EPISODE21:「八当」
戦いの最中の妨害。それはカイを相手にやってはいけない事の一つ。……というかこれに関しては悪友と宿敵なら怒り狂う。物騒なあの二人なら即座に相手を殺しにかかる。一方カイの場合、まだ穏やか(?)なので理性がブレーキを掛けていた。だが――
「丁度良い所なんだ……。邪魔をするな」
左手で
今にもイオリにすら斬りかかろうとしかねないカイを見かねたのかサクヤがカイの前に出た。
「止まってください。キー」
愛称で彼に呼びかける。
「……サクヤ」
「お願いです。もうやめてください」
そこへ畳みかけるようにマリカがその近くにやってくる。
「シンゲツくん」
「……クオン」
「目的は果たしたでしょう?ならいいでしょう?」
友人二人の説得にカイは――
「……」
無言。沈黙。
「……」
「……」
二人の視線に耐え切れなくなったカイは――
「……っ」
視線を逸らし
「……はあ。わかったよ」
「先生」
「……何だい?」
「この部屋の素材って修復素材ですよね」
このまま引き上げるのは癪に障る。
「え?あ、ああ」
「そうですか。なら――どこまで壊れても平気ですか?」
「罅とか裂け目なら元に戻るし、崩れても破片さえあればどうにか。……木っ端微塵は無理」
この時の事をイオリは後にこう語る。
『学校の備品を壊すな――とか言えなかったね。多分言っていたら……二人の行動が無駄になっていた。だからとりあえず修復できる範囲を言う事にしたんだ』
壊せる範囲を確認するとカイはそうと短く言う。そして――
「……盟友」
ボソリと呟く。そして
ズガン!!
轟音が響き部屋が揺れる。何生半可な衝撃なら吸収するはずの床に足跡が付きその周りを大きな罅と亀裂が入る。
カイがやった動作は震脚。徒手空拳で戦う盟友がよくやっていた。拳の威力を高めたり、倒した敵の頭を踏み潰したり。そして――怒りを発散する際に行っていた。彼女の■■は『憤怒』なのだから。
そして――
「用事は終わったので帰ります」
そうしてカイは扉に向かう。その場にいる全員から視線を感じる。
(明日からどうなるかな~)
下手をすれば避けられるなと思いながら扉を開けようとすると――
「キー君!」
自分を愛称で呼ぶ声がする。思わず行動が止まる。とは言え振り向きはしない。彼をそう呼べるのはこの場には一人しかいない。
「今日は無理そうなので――明日にでも話を聞かせてください!」
サクヤの声にカイ。
「わかった」
短く答える。そして扉を開けてカイは出て行った。
カイがいなくなった部屋。
「……ふう」
「……はあ」
「やれやれ」
全員緊張感から解放されたのか溜息を吐く。そして自分達の武装を仕舞っていくが……
「こ、怖かったです」
「大丈夫。もう行ったから」
イチコはまだ震えていた。錫杖をまだ握っている。そんな彼女に優しく声を掛けるナミ。
「……よく平気だったわよね。サクヤちゃん」
「確かに」
カンナとイオリがサクヤを見ると彼女は苦笑する。
「私は……色々追体験しているので」
「「なるほど」」
今回は一部しか使わなかった彼女の“チカラ”を知っている為納得する二人。余談だが、彼女のチカラは結構有名である。交流戦の新人戦で使ったのである。
「……そういえばぁサクヤちゃん」
「何ですか?ムラミさん」
「彼には
「……そういえば」
ムラミとジョウキチの疑問にサクヤは苦笑して答える。
「使うつもりでしたよ?というかキー君だけに使わせて自分は使わないのは駄目でしょう」
模擬戦が止められていなければ彼女はチカラ――
(残念でしたね……)
そう思っていると――
「あの……ちょっといいですか?ハヤカワ先輩」
マリカがサクヤに話しかけて来た。
「何でしょう?」
「シンゲツくんの喧嘩した友人ってもしかして……」
「ええ私です」
そう言って苦笑。
(一応仲直り出来た……と言えますかね)
そう思っていると――
「サクヤちゃん!」
「サクヤちゃぁん!」
「サクヤ!」
カンナとナミとムラミがこちらに近づいて来た。……イチコは回復したらしい。
「詳しく聞かせてね」
「そうだよ!」
こちらに顔を寄せるカンナとナミ。因みにナミの糸目がぱっちりと開き昆虫のような複眼が露わになる。これを隠すために糸目なナミである。
そんな二人にタジタジとなるサクヤ。因みに興味があるのかジョウキチとイチコ、ルカ、更にはイオリまで声が聞こえる範囲にいる。
そして。
「乙女として興味あるわぁ」
ムラミがこう言うと場の雰囲気が変わる。
「「「「「「……乙女?」」」」」」
「……何か文句あるのか?テメェら?」
「「「「「「ありません!サー!」」」」」」
「……誰がサーだ?」
「「「「申し訳ございません!マム!」」」」
「ならよし!……サクヤちゃん!話聞k」
ムラミがサクヤの方を向くと――そこには誰もいなかった。というかサクヤの近くにいたはずのマリカまで居なくなっていた。……身代わりを使った形跡があった。
「逃げられたわねぇ」
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