EPISODE43:「拉致」

 そして全員の点呼を取った結果――


「……クオン・マリカと探索士の一人がいない訳……か」


 シルトがいる中央でイオリが報告を聞いて溜息を吐く。


(だから彼は急いだ訳か……)


 カイの行動に納得しながらシルトの方へ向いて訊ねる。


「結界に反応は?」

『先程壊される前まではない。内部からも外部からも』

「ふうん。つまりは……」

『〈転移〉を使った』

「だろうね……」


 するとそこへ更に報告が上がった。


「先程ロボットの中にいた人が目覚めました」

「……それで?」


 幸い高レベルの回復魔導士がいたおかげで治ったそうだ。


「その人の名前が行方不明の探索士と一致しました!」


 その言葉に二人の眉が動く。外からは見えない(笑)。


「皮が剥がされていたのはそう言う事か」

『成り代わってたんだ』


 頭を掻くイオリ。もっと早く気付けば良かったと後悔していた。


『相手は異能力使い?』

「少なくともしらは持っているね」


 ある程度は体系化されている『魔導』に対して、『異能力』は特異的なモノも存在する。何をしてくるかわからない。


(シンゲツ君がいい例だよね……)


 そんな事を思っていると、シルトがイオリに問いかける。


『行方不明者の居場所の追跡は?』

「駄目だね。追跡防止の何かしらを使ってる」


 つまりはカイに任せるしかない。あの様子から見ると対抗手段を持っているらしい。


『……じゃあ、理由は?』

「……」


 沈黙するイオリ。彼はこの学園で唯一マリカの事情について学長から聞かされていた。だがこれはトップシークレット。言う訳にはいかないので沈黙を持って答える。


(なるほど)


 察したマリカは深く聞かない事にする。なので話題を変える為に――


『とりあえず結界を強化しておく。〈転移封鎖〉も掛けて置く』

「うん。お願い」


 これ以上行方不明者が出ないようにするしかない。一旦は帰らせる事も提案されたがまだどうなるかわからないので暫くはこの場所で待機となる。後は……


「クオン君を頼むよ……。シンゲツ君」


 誰にだって幸せになる権利はあるのだからと呟くイオリだった。








「う……ん……」


 目を覚ますマリカ。

 

「ここは……?」 


 体を起こし辺りを見渡すとそこは見慣れぬ場所。窓がない部屋で自分の下にある物と自分に掛けられている毛布以外何もない。扉は一つだけある。


(わたしは……何をしてたっけ?)


 直前までの行動を思い出す。自分は班の皆と『武蔵の森』で一泊二日の野外実習をしていた。一日目はトラブルもなく終わったものの、二日目にゴーレムのせいで中断され何とか探索士のおかげで集合場所に辿り着けた。その後は怪我した人の回復を手伝っていた。


(その後、休憩するように言われて、飲み物を受け取って、それで……)


 そこから先の記憶がない。とりあえず思い出すのはここまでにして現状把握をする。


(ここがどこかはわからない……)


 見覚えが無い場所なのだから当然である。ふとその時違和感を覚える。


(体が動かない……?)


 どうやら腕と足が縛られている。混乱するマリカ。そこへ――


 ――ガチャリ


 扉を開ける音がする。その方向へ顔を向けると誰かが入って来た。


「ああ、安心してください。何もしていません」


 話しかけて来たのは茶髪の髪をした中年の男性。


「……!」


 警戒するマリカに男は続ける。


「とは言え……逃げられないような拘束は使っていますけど」


 普通の縄や手錠といった拘束では魔導士によっては逃れられる。身体強化によって無理矢理引き千切ったり、燃やされたり、斬り刻まれたり。だからこそ使われるのが特殊な拘束である。魔力や異能力を封じる物から最上級になると持ち主に何もさせない物まである。これは後者らしい。


(……通りで拘束が解けないんだ。でも一体何の為に?)


 実はマリカの手札はから多い。だからこそ抜け出そうと色々試していたのだがどれも不発に終わっていた。


「貴方の体には興味がないので。あるのは――貴方のその異能」

「!」


 眼を見開くマリカ。彼女には狙われる理由が存在した。それが彼女が持つ特殊なチカラ……


「あらゆるモノを盗むチカラ。それを頂きたいと思っています」

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