもいつも掃除している。掃き掃除だったり、拭き掃除だったり。


宮司である叔父さんは奥さんと死別し、息子さんは海外に赴任中なのだから実質的な二番手は巫女くんの筈。それでも常に掃除ばかりしているのだから。掃除以外は御朱印を書いているかお賽銭を数えてるか地鎮祭に行っているか……あれ、結構多い。


「でもいっか。うち字汚いし」

午前までなのだからと気合を入れ直し、モップを持って室内の拭き掃除を再開して、そのまま正午になった。



「お疲れ様ー。昼食これから作るから、休んで待ってて!」

巫女くんは正午ちょうどに帰ってきた。狩衣と烏帽子は既に脱いで、小袖と袴の状態で厨房に立つ。ギャルちゃんは近くの席に座って、扇風機に顔を近付けながら水を飲んだ。


「どう。疲れた?」

「めっちゃ疲れたー! マジでヤバいね掃除。ダイエット? にはいいけど」

巫女くんはそうだろうとニヤニヤしながら鍋の中身をかき混ぜた。鍋の中身は朝作ったカレーで、温め直しているのだった。


自分とギャルちゃんの分をよそってテーブルにつき、食前の挨拶を唱えてカレーを食べる。



今度は巫女くんが作務衣姿、ギャルちゃんが巫女服姿になって作業した。ギャルちゃんは別に帰ってもいいのだが、境内を箒で掃くと言った。巫女くんは荒縄をゴミ袋に入れる作業をし、それが終わると先程のカレーの皿と鍋を洗った。


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