EPISODE33:「前兆」

 翌日――

 全員で手分けして出発の準備や身支度をする。

 そして朝食に昨日の残り物を四人で食べる。


「良い朝やな~」

「そうだね」


 タナカの言葉にサトウが同意。結構元気そうな二人。


「……まあ雨に降られなくて良かったな」


 リョウも同意する。ただ……昨日のカイの話の影響で少しテンションが低い。

 一方――


「……」


 カイは何も言わない。心なしか表情が引き締まっている。黙々と食事を食べている。因みに、彼は一睡もしていない。

 そんな彼に引きずられ……


「「「……」」」


 三人とも黙ってしまう。とは言えこのままで一日始まるのは嫌すぎるので――


「――なあ、シンゲツ」


 タナカがカイに意を決して訊ねる。


「どうしたん?何かおかしいで?」

「寝不足?」


 サトウも聞いてくる。

 その言葉にカイは食べていた串焼きを一気に(串も)食べてタナカを見る。


「そうか?」


 そう言うともう一本串焼きを取り一口齧ってサトウを見る。


「……」


 少し黙ってから口を開く。


「空気がな、おかしいんだよ」

「?」

「……毒?」

「え!?」

「いやいや、そう言う事じゃない。こう……雰囲気がな」


 そう言って串焼きを丸ごと(再び串も)食べてしまうカイ。


「何か起こりそうな感じがする」

「勘か?」

「うん」


 義妹の副能力サブである《危険察知》。予め起こりうる危険が分かる第六感。それは二種類ある。

 一つが直前に起きる危険を察知する事。不意打ちや奇襲、飲食への毒物が感知可能。

 そしてもう一つがいずれ起こる危険を漠然と分かる。予知や予測に近い物である。とは言えこれは何が起こるかはわからない。

 今回働いたのは後者である


「警戒しとけ。下手すると――」

「と?」

「エライ事になりかねない」


 そう言うとカイは残りの物を手早く片付け始める。

 そんな彼の様子に――


「……オレらも備えとこ」

「うん」

「……」


 三人は朝食を急いで食べだした。








 一方教師達の控え場所では――


「……」


 イオリが外で無言で佇んでいた。服装はいつもの恰好である。


「風が……変わってる」


 彼も異変に気付いていた。そこへ人影が近づいて来た。橙のローブを着たシルトだった。そんなシルトのブカブカの袖から何かが出て来た。それは細い紙。何か文字が書かれている。


『貴方も気づいた?』


 これがシルトのコミュニケーション方法。声を聞かせたくないらしい。


「うん。何か風がおかしい」

『こっちは空間。何か違和感あり』

「空間が?」


 イオリの顔が曇る。


「まさか……転移事故でも起こるの?」

『それはわからない』


 転移事故。

 大気中の魔力濃度が濃い所で稀に起こる。いきなり違う場所に出てしまう。……とは言え滅多に起こらず、起こらないようにするためのアイテムもあるため人が知らない場所に転移してしまう事はほぼほぼなくなった。ただし――魔物は別である。


「前みたいになったら……不味いな」

『そのために私達がいる』

「それもそうだけどね……」


 今現在『武蔵の森』にいる面々で強さのツートップがこの二人(主人公除く)である。片や“七色”。もう片方は元“五剣”候補。特級クラスの魔物が出てきてもどうにかなる。ただし確実とは言えない。戦いには相性がある。そして、集団で出て来たり、軍勢を率いるタイプだと厄介な事になる。この二人は広範囲を一気に殲滅できる手段がないのである。


『中止させる?』

「それがいいけど……」


 どちらも感覚的な物。下手をすれば気のせいで片付けられてしまう。


「一応駄目元で言おう」

『わかった』


 そういう訳でミーティングで報告する二人。信じてくれない可能性も考慮していたが、二人の実力を知っている人も多いので中止に同意してくれる人も多かった。だがまだ何も起こっていない為要警戒で様子を見る事になった。








 準備を終えて出発するカイの班。特に異常もなく何事もなかった。のだが……


「……おかしいな~」

「おかしいね……」

「カイの勘大当たりだな。オレでもわかる」


 何事もなさ過ぎた。魔物と遭遇しない。昨日であればある程度歩けば獣系や小鬼ゴブリン等の下級クラスが出て来た。


「……どう思う?」


 リョウの言葉にカイは少し考え自分の意見を述べる。


「多分逃げたか隠れてる。虫の知らせって奴」

「……ちょい待ち。シンゲツ。その場合……」

「うん。ヤバイのが出て来るって事だな」

「……十数年前の悲劇再来?」


 因みに、過去の悲劇は皆知っている。事前に学習する。


「……それで済めばいいんだけどな」

「だって“七色”やイブキ先生いるんだよ?」


 特級ランク襲来前と同じ事が起こってもこの二人なら討伐できるだろう。


「どうにかなるやろ」

「まあそうだろうな」

「うん」


 明るく言う三人。だがカイは……


「前と同じならいいだけどな……」


 誰にも聞かれないような小声でボソリと呟いた。少しだけ不安が載っている声なのは異世界の友人位しか気づかないだろう。

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