8.夏休み前はテスト前
ギャルちゃんがスマートフォンを一心不乱に見ている。SNSのやり取りのように指を素早く動かすというわけでもなく画面をスクロールしている様子だ。たまらなくなってお嬢が訊いた。
「ねえ、ギャルちゃんは食い入るように携帯を見ているけど、何見てるの? 動物とか?」
ギャルちゃんは携帯の画面を助手席から後ろに向けて見せた。テーマパークやらナイトプールの画像が表示されており、早くも夏休みのことを考えていたようだった。
「もうすぐ夏休みじゃん! どこ行こうって計画してたんだ」
「二週間後ですよ。そしてギャルちゃん、確かテスト近いよね? 一週間後とか」
「うわっ、巫女くん急に萎えること言わないでよっ!」
「現実逃避、ね……私も経験あるから何も言わないけど」
巫女くんに痛いところを突かれて呻き声を上げるギャルちゃんに、地雷ちゃんが達観したような声をかける。
「そういう巫女くんはどうだったの? 実は夏休みの課題とか最終日まで溜め込んで一気にやるタイプだったりしないの」
「残念ながら、しなかったねえ。高校生の時でしょ。ずっと自習室に籠もって、夏休みが始まる前に何がなんでも終わらせてたな。夏休みの課題を夏休みにやりたくなくてね」
「ん、どゆこと? え、ちょっとヤバくない? 真面目通り越してヤバい」
「私は毎日量を決めて少しずつこなしてたよ」
夏休み中に夏休みの課題をやってやるものかという執念を感じさせる巫女くんに対して、お嬢はどこまでも優等生だった。
「お嬢はやっぱりお嬢だね」
「え、ちょっとそれどう言う意味なの」
お嬢が褒め言葉ともとれない形容をされて戸惑う中、ギャルちゃんはテストのことに話を戻した。
「あー。テスト嫌だー。赤点なりたくなーい。でも勉強も嫌だー」
「ギャルちゃん大丈夫。私も勉強嫌いで赤点ギリギリだったから仲間だよ」
「仲間、イェーイ!」
ハイタッチを何故かする二人。
ギャルちゃんと地雷ちゃん、そんなところで意気投合しても仕方がないだろうと、残り二人は生暖かい視線で見つめた。
「それは大丈夫、なの……? ほらギャルちゃん、携帯見るのはいいけど勉強だ勉強! 苦手教科は?」
「……生物基礎」
「数学とか英語はどう?」
「それも不安だけど、文系科目はまだ平気……理系科目に比べれば」
仕方がない教えてやる、と巫女くんは記憶から生物基礎の知識を引っ張り出して出題し、お嬢もそれを手伝うというギャルちゃんの勉強会になったのだった。地雷ちゃんはというと、勉強の二文字が出た途端にイヤホンを装着して現実逃避をしていた。
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