10.夏の始まりは

夜のドライブは、風が気持ち良い。

特に初夏、それも海沿いなら尚のこと。


波に反射する灯台の灯に照らされつつ、四人は海に来ていた。昼間から集合してファミレスでとりとめのない会話を楽しみ、夕方に出発して一時間半くらいで海が見えた。


「大人って感じする」

「酒でも飲みながら、ゆっくりと夜の景色を眺めるのが大人なのさ……知らないけど」

「巫女くん成人してるよね?」

まあそうだ、と曖昧に頷きながら巫女は路傍の駐車場に駐車させる。有料駐車場の値段が思ったよりも割高なことに心の中で溜息をついた。


四人は車を降りると、堤防の下の砂浜を踏んだ。

サンダルで来ていたギャルちゃんが「うわっ」と声をあげていた。指の間に砂が入ったようだ。

先客はちらほらいたが、昼間の人のごった返し方に比べれば取るに足らないほどだ。


「ここ人いないよ。テトラポッドも遠いから」

地雷ちゃんが手頃な場所を見つけ、てきぱきと花火の準備を進める。トランクに雑に積んであったバケツに海水を汲んで水を張り、行きのコンビニで買った花火セットの袋をバリッと開けた。

地雷ちゃんはポケットから煙草のライターを出して一つ目の花火に火を点ける。


「誰が持つ? 誰が持つ?」

体の前で忙しなく手を動かすギャルちゃんに最初の一つは手渡された。地雷ちゃんは手慣れた手つきで次々に点火し、全員に線香花火が行き渡る。


バケツの周りに四人で集まり、パチパチと音を立てて燃える花火を見つめていた。華やかさはないが、これでも充分おもしろい。


「線香花火ってさ……いつ玉が落ちるかって考えていると下に手をやりたくなるよね」

巫女くんが不意に花火の下に手をスッと差し入れたので、お嬢がすばやくその手を引き剥がした。


「巫女くんって時々すごい行動に出るけど、やめてね」

「これは失礼。好奇心が恐怖心に勝っちゃって」

謎のスイッチが入った巫女くんから線香花火を没収すると、ギャルちゃんは片手に一つずつ花火を持った。


「なんか、夏がもう終わっちゃうみたいな感じする」

「実際にはまだ夏休みにすらなっていないんだけどね」

どこか夏の終わりのような雰囲気にさせる、夜の海と線香花火をぼうっと眺め、ギャルちゃんは呟いた。確かに夏の初めは打ち上げ花火で、終わりは線香花火のイメージがあると三人も頷いた。


「それって、まだ遊べるってこと?」

「まだまだ。夏は始まったばっかりなんで」

「じゃ、また計画立ててどっか行こう」

「計画立ててる間に夏休み終わらないようにね」

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