EPISODE24:「一歩」
翌日。
「ふわぁ」
欠伸をしながら学園への道を行くカイがいた。
昨日の槍のメイドとの戦いはどちらも興が載り調子に乗った結果――
『……気づいたか?』
『はい。何とも無粋な輩ですね』
数十合の打ち合い後に鍔迫り合いをしながらどちらからともなく気付く。かなりの数の人が近づいて来る気配がした。恐らく警察(ちゃんとある)だろう。下手をすると軍までおまけでいてしかも重武装でやって来る。
『それでどうする?』
『そうですね、蹴散らす事も容易ですが……』
実際この二人なら可能。というか一人でも可能。
『それ後が面倒だぞ』
『はい。お嬢様にご迷惑がかかります』
『(恰好だけのメイドさんじゃないんだ。)じゃあお開きにするか』
『そうですね。名残惜しい所ですが』
二人は武器をどちらからともなく仕舞う。そしてメイドはモップを出して辺り一面を掃き始める。どうやら周りから自分達の痕跡(魔力や布片等)を消しているらしい。
その様子を見ながら周りを見渡す。
(……うわあ)
辺りはズタボロになっており河川敷は水没していた。……嵐が来た方がまだ可愛げがある有様である。どちらも高火力の術技を使用した順当な結果である。
『終了しました。貴方様の痕跡も消してます』
『ありがとうさん』
『いえ。楽しい一時のお礼です』
『こっちも良かった。……じゃあね』
『では。ご機嫌よう』
そのまま両者その場から消える。カイはマントで空間に紛れ、メイドは[転移装置]の指輪を使う事で消えた。そうして家に帰ったカイであったが時刻は真夜中。家事や洗濯をしてから眠りについたのでいつもの半分以下の睡眠時間しか取れていない。その気になれば一週間位なら不眠不休でも戦えるがやはり健康的な生活を送りたい。
そうして今は学園への道を歩く中ふと思い出す。
(そういえば――名前を聞かなかった、名乗らなかったな……)
お互い出会ってすぐ戦いになりすぐ解散となった。そのため名前がわからない。……まあこの都市を拠点にしている事はわかる上にその気になれば探す事も可能だが――
「探す必要はないけど」
また会える気がするしと呟くカイ。……実際近い内に再会する事になるがそれを二人はまだ知らない。
そうして学園に着き教室に到着。
「(まずは挨拶。)おはよう」
そう言って教室に入る。幾人かの返事を聞くとそのまま自分の席に座る。そのまま背もたれに持たれて溜息を吐く。
(昨日と変わらず……か)
難しいな皆と思っていると。
「……なあ」
声が掛けられる。その方向を見るとそこには一人の男子生徒がいた。深い藍色の髪の毛を短めにした長身の少年で制服は少し着崩している。
「何?」
この間のイスルギのような悪意は感じられない。だからこそ普通に応対するカイ。
(確か……スドウだっけ)
彼はスドウ・リョウ。クラスメイトである。カイは物覚えは悪い訳ではないので一応クラスメイトの顔と名前は一致させている。
「一つ聞いてもいいか?」
「質問の内容によるな」
「……お前ってハヤカワ先輩と知り合いなのか?」
その言葉に目をパチクリさせるカイ。ややあって。
「幼馴染だけど……」
「へえ。意外だな」
「意外って……。まあいいか。ところでさ」
視線を細めるカイ。リョウは若干たじろぐ。
「どうしてその話題が出たの?」
「え、あ、ああ。噂があってな」
リョウ曰く、カイとサクヤが手を繋いで歩いていただの、決闘しただのという話が広がっているらしい。
「――で気になった聞いた訳だ」
「そうか」
昨日といい今日といいどうも噂の広がりが早い。
「何とかしなくちゃならないかもな……」
そう呟く。もしもの時は――
(義姉さんの真似事でもするか……)
元凄腕の暗殺者であった義姉の事を思い出す。彼女は情報収集も上手く、標的の情報を入手して仕事人や仕掛人のように綺麗に片付ける。それこそが彼女の真骨頂。
「なあ……ええとスドウさん?」
「リョウでいいぜ。俺もカイって呼ぶからさ」
「ふむ……」
その言葉に少し逡巡し。
「ああ。それでいい」
頷いた。これがカイの友人作りの第一歩であった。
「じゃあリョウ」
「何だ?」
「噂はどこから聞いた?」
「え。確か……」
そうしてリョウから噂をどこで聞いたのかを聞き、その後は他愛ない話をした。そしてチャイムが鳴り……
「お前以外にとっつきやすいな」
「そうかね?『お前が憎い!絶対に殺してやる!』って言われた事あるけど」
「誰にだよ!?……まあいいや、メシの時間に話そうぜ!」
「ああ」
そう言って二人は別れた。
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