EPISODE34:「逆恨」
「そういえば、シンゲツ知っとるか?」
森の中を歩いているとタナカがカイに話しかけて来た。
「アイツ……久しぶりに来たらしいで」
「誰が?」
「イスルギや」
意外な名前にサトウとリョウも反応する。
「……そう言えばずっと来てなかったね」
「まあこの授業は出ないと不味いからな」
そんなコメントにカイはと言えば――
「誰?ソイツ?」
ズコッ!
すっかり存在すら忘れていた。三人がズッコケてしまう。
「わ、忘れてたんか……?」
「ひ、酷くない?」
「……お前を袋にしようとした奴だよ」
「……ああ!」
リョウの言葉に思い出す。そういえばそんな
「……アイツ来てなかったの?」
「ああ。お前にボコされてから昨日まで引きこもってたらしい」
「まあ、仲間呼んだ上にシンゲツ君に瞬殺されちゃったからしょうがないけど……」
「ま、自業自得やな~」
三人の言葉にカイは黙り込む。
「……」
暫くして――
「何か企んでなきゃいいけどな」
ボソリと呟く。
その言葉に全員がカイの方を向く。
「ど、どういう意味?」
「あの模擬戦じゃ俺を甚振る為に複数人呼んだろ?」
「うん」
「そんでボコボコになってたな~」
ケラケラ笑うタナカ。人の不幸は蜜の味である。
「それを逆恨みして、何か仕掛けて来るかなって」
「……それは今までの経験上か?」
「うん」
友人の事を聞いていたリョウの言葉に頷くカイ。
「人は気に食わない奴を排除するか、無視しようとするからね」
アイツは前者だなと付け加えるカイ。そんな彼にタナカが訊ねる。
「シンゲツはどうする?」
「気に入らない奴や気に食わない奴をどうするかって事か?」
「おう。排除か、無視か」
その言葉にカイは少し考え口元を三日月のようにする。
「どっちに見える?」
「「「……(ぶっ殺しそうだな……)」」」
ぶっ殺しそうなカイの様子に何も言えなくなる三人だった。
『武蔵の森』の中で二班合同の八人組が森の中を進んでいた。ただ――時たま黒い小石のような物を見つからないように木陰や草の根元の影に落としていた。まるで童話『ヘンゼルとグレーテル』の兄妹二人がやったかのように。
『武蔵の森』は全区域踏破済みとは言えかなり広い。だからこそ教師や探索士だけでは全域をカバーするのは不可能。その為、生徒が何か不味い事やヤバイ事をしても上手く隠蔽すればバレる可能性は低い。
「これで最後!」
だからこそ……イスルギ達の暗躍はバレていなかった。彼の班は自身の取り巻き+(α-1)。――要するにこの間の模擬戦メンバーほぼ集合という訳である。いないのは火雷使いの魔導術士である。というより彼以外全員がカイを逆恨みしていた。だからこそイスルギの提案に乗ったのだ。余談だが、火雷使いは模擬戦の後日カイの所に赴き謝って来た。曰く付き合いと昼食を奢って貰ったので参加しただけらしい。
「それで?これで一体何が起こるんですか?イスルギさん」
「ゴーレムが出て来るらしい」
黒い小石を核としてゴーレムが作り出される。しかもこのゴーレムには
「こいつらを陽動に使って、あの無能を――殺す!」
言ってしまった。逆恨みもここまで来てしまった。彼らはもうカイを殺す事しか考えていない。因みに当たり前だが今の時代でも殺人は重罪である。……一部抜け道が無くもないが。
「でも、ゴーレムじゃ一気に殲滅させられて終了じゃないんですか?」
「大丈夫だ。今回は広範囲を殲滅できる奴はいない。それに生徒がいる中やる奴はいねえだろう」
「なるほど。でも俺達でアイツを……」
取り巻きの言葉は途中で止まってしまった。それも当然。模擬戦では数の有利を使ったのに瞬殺されたのだから。アレからカイの手札について調べたがほとんど情報がない。わかる事は学園でも屈指の強者二人と渡り合った事のみ。……サクヤとの模擬戦自体は噂になっているが、その中でカイが使ったチカラについては目撃者全員黙っている。
「大丈夫だ」
そんな不安そうなメンバーにイスルギは力強く告げる。
「俺達には
それはこの
そして――
「それに俺には
ほくそ笑みながらイスルギが取り出したのは――青い宝珠だった。かつてカイがチカラを手に入れるきっかけとなった物の色違いとでも言うべき物だった。
「……でもよくそんな物手に入れられましたね」
「ああ、何でもこの森に用がある人に貰ったんだ。ほら、実習中は立入禁止になるだろう?どうしてもこの日に入らなきゃならないから協力してくれないかって」
「ああ、なるほど」
「……でもその人の目的って?どう見ても大盤振る舞いとかいうレベルじゃないですよね?」
ゴーレムの核となる小石、人数分の切り札、青い宝珠。合計幾らになるか想像もつかない。
「それは知らん。……まあ俺達には害はない。[契約書]に署名したからな」
[契約書]は今の時代に契約に用いられるアイテム。破った場合は何かしらのペナルティがある。だからこそ今の時代によく使われる。
「さて、じゃあ始めるか」
そう言うと彼は最後の仕上げに取り掛かった。
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