EPISODE20:「鎖鋸」

「「「「「「……」」」」」」


 二人の激戦に観戦者は無言になっていた。特に且つてのカイ――夏休み異世界に行く前の彼を知っているカンナとイオリ――生徒会長な上交流戦に備え全校生徒のデータを記憶している彼女と担任である彼は一際そうだった。


(何コレ……?)

(……凄いな)

(あのサクヤちゃん相手に互角なんて……)

(戦闘スタイルが変わってる……というか完全別人)

(しかも……まだ手札を隠している)

(“四無”と“五剣”の最古参バケモノ二人クラスの戦闘経験が感じられる)

((一体夏休みに何があった?))


 答え――異世界に落ちた。


 一方他の面々は――


「凄いな」

「ええ、そうねぇ。アタシじゃ勝てないかもねぇ……」


 三年生は素直に称賛。


「ウチの蟲で勝てるのいるかな?イチコちゃんは?」

「あの様子だと……あたしだと完封されます」


 二年と一年コンビは自分達がカイと戦ってどうなるか分析。


 そして……


「凄いな……シンゲツ君」


 カイの友人は素直に称賛する。


 そういう風に見守っていた。観戦者の所には結界が張られていて安全は確保されている。……はずだったのだが――


 バキィ!ビキィ!


 カイが武器をサクヤ目がけてぶん投げ、それを彼女が避けて対処すると結界に武器が激突。その度に結界が軋む。厄介な事に親友のチカラは法則の塗り替え――自分の意思を押し付ける為再生阻害の効果も持つ。そのため結界の自動再生は弱まっていた。……因みにチカラを完全解放して本気で殺す気で投げていたら――結界は一発で粉々である。

 そして遂に……


 バキャアーー!!


 カイが投げた槍の一撃で結界が完全に砕けた。


「……チッ」

「不味いわねぇ~」

「ワンコちゃん!」

「はい!」


 ナミの声にすぐさまイチコが反応。[収納]に入れていた自身の武装エモノである錫杖を取り出す。そのまま柄を地面に付ける


 ――〈アイス・フィールド〉


 錫杖を起点に部屋の床が凍り付いていく。そしてカイとサクヤが戦う所を囲むように氷の壁が出現する。だが……


「む……」

「どうしたのぉ?」

「シンゲツさんの所が効きが悪い……」


 ムラミの疑問に答えるイチコ。まるで彼の周りだけ超高温の炎か凍らない何かで出来ているような感じだった。


「どうしましょう……先生」

「……そろそろ止めた方がいいかもね」


 ルカの言葉にイオリは布越しに戦闘が行わている氷の壁を見る。すると……


 バッキャーーン


「「「!?」」」


 あっけなく氷の壁は砕けた。見てみると戦いは更に激しさを増していた。カイは不安定な足場なため余り動かず猛攻を迎え撃ち、サクヤは炎で氷を溶かし足場を確保、通用しない炎・氷・雷は使わず風・光と直接攻撃を中心に攻めたてていた。そのためか両者多少損傷が目立って来た。


「チェストォー!」

「――ッ!?」


 剣と刀の二刀流で戦っていたカイが突如右手の剣を手放して拳をサクヤに叩きこむ。それをどうにか槍の柄で防ぎ切るも勢いは殺せず吹っ飛ぶサクヤ。だがルーンを使用して空中で回転しそのまま落ちずに静止、浮遊する。


「……流石。ここまでやるとは思わなかった。さっちゃん」

「それはどうも。強くなりましたねキー君」


 お互い愛称で呼び合う。殴り合いのおかげかすっかり蟠りがなくなっていた。


「どうです?私相手では真の武器エモノを抜くに値しませんか?」

「う~ん……そうだな~」


 思考する。やはりサクヤは強くなっている。それに恐らくまだまだ手札や強化手段があるだろう。それに――


(楽しくなってきたし……)


 カイはチカラを相手から受け継ぐ際に趣味や嗜好が引っ張られる時がある。そのせいか宿敵のように戦闘に――具体的に言えば激闘や苦戦に快楽や愉悦を見出すようになっていた。だからこそ――


「わかった。じゃあ――抜釖抜こうか


 その言葉と同時にカイの雰囲気が一変する。


「「「「「「!?」」」」」」


 その部屋にいた全員が思わず怯む程の殺意。


「……!」

「う……」

「だ、大丈夫?」


 余波だけでイチコとマリカが座り込んでしまう。それをナミが介抱する。


「「……!」」


 ジョウキチとムラミは戦闘態勢を取る。ジョウキチは刀の鯉口を切り、ムラミは自身の武装である四メートル弱のロボットを取り出す。


「先生……」

「わかってる……」


 カンナはイオリに目配せ。それに教師は答える。


 一方余波だけでなく殺意を間近に喰らったサクヤは――


「……!」

「へえ」


 何とか耐えきった。それにカイは感心。そのまま彼は右手を左手に持ってきて何かを取り出すような動作をしようとしたが……


「「そこまで!」」

「「!?」」


 カイとサクヤの間にカンナとイオリが割り込む。


「これ以上は危険だから止めさせて貰うわ」


 サクヤの前に出たカンナがは自身の武装エモノであるアパッチ・ピストル(ピンファイア式のペッパーボックスピストル。グリップ部分となる折畳み可能な拳鍔ナックルダスターと合体して、一体化された稚拙な折り込み式の短剣ダガーもくっついたリボルバー)を二丁拳銃状態で構えている。


「そう言う事。刃を収めてね」


 カイの前に出たイオリは武器を手に持っておらずポケットに入れたままだがこれでもすぐに戦える状態。


 そんな審判と教師にサクヤはすぐに武器を収めるも――


「……わかりました」

「……何言ってるの?」


 カイは収まらなかった。


「ここまでやったんだ。止められる訳ないだろう!」


 そう言いながら彼は左手から何かを引きずり出す。それは――鎖鋸チェーンソーだった。血に錆びたかのような色をした身の丈程の巨大な鎖鋸チェーンソー。これこそカイの親友、“殺戮鬼”と呼ばれた連続殺人鬼モンセラート(愛称はセラ)の主武装メインウェポンにしてチカラ――劔能オルガノンである【殺戮刹鋸 ジェノサイダー】。何万人もの血を吸って来たのである種のおぞましさすら感じる武器。そのあまりの凄まじさに相応の実戦経験があるイオリですら少し怯む程。


(不味いね……。これ……ボク勝てるかな?)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る