EPISODE25:「風刃」
そうして授業が始まる。魔導学園はどこも九十分一授業となっており、午前は二つ、午後三つとなっている。そして筆記と実技が半々位の割合である。
この日は午前に筆記と実技があった。
「さて――今日は……」
担任教師であるイオリは目隠しの布越しにカイやマリカ、リョウ達――自分の教え子を見る。
「何をしよう?」
その言葉に全員がズッコケる。
「せ、先生……」
「だってねえ……皆基本的な魔力操作は出来るし、やる事バラバラだからねえ」
実際このクラスは魔導士のタイプがバラバラだった。……というか完全同タイプと言うのは滅多にいない。
(さて……どうするk)
ふと目に付いたのは一人の生徒。夏休み前と後で凄まじいビフォーアフターを遂げた少年――シンゲツ=カイ。
「じゃあ……シンゲツ君」
「……俺ぇ?」
「前に来て」
その言葉に彼は前に出る。
「確認するけど君の戦闘タイプは?」
「一応全距離対応可能です」
「そっか。……近接寄りだよね?」
「……まあ」
「じゃあ、ボクと同じか……」
そう言うと彼は他の生徒達を見渡し――
「じゃあ今からシンゲツ君と模擬戦をするから、皆はそれを見学で」
「「「「「「はい」」」」」」
「ええ……」
少しだけげんなりとするカイ。と言うか――
「何で俺ですか?」
「うん?まず実力的にボクと戦える事」
その言葉に場がざわつく。それを手を叩いて収めるイオリ。
「はいはい、静かに。そしてもう一つは……」
そう言って周りを見渡す。
「一昨日のあんな模擬戦じゃ皆不満でしょう?」
「「「「「「はい!」」」」」」
「……」
その言葉に無言ながら納得するカイ。確かにアレでは見るほうはつまらない。しかし……
(見せる勝負は慣れてないからな……)
彼が落ちた異世界は結構物騒だった。そのため勝負は命を懸けた殺し合いか友人との模擬戦位。そして手札をあまり晒したくない。
(対策されちゃうな)
だからこそ手札を隠して戦うのがカイである。
因みに昨日の槍のメイドとの戦いでも彼は悪友と親友のチカラ(の一部)しか使っていない。その上――
『……(絶句)……』
『馬鹿だ馬鹿だと思ってましたけど……そこまで馬鹿だとは思いませんでした!この大馬鹿!!』
『ギャハハハ!面白いな!!』
カイは絶句し、親友は叫び、宿敵は呵々大笑しその場の
(どうしようかな……)
考えていると――
「ああそうそう」
イオリが付け加える。
「シンゲツ君は近接オンリーで戦ってね」
「え」
「いやさ、普通にやったんじゃつまらないし、授業にならないから」
「……わかりました」
そう言うと生徒達を見渡し続ける。
「ボクは中距離メインで戦うから、皆はそれを見て色々参考にしてね」
戦闘タイプが違う相手との戦いで参考にする為にするらしい。
そう言う訳で両者は向かい合う。間合いは十m程。
「誰かカウントダウンお願い」
イオリの声に生徒の一人が数え始める。
「十、九、八、七、六」
両者変化はない。どちらも常在戦場を掲げている為だ。
カイは両手をだらりと下げ、イオリはポケットに手を突っ込んだまま。
「五、四、三、二」
それでも緊張感が高まっていく。
「一」
そして――
「零」
その言葉と同時にカイのいた地面が割れ、イオリはポケットから手を出す。
カイはイオリに近づこうとする。それをイオリは風の刃を指から出して近づけさせまいとする。
――〈剃刀風刃〉
これがイオリの得意技。風を薄い刃にしての振るう魔導術技〈風刃〉の改良技。より薄く鋭く長くなっており生半可な防御は寸断される。牽制にも中距離にも使える万能技。しかもそれが幾重にも枝分かれして襲い掛かる。生半可な相手なら斬り刻まれて終わる。
だがここにいるのは生半可な相手ではない。数多の修羅場を潜った猛者である。
「近づけない……」
そう言いながらもカイは少しずつ間合いを詰めながら避け切っていた。それはイオリに疑問に思わせる程。
(おかしい……。当たってもおかしくない軌道だったのに避けられている。何か……トリックがあるな)
イオリの考えは当たっていた。
これは言うなれば『
カイはこういう副産物すら受け継いでいる。だからこそどうにか凌げていたが……
(このままじゃ潰される。なら……!)
カイは姿勢を低くし獲物を狙う肉食獣のような体制を取る。これは義妹のスタイル。そして――
「ガアッ!」
獣のような声を上げ四つ足で一気に接近。スピードが更に上がる。だが近づけさせまいと風の刃が襲い掛かるが――
「!」
身体操作により体を捻り縮め無理矢理突破。距離を詰める。だが攻撃の密度は更に増していく。もう回避不能。それに対しカイは――
「チェストー!」
力付くの突破を選択。右の拳を叩きつけ風の刃を吹き飛ばす。そのまますり足で近づき左の拳を放つ。だが――相手は“五剣”候補であった剣士。すぐさま抜刀。
ガン!
拳と
「まさかボクの〈剃刀風刃〉を突破してくるとは……」
「そちらこそ」
そう言ってお互い笑う。とは言え両方共口元しか笑っていない。そしてどちらからともなく戦意が霧散し、カイは拳を下ろしイオリは鞘に
「さて」
そう言って生徒達を見渡す。
「皆参考になった?」
「「「「「「なりません!片方は無理矢理過ぎますし、もう一方は高度過ぎます!」」」」」」
「「あらら」」
ごもっともである。その後は普通の模擬戦をして実技の授業は終わった。
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