第5話 別腹
登場人物
同棲7ヶ月目。
「浩輔。今、横を通り過ぎた女の人のこと見てたでしょ?」
「は? 何言ってんだよ。そんなことは――」
「あのひと、胸、大きかったね」
「そうだな、背が小さい割に胸はこう――」
奈々未の蔑むような視線に、俺は引きつった笑顔を浮かべる。
「それだけじゃないよ。さっきもすごく短いスカート履いてる女の子のほう見てた」
ええ!? そっちも気づいてたのか――。
ある日の休日、俺と奈々未は肉のボリュームが凄いと評判のカジュアルイタリアンの店に出かけた。今はその店での食事は終えて、別のカフェのテラス席に座っている。
「男の人って、どうして彼女とか奥さんがいても他の女の人に目がいくのかなー」
奈々未が、ため息混じりに目の前のパフェを頬張りながら呟く。
「ねえ、どうして?」
奈々未の刺すような視線に、俺は思考を総動員する。
え? なんか痴話喧嘩みたいな体になってるけど、これってもうある意味哲学の世界の話じゃないか?
『男はなぜおっぱいやお尻を見てしまうのか?』
そこにおっぱいがあるからさ。…………これはさすがにベタすぎてだめだ。
例えば、どうしてもおっぱいが見たかったら、奈々未に頼めば見せてはもらえる……はず。しかし、それでも男というのは違うおっぱいがあれば見てしまうものだ。
それはもう呼吸するようなもので、なんで呼吸するの、と聞かれても答えられないし、わかったところで呼吸をやめられるわけもなく…………って、俺は何を真面目に考えようとしてるんだろう。
こういう時は逆ギレ、そう逆ギレだ。
「男はそういう生き物なんだよ!」
根拠のないドヤ顔をキメる俺を、奈々未が冷めた眼差しで見つめる。
「面倒くさくなったんでしょ?」
「……ああ」
幸い、奈々未はそれ以上追求してこなかった。
「――それにしても、小一時間前にあれだけ肉を食った後に、よくパフェなんか食べられるな」
奈々未の前のパフェはもうすぐキレイに空になろうとしていた。
「知らないの? ご飯とデザートは別腹なんだよ」
奈々未は幸せそうに笑った。
『おっぱいとお尻にも別腹があるんだよ!』
そう言いたくなったが、何か飛んできそうなので俺は黙ってコーヒーを飲みほした。
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