EPISODE39:「末路」

 そして――結果は……


「う……」

「あ……う」

「い、痛い……」


 前回と同じだった。とは言え……


「まあ前回よりは持ったねえ」


 カイがコメントする。その左右の手に握られているのは一対の奇妙な武器。一見すればとある地方の古武術で使用される打突武器兼防具である旋棍トンファーに似ている。だが棒の部分に普通の物より大きくなっており杭が射出できる構造――杭打ち機パイルバンカーになっていた。……言うなれば杭打ち旋棍パイルバンカートンファーとでも言うべき武器、否、劔能オルガノンだった。




 ★★★




 カイの友達であり友人の中では屈指のスピードファイターであるアンジェリカの劔能オルガノンである【雷轟電光 ペルクナス】。雷神の名前通り雷と電気に関する特性を持つ劔能オルガノンであるが、幾つか……と言うか他の電撃使いに比べると制限と制約がある。

 まず遠距離に放出する事が不得手。電撃で広範囲を薙ぎ払ったり、荷電粒子砲や電磁砲レールガンを撃つ事は出来ない。雷攻撃を使うには体や武器自体を接触させなければならない。――つまり接近戦を行う必要がある。

 次に変換が出来ない。ほとんどの劔能者バルバロスの炎、氷、風、雷使いであれば精神力や体力をそう言ったエネルギーに変換して使う。ところがこのチカラにはその機構がない。ではどうするのかと言えば――発電して吸電して蓄電している。幸い蓄電量に限界はないが、空になればただの頑丈な武器にしかならない。だからこそ生前の友達アンジェリカは豪雨地帯ならぬ轟雷地帯を巡って落雷で蓄電していた。カイも帰って来てからそれや発電所巡りを行っている。

 これだけ聞くと欠陥塗れ。だがその真価は別にある。それこそが《自傷・反動無効》の常時発動術技パッシブスキル

 当たり前の事だが自分で生み出した物でも炎に触れれば火傷をするし、電気に触れれば感電する。そして高速で何かに激突すれば自分もダメージを負う。それを無効化するのがこの術技スキル。自分とその劔能オルガノンによる反動と自傷によるダメージを無効化できる。だからこそアンジェリカはそれを利用して電磁力で高速で激突して相手を破壊しながらも自身のダメージを無くし、自分の肉体に電気の負荷をかけることで、限界を超えた反射速度を出しながらもその負荷を無効化している。だからこその凄まじいスピードファイター。

 だからこそアンジェリカはカイを一時とは言え追い詰め殺す寸前まで追い込める事に成功したのだから。




 ☆★☆




「ま、これで先生との約束は守れたし上々」


 イスルギとその一味は死屍累々となっていた。全員機械強化服パワードスーツは無残に壊れ、生身を晒している。しかも無傷ではなく手足があらぬ方向に曲がっていたり、骨が折れたりしていた。

 カイがやった事は簡単。高速で移動し攻撃をして行動を不能にしたのだ。普通に戦ったのでは前回よりは手こずると判断だった。そのおかげでチカラを使い出してから数分もかからずに戦闘終了。


「ば、馬鹿な……。何で……」


 呆然とするイスルギ。魔力でカバーしたのか比較的元気である。だが機械強化服パワードスーツは壊れ、武器である戦斧バトルアックスは圧し折れている。


「何でって……ねえ」


 イスルギの疑問にカイは考えてみる。


(要因は数多にあるよね)


 手数の差、能力の掌握具合、戦闘の場数、経験の差etc。そして――


(本気が足りない)


 そう思うカイ。

 イスルギ達は機械や道具に頼っただけ。肉体改造もせず、違法薬物投与もしていない。本当に殺したいなら外部から殺し屋なり傭兵なり雇えばいいのにそれすらしない。

 なのでこう言ってやる事にした。


「執念が足りないよ。俺を殺したいっていうさ」


 その言葉にイスルギは沈黙して俯く。暫くして――


「ハハ、ハハハ」


 笑い始める。壊れたかと思うカイだったが……


「執念?あるに決まっているだろうが!」


 咆えるイスルギ。そのまま立ち上がる。そして何かを出した。それは青い宝珠。


「……それは」


 似たような物に見覚えがあるカイ。


「知ってるのか?なら話は早い」


 そう言って彼は宝珠を翳した。


「俺に……力をよこせ!」

「やめt」


 止めようとしたカイ。だが――遅かった。

 青い宝珠が光る。そして――


「グ……ギャアーー!!」


 ボギャボギャ、メギャ


 宝珠はイスルギの体に取り込まれる。そのまま肉体が膨張していく。更にその肉塊から触手のような物が出てきて取り巻き達を取り込んでいく。使っていた武器や機械強化服パワードスーツすらも取り込む。


「た、助k」

「イ。イスルギさんーー」

「や、やめてーー!!」

「死にたくない、死にt」

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い」

「誰かー助けてー」

「パパー!ママー!」


 悲鳴をあげながら取り込まれていく七人。そのうち声が聞こえなくなる。


「あらら……」


 それを見ながらカイはどうなるのかと警戒していると――


 バシャアア!


 肉塊が弾けた。そしてそこから出て来たのは――怪物。

 身長はカイより高く二m程。筋肉質で長い尻尾の付いた人型。体の各所に防具のように銀の装甲がありそれ以外は筋肉繊維がむき出し。腕が四本ありそれぞれに剣、槍、斧、盾が握られている。そして、頭部、胸部、両肩、両腰、両足に面のような顔がくっついていた。しかもそれは取り込まれた者達の顔だった。


「GYAAAAAA!」


 咆哮を上げる怪物。これが力を求めた者の末路だった。

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