EPISODE44:「久遠」

 ★★★


 魔導と異能力。体系化されているのが魔導に対して、個々の特殊能力――受け継がれる事もある――なのが異能力。その為後者は色々ある。

 中には魔導に分類されそうなモノ――――四大系(火、水、風、土)、次元系(時間、空間、力場)、身体系(肉体、精神、魂魄)etc――から、概念的なモノ、よくわからないモノまで様々。カイが使う劔能オルガノンやオノダの奥義も異能力に分類される。

 モノによっては魔力を封じても発動できたり、常時発動していたり、回数性だったりと多種多様である。







 クオン=マリカはその異能力を先天的に持っている。その能力はあらゆるモノを盗むチカラ。目に入る者――装備品や肉体の一部だけでなく、目に映らない物――鞄や[収納]の中にある物品、内臓すらも条件を満たせば盗める。それに加え形のないモノ――ステータスや体力、気力、魔力、更に条件は上記よりさらに厳しいのだが術式や異能力すらも盗む。直接戦闘から間接的や補助的にも使える強力なチカラである。だが……それを使うかどうかはその人次第である。

 




 ☆★☆




「な、何で……」

 

 彼女は自身の異能力を盗人のチカラと言って嫌っている。自覚してからもほとんど使ってこなかった。……とは言え全く使わなかった訳ではなく、魔物相手や犯罪者、そして貰って欲しいと頼んで来た相手には使った事がある。だからこそ幾らかの保存ストックがありそれを使う事で誤魔化して来た。それに自分の異能力についても吹聴しない上、隠しているので、この事を知っている人はほとんどいない。はずなのだが……


「知っている理由ですか?簡単です。からです」

「!」


 男が言った理由に納得する。だが同時に疑問が湧きあがる。


「〈鑑定〉系?でもわたしは……」


 生物や道具の詳細を知る事が出来る〈鑑定〉。他人に使うのはマナー違反と言う暗黙の了解がある上、手札を隠しておきたい人は擬装したり遮断したりする道具を使ったり、術技を覚える。マリカは後者。そしてこれは余談だが、圧倒的な格上相手にはそもそも通じない。“八■”が良い例である。


「私は特殊なアイテムに縁がありましてそれを使ったわけです」


 そう言って男がどこからともなく出したのはアンティークな片眼鏡モノクル。かなり高性能な〈鑑定〉を持っているらしい。因みにこれを使えば圧倒的格上や擬装・遮断をも貫通可能。


(だからバレたんだ……、待って)


 その時マリカの脳裏に過ったのは今日起こったゴーレム大量発生。


「まさか、わたしの異能力を奪う為に!」

「ええ、そうです。色々苦労しました」


 肩を竦める男。


「かなりの資産や貯め込んでいたアイテムも結構消費しました」


 言葉を止め一拍置いて続ける。肩を竦めながら。


「そして――人を何人も犠牲にしました」

「!」

「あのゴーレム――結構便利なのですが人の魂がいるのですよ。それに時間稼ぎと陽動の為に特殊なアイテムを生徒数名に色々渡しました。使えば死ぬ物もありますので今頃は……」


 もう死んでいる。因みに大当たり。全員死亡している。今回の件による死亡者は三桁に達する。


「酷い……。一体何人犠牲にしたの?」

「貴方は今まで食べたパンの枚数を覚えていますか?」


 普通、人を殺せば大なり小なり罪悪感が湧く。が、一部何人殺しても全く気にならない人がいる。男はそれに該当する。……因みにカイと友人の一部もそれに該当する。


「これも全て貴方のせいでしょう?」

「え……」

「貴方がこんな能力を持たなければこんな事にはならなかった。違いますか?」

「そ、それは……」


 そうかもしれないと思ってしまうマリカ。そこへ更に畳みかける男。


「全て全て……貴方のせい」

「ち、違」


 その言葉を否定しようとするが言葉が出て来ない。暗い感情が渦巻いていく。


「だからこそ――私が貴方の能力を貰ってあげましょう」


 それが男の狙いだった。

 彼は元々遺物オーパーツに縁があり幾つも持っている。その内の一つに相手の異能力を奪う物がある。だがこれは永続的に奪える代わりに条件がかなり厳しい。しかも回数制限がある上に『双方の同意』が必要。

 後一回になってしまった際に偶然マリカの事を見つけ今回の事を起こしたという訳だった。

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