第5話 別腹

 登場人物

 浩輔こうすけ:27歳、文具メーカー営業

 奈々未ななみ:24歳、輸入雑貨店勤務

 同棲7ヶ月目。


「浩輔。今、横を通り過ぎた女の人のこと見てたでしょ?」

「は? 何言ってんだよ。そんなことは――」

「あのひと、胸、大きかったね」

「そうだな、背が小さい割に胸はこう――」

 奈々未の蔑むような視線に、俺は引きつった笑顔を浮かべる。

「それだけじゃないよ。さっきもすごく短いスカート履いてる女の子のほう見てた」


 ええ!? そっちも気づいてたのか――。


 ある日の休日、俺と奈々未は肉のボリュームが凄いと評判のカジュアルイタリアンの店に出かけた。今はその店での食事は終えて、別のカフェのテラス席に座っている。


「男の人って、どうして彼女とか奥さんがいても他の女の人に目がいくのかなー」

 奈々未が、ため息混じりに目の前のパフェを頬張りながら呟く。

「ねえ、どうして?」

 奈々未の刺すような視線に、俺は思考を総動員する。


 え? なんか痴話喧嘩みたいな体になってるけど、これってもうある意味哲学の世界の話じゃないか?


『男はなぜおっぱいやお尻を見てしまうのか?』


 そこにおっぱいがあるからさ。…………これはさすがにベタすぎてだめだ。

 例えば、どうしてもおっぱいが見たかったら、奈々未に頼めば見せてはもらえる……はず。しかし、それでも男というのは違うおっぱいがあれば見てしまうものだ。

 それはもう呼吸するようなもので、なんで呼吸するの、と聞かれても答えられないし、わかったところで呼吸をやめられるわけもなく…………って、俺は何を真面目に考えようとしてるんだろう。


 こういう時は逆ギレ、そう逆ギレだ。


「男はそういう生き物なんだよ!」

 根拠のないドヤ顔をキメる俺を、奈々未が冷めた眼差しで見つめる。

「面倒くさくなったんでしょ?」

「……ああ」

 幸い、奈々未はそれ以上追求してこなかった。


「――それにしても、小一時間前にあれだけ肉を食った後に、よくパフェなんか食べられるな」

 奈々未の前のパフェはもうすぐキレイに空になろうとしていた。

「知らないの? ご飯とデザートは別腹なんだよ」

 奈々未は幸せそうに笑った。


『おっぱいとお尻にも別腹があるんだよ!』


 そう言いたくなったが、何か飛んできそうなので俺は黙ってコーヒーを飲みほした。


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