EPISODE22:「二人」

 一方その頃サクヤとマリカはと言えば――


「……どうにか逃げ切れました……」


 外にいた。サクヤがルーン文字で身代わりを作り、気配遮断を掛けて逃げ出したのだ。


(あのままでは玩具にされてました……)


 溜息を吐くサクヤ。そんなサクヤにルカが話しかける。


「……そういえば何でわたしまで?」

「話を聞いてみたかったのです」


 その言葉に誰の話か察するマリカ。

 そのまま二人で歩きだし帰り始める。


「……シンゲツくんのですよね?」

「はい。喧嘩してからほぼ交流がなかったのです」


 年賀状は送っていたのでほぼを付けたサクヤである。


「良いですけど……」

「けど?」

「クラスメイトになってまだそこまで経っていませんし」


 言葉を切ってから続ける。


「友人になったばかりですので」

「……そうなのですか?」

「はい。実は――」


 昼食時の経緯を話すマリカ。そして自分から見たカイの様子も話す。それを聞いてサクヤは何とも言えない顔になる。


「変わっていませんね……」

「そうなのですか?」

「ええ」


 そう言いながら思い出す。


「どこか変わった雰囲気がある」


 そのためいつも一人だった。


「相手が何をしてようと我が道を行く」


 結構なマイペース。


「人の意見を否定しない」


 多様性を認めていた。


「そして――」


 溜息を吐く。


「カイ……キーは迷わないし惑わない。煩悶出来ない」

「え」

「一度決めたらどこまでも進む。止めるには殺すしかない」

「!?」


 その物言いに驚くマリカ。


「……いえ、違いますね」

「そ、そうですよね」

「殺しても止まらない」

「余計に酷い!?」


 実際そうなのだからしょうがない。


「前に言ってました。『諦めるとは何だ?やり方を教えてくれ』って」

「……」


 無言になってしまうマリカ。そんな彼女にサクヤは苦笑する。


「だからこそ喧嘩になったのですよ」

「なるほど。……原因は?」

「……う~ん」


 カイの個人的な事情プライバシーもあるのであまり言えない事だが……


「では当たり障りのない所を」

「お願いします」

「彼が魔導の実技の成績が低いのは知っていますね?」

「はい。……もしかして」


 彼が出来るのは魔力を纏っての簡易的な身体強化のみ。それ以外が一切出来ない。基本的な火を起こす、水を出す、風を操作、土を生み出す事が出来ない。それ以外の特殊な事すら出来ない。そして異能力すらなかった。


「理由があるのですか?」

「……」


 無言で頷くサクヤ。


「後天的にそうなったのです」

「え……」


 つまりは何かあったと言う事。サクヤの態度から事故か故意かはわからないが。


「だけどカイは探索士になりたかった」


 カイには同胞というか兄弟姉妹みたいな存在が幾人もいた。その中の一人の夢を叶えるためだった。だが――


「探索士の仕事は戦闘が付き物ですから危険です。だから止めたのです」


 探索士の仕事は対象者の護衛や危険な魔物の討伐、未開の遺跡の探索等々。下手しなくても死にかねない。


「……でもシンゲツくんは止まらなかった」

「はい。そうして喧嘩になりました」


 結果はサクヤの勝ち。才能の欠片もなくチカラを持たない少年と、才能に満ち溢れチカラを手に入れた少女。結果は見えている。


「でも彼は止まらなかった」


 眼を閉じるとその時の会話が思い出される。


『これでわかったでしょう?貴方には無理です』

『いいや。無理じゃない』

『……死にますよ?』

『だから何だ?』

『本当に死にますよ!』

『それがどうした?』


 平然とカイは言った。


『それで良い。俺はな――』


 サクヤの眼を真っ直ぐに見つめて彼は告げる。


『死ぬよりもやりたい事をやれない事が辛い』


 それで死んでも本望だと彼は言う。そんな彼にサクヤは……


『……ッ!』


 何も言えなくなり……


『勝手にしなさい!』


 そうして二人は絶交した。それ以来ほぼ交流はしなかった。

 生きている事は知っていたし、特に大怪我や重病にもならない事も知っていた。

 とは言え――いずれは大きな挫折を味わうか、野垂れ死にするかと思っていた。

 だが――


「でも彼は強くなった」


 アレは予想外だった。一体何をしたのだろう。一体何があったのだろう。聞いて答えてくれるかはわからないが。


(頑固ですからね。一度決めたら梃子でも動かない)


 内心で溜息を吐く。そして改めてサクヤに向き合う。

 

「……まあ少し?変人ですけどキーの事を宜しくお願いします」

「……」


 その言葉に少し沈黙するマリカ。


(確かに少しだけ変わった人。でも――悪い人じゃなさそう。だから……)


 ややあって。


「はい」


 頷いた。 

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