第4話 藪の中

 登場人物

 浩輔こうすけ:27歳、文具メーカー営業

 奈々未ななみ:24歳、輸入雑貨店勤務

 同棲7ヶ月目。


 ※文中の団体競技、個人競技の意味がわからない場合、第2話を参照ください


 ある夜の寝室。

 俺と奈々未は裸のままベッドに転がっている。

 奈々未は俺の腕に頭を乗せ、俺は空いた掌で奈々未の柔らかな腰のライン撫でている。

 俺は求め合った後の、このまったりとした時間が好きだ。

「――そういえば」

「ん?」

「この間、男女の「団体競技」と「個人競技」の話をするきっかけになった雑誌があっただろ? あの雑誌によれば、女の人の約9割が「団体競技」中に演技をしたことがあるらしいんだ」

 意趣返しというわけではないが、俺はちょっと奈々未の困った顔が見たくなって話を振った。

「……それで?」

「奈々未はそういうのどう思う?」

 奈々未は、少し考えるような素振りをしたあと、ポツリと言った、

「まぁ、わからなくもないけど」

「良くもないのに、女の人はなんでわざわざそんなことするんだろうな?」

「それは、一生懸命がんばってる相手に悪いとも思うし……。それに、そうやって相手の気分を盛り上げてあげれば、早く終わっていいからじゃない?」


 ――なんか、後から言ったほうが本音ぽく聞こえるが。


「じゃあ、俺にも演技してたりするのかな~?」

 さらにしつこく絡もうとする俺に、少し真顔になった奈々未が言った。

「もし、演技してたって言ったらどう思うの?」

「それは……少し傷つく、かもな」

「それじゃ、演技してないって言ったら?」

「そりゃうれしいけど、どっかでほんとかな、とも思うかも」


 ふーん、と呟いた後、奈々未が顔を寄せてきた。

「聞きたい?」

 暗がりの中で、黒目がちな奈々未の瞳がさらに大きく開き、俺を見つめる。


「……いや、いいです」


 この世界には、知らないほうが幸せなこともある。

 きっと。

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