EPISODE23:「暴槍」
夜の帝都。街の中は街灯のおかげで暗くないので人通りは多い。そんな人通りの上。そこに――
「……」
カイがいた。街灯と建物を飛び跳ねていた。とは言え今の彼の姿を見る事は常人には不可能。宿敵の
宿敵のチカラは先輩並に万能なので様々な状況で使える。
サクヤとの模擬戦の後、床に八つ当たりをしてもなお戦いの熱が取れないのでそれを冷ます為に散歩(?)をしているカイだった。
そうして跳ねていると少しずつ苛立ちが紛れて来る。そして彼がやって来たのは……
「ふう……」
とある河川敷。身の丈以上の草がぼうぼうに生えている。
人があまり来ないので昔はよくここで鍛錬していたカイである。
「昔だったら木刀振ったりするんだけど……ね」
今は意味がないからなと呟くカイ。
確かに異世界でチカラ――
その一つが『特殊な成長性』である。今の彼は幾ら鍛えても何も成長しない。常人でも鍛えれば上昇するはずの肉体の筋力や敏捷性はおろか魔力に関する物の成長性まで止まっている。完全に止まった訳ではなく条件を満たせば上がるが簡単に出来る物ではない。
そのためか今の彼に鍛錬は無意味。幾ら走ろうがダンベル持ち上げようが魔力のトレーニングをしても何一つとして上昇しない。
なので――
「……ねえどうしたら良いと思う?」
ふと斜め後ろを振り向きそう言うと――
「――驚きました。気配は消していたのですけど……」
そこから出て来たのは一人の女性。黄金・白銀・白金の三色の髪をして、それを三つ編みにしたメイド。手には何故かモップを持っている。
「幾ら気配殺してもさ、……殺気と闘気が漏れてるよ?」
カイの言葉に凄絶な笑みを見せるメイド。
「すみません。貴方が強そうなのでどうにも高ぶってしまい……」
彼女はモップを槍のように構える。
「一手お手合わせ願えますか?」
どうやら戦闘狂らしい。しかもわかりにくいカイの強さを見抜いた事からかなりの強者である事が伺える。
メイドの言葉にカイは――
「……ああいいよ」
先程の戦いは良い所で止められたのでそう言う。そして収納代わりの
「いざ……」
「尋常に……」
「「勝負!!」」
二人は同時に駆け
メイドはモップの柄を使い凄まじいスピードで突きの連打を繰り出す。槍は薙ぎや払いも可能な武器だが彼女はそれをしない。柄の長さを持ち替える事での突き、刺し、貫く。それしかしない。だがその攻撃の速さは凄まじく密度は正に暴雨。
カイはその攻撃を右手に握る木刀と左手に握る
両者互角の戦闘だった。
(二刀流な上に特殊な肉体の運用をしてますね)
(同じ槍使いでも……団長とは違うな)
(加速がまるでない)
(突きだけとは……。薙ぎや払いも使う団長とは大違い)
(生半可な相手なら即座に斬られてお終いですね)
(行動を縛る事で更に攻撃力や機動力を引き上げているのか)
両者互いを分析し合い評価し合う。
(ここまで速いなんて……)
(突きだけでここまでやるとは)
(凄い!凄い!!たまらない!)
(団長の変幻自在な攻めにも対抗できそう)
(なら……)
(それなら……)
両者共にギアを更に上げる。
メイドは魔導による身体強化を施す。カイが常に使っている魔力をただ纏うのではなく術式を使う事で指向性を持たせる。例えるなら――魔力を纏うのが大きな布を服代わりにする事、術式使用が布を洋服に仕立てる事。だからこそ後者の方が性能が高い。
カイは
その戦いにより地面に穴が開き始め、周囲の草が切られて舞う。だが両者に気にしない。そして二人とも顔は喜悦に染まっていく。
「強いですね!」
「そっちもな!」
その言葉と同時に両者は一撃をぶつけ合い間合いを開ける。そのまま両者動かず喋らず。
暫くして――
「貴方様にはこれを使ってもいいかもしれません」
メイドはそう言うとモップを右の指輪形態の[収納]に仕舞い代わりに槍を引きずり出した。それは三叉槍。神々しさを放っているが、どこか異質さと歪さを含んでいた。
「じゃあ俺も……」
カイが木刀を仕舞い
「……どういうつもりですか?」
メイドはそれに不機嫌な顔になるも――
「こういうつもり」
その言葉と同時に一瞬で柄から刀身が現れる。それは物干し竿のような長刀。この刀身の無い刀剣こそがカイの悪友、“兇剣士”と呼ばれた最強を目指しそれを実戦する剣豪コジュウロウのチカラ――
「……なるほど。そう言う事でしたか」
現れた刃にメイドはすぐに機嫌の良さそうな顔になる。
「では――」
「ああ――」
「「存分に戦おう!」」
そして三叉槍と物干し竿が激突した。
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