EPISODE45:「指切」

 ★★★




 マリカが異能力を自覚したのは六歳の時。取れない物があった時気づけばそれが手の中に納まっていた事から自覚した。それからしばらくは便利に誰にも見つからないように使っていた。だがある時それを祖母見られてしまった。そして彼女に諭された。


『チカラにはね、正誤も貴賤もない。でもね、ほとんどの人がそう思わない。そのチカラはきっと誤解を招く』

『……うん』

『だからあまり使わない方がいい。私との約束だ』

『わかった』


 そうして祖母と孫は指切りをした。だからこそ――


『良い人になろう。このチカラは使わない』


 そう決めてマリカは行動した。おかげで今では『優等生』や『良い人』で通っている。


 とは言えどういった異能力なのか、どこまで出来るのかを確かめ自覚するのに誰も見ていない所で試したりはしたうえ、知り合いが危ない時にサポートする為にバレないように使ったりもした。更に両親と祖父母には伝えており(幸い異能力を知っても態度を変えない人)彼らの伝手でチカラが不必要な人、危険な人から異能力を盗んだりもした。

 祖母が逝く前にチカラを貰ったりもしている。それが相手が悪人かどうかわかるものだった。本人曰く――


『あって困るモノじゃないからやるよ。これで私は夫を見つけたんだ』


 との事。


 閑話休題。


 そんなマリカが持っている術技の中で〈鑑定〉がある。かなり高性能な物でほとんどの相手を看破出来る。とは言え敵以外にやるのはマナー違反なので見れるかどうかの確認位しかしないのだが――


『アレ?』


 ある人にはそれが通じなかった。それがシンゲツ=カイ(夏休み後)だった。しかも自分の異能力も一部は通じないようだった。それは彼女にとって初めての経験。だからこそ彼女は彼に近づいた。激変ぶりに他の人から避けられているカイだったが、マリカは躊躇わなかった上、今までの人徳からそこまで変に思われなかった。そして、祖母から貰ったチカラでも大丈夫と出た。だからこそ友人になろうと思ったのだ。




 ☆☆☆




 これは実習数日前の友人同士の会話。この時点ではお互いチカラの詳細を隠していたが、両方共何かしら隠していると勘づいていた。だがお互い共深入りはしなかった。


「実習近いな~」

「そうだね。何もなく無事に終われば良いね」

「それがフラグに」

「やめて」


 こんな感じで気安い会話をする関係になっていた。意外に馬が合う二人だった。


「……まあ常に最悪は想定しないといけないけど」

「それはシンゲツくんの経験則?」


 その言葉にカイの顔が曇る。暫くして――


「まあ、ね」


 表情を戻してカイが続けた。


「ご、ゴメン」

「気にしないで良いよ。クオンは悪くない」


 この時点では二人とも苗字呼びである。


「「……」」


 気まずくなり沈黙する二人。少しして口を開いたのはカイ。


「俺ね、昔からどうも間に合わないんだよ」

「え……」

「友人が危ない時にいつも傍にいてやれない。駆けつけられたのは全て終わった後」


 悪友と親友の時はどうしようもない状態。介錯してやるしか他なかった。

 朋友の時も似て非なる状況。止める方法は殺すしかなかった。

 心友と先輩の時は既に旅立った後。

 団長の時は全てが終わった後。


「呪い……なのかもしれない」


 手に入れたチカラの対価なのかもとカイは苦笑する。そんなカイにマリカは首を横に振る。


「そんな事はない!」

「え」

「絶対にない!それだったらわたしg」


 何かを言おうとして止まった。少しして――


「わたしは今頃罰を受けているもの」


 マリカも苦笑する。釣られたような苦笑。自分の能力を嫌悪しているからこその言葉であった。

 そんな彼女にカイは小指を出す。


「?」

「指切り。もし何かあったら助けに行く。絶対に」


 それは約束であり、誓い。その時カイの脳裏に過ぎったのは――


『貴方は大丈夫。もう何も失わない』


 相棒の言葉。

 そんなカイにマリカは懐かしそうな顔になりすぐに小指を出して絡める。


「うん。じゃあわたしもシンゲツくんが危なくなったら助けに行くね」

「……じゃあその時は頼む」

「うん」


 そのまま上下に揺れる両者の手。


「「指切りげんまん」」


 そして指が離れる……がその小指同士が糸で繋がれていた。


「これって……」

「前見たろ?鎖鋸チェーンソー。アレの同類」


 義姉の劔能オルガノンである【闘々絃糸 アリアドネ】。


「え……」

「そんな危険な物じゃない」


 嘘ではない。ただ使い方によっては大勢を一気に細切れに出来る。


「もし危なくなったら俺の名前を呼んでくれ。駆け付けられるから」

「……うん。わかった」


 マリカがそう言うと糸が透明になって消えた。


「まあ使わないに越した事はないんだけどね」


 あくまで保険とカイは言って軽く笑った。

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