EPISODE38:「理由」

 ロボットをイオリに任せカイは進む。途中でマントを仕舞いその時を待つ。


(こういう時って何て言うんだっけ……?)


 そんな事を考えていると――


「あ、そうd」


 思い出した瞬間に襲いかかってきたのは火球、電撃、氷柱。だが――


「飛んで火にいる夏の虫~」


 効かない。それどころか電撃に至っては塩を送るような物。


「学習しないのな」


 あの世界では生きていけないなと心の中で思いながら次にどうして来るかと待っていると――


「「「死ねー!」」」


 どうやら今の攻撃は目くらましだったらしい。……効けば良いという思いもあるかもしれないが。前衛が突っ込んで来た。剣、槍、盾、斧を構えている。そして何より目立つのは――


機械強化服パワードスーツか……」


 頭部から足先まで銀色の装甲をした機械式の甲冑――機械強化服パワードスーツを全員が纏っていた。

 闇鍋科学と魔導のごった煮状態の世界なのでそういう科学的な物がある。動力は物によっては体内や大気中の魔力を消費するのでこれもこの世界ならではと言ってもいいかもしれない。


(動きが速い、身体強化が掛かっているな)


 分析しながら相手の攻撃を避ける。そのまま連撃を仕掛けてくる四人。しかもこちらの攻撃は盾役が防いでしまう。


(上手く連携している。……何か仕掛けがあるな)


 一旦距離を取ると、そこへレーザー、ミサイル、銃弾が降り注ぐ。勘と経験でどうにか避け切る。飛んできた方向を確認すると後衛の魔導術士四人が銃火器・兵器を構えていた。どうやら前回の事を踏まえているらしい。


「なるほど。……前回とは違うみたいだね~」


 口元に笑みを浮かべながら言う。――カイは笑っていた。これは友人――宿敵の教え。


『なあカイ。何で戦いで無表情なんだ?』

『戦いって粛々と行う物でしょう?』


 ある時二人で飲んでいる時の会話だった。会えば戦うだけでなく食事や酒を楽しむ位はする。……悪友大馬鹿とは違う。


『それじゃ駄目だぜ?楽しめよ。苦しんでやるより楽しんだ物勝ちだろ?』

『それは何かが違う気がする』

『それもそうか?まあいいや』


 ふと真顔になると宿敵――ソルドアウトは笑って続ける。


『じゃあ笑っとけ。上っ面でもいいからよ』

『……何で?』

『まず気持ちが下向かない。気合で負けたらお終いだからな』


 少し置いてから彼は続ける。


『それに戦う相手で怖いのってな、得体のしれないのが怖いんだよ』

『……それは経験上?』

『おうとも。だから笑っとけ、哂っとけ、嗤っとけ』


 だからこそカイは笑う。それに――ぶっちゃけるとこの状況すぐにでもひっくり返せる。


 そんな彼の様子が気に入らないのか斧使い――イスルギが口を開く。


「どうした?笑う事しか出来なくなったか?」


 ……どうやら自分達が有利に立っていると思い込んでいるらしい。


「いやいや、前とは違うなって思ってね。このままだと……ね」

「そりゃあそうだ。何せ――」


 煽てたら話してくれた。

 曰く――八人全員の位置情報が共有出来るようになっており連携が取りやすくなっているそうな。そして高性能のAIが組み込んであり指示をしてくれるらしい。極めつけは色々兵器をまだ持っているらしい。


「どうだ!お前に勝ち目はない!」


 勝ち誇るイスルギ。その一味も同意する中、カイは――


「そうか、良かったな」


 笑顔が真顔になる。


「で?」


 カイが異世界でかつて倒して来た敵には当然多種多様な存在がいた。炎や氷、風、雷などの自然現象を単一で自在に操る者もいれば、総てを統べる者がいた。派手な能力ではないもののそれの使い方が上手な者もいれば、異能力など単なるおまけで純粋な戦闘技巧者がいた。凄まじい異能力と戦闘技巧を合わせた猛者も少なからずいた。彼らの常識では後れを取る道理ない。だが――結果的にカイは生きている。


「お前らは何で自分の理屈が自分だけを利すると考えるんだ?」


 なぜ自分だけが切り札を持っていて相手は持っていないと考える?どうして自分が優位な立ち位置にいると思っている?


「俺に教えてくれ」


 カイの言葉に悪意や愉悦はない。あるのはただの疑問。

 そんな彼にイスルギは――


「……うるせえ!やっちまえ!」


 そのまま戦いを続ける事を選択した。そこに先程までの優越感はない。あるのは焦燥感と敗北感。このままでは負けると言う思い。だがそれを彼は黙殺した。


(だ、大丈夫……なはずだ。アイツもそう言っていた。それに最後の切り札もある!)


 どうにか気持ちを保とうとするイスルギだった。

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