EPISODE19:「親友」

 ★★★




 親友。職業は殺人鬼。余りにも殺し過ぎたので最早災害扱いとなっており“殺戮鬼”と言う通り名を持っていた。……余談だがカイの異世界での友人達はほとんどが通り名を持っている。

 とは言え――相手を殺せば殺すだけ当たり前だが恨みを買う事になる。その為討伐隊が何度も組まれて親友を倒そうとした。だが――彼女はそれらから生き延びた。それどころか逆に返り討ちにしたり全滅させた事が何度もある。


 その理由こそが彼女の持つチカラの万能性。元々このチカラは人によって千差万別となる。そして彼女のチカラの特性は――『物理法則等の塗り替え』である。それらは殺せば殺すだけそれらは強くなっていき連続して殺すとボーナスが付く。

 例えば――その辺にある物品が立派な武器となり相手を殺す、大地を蹴るだけで数キロを跳ねる跳躍力を見せ、叫びや咆哮は辺り一面を破壊し、部位欠損からの完全回復はおろか肉塊からも再生する。

 だからこそ彼女は同じような(本人達は互いにディスり合う)虐殺をしていて、万能性(一つの手札での万能性が親友、様々な手札で万能なのが悪友。だからこそ真逆)にかけては右に出る者はいなかったカイの悪友と戦い生き延び時に追い詰めた。この二人の対決は凄まじいものだった。


 とは言え――人を殺す者はいずれ殺される。そして、好きにやったら好きにやり返される。人生とはそういうものである。その結果、幾つかの国や組織で最大の討伐隊が組まれて、親友と悪友の二人はまとめて討伐されるという当たり前の末路を迎えた。……まあ最後の討伐戦で誰もが――恐らく神ですら予想しえない展開となり、二人の最後の悪あがきはカイは最終決戦での一助になるとは誰も思わなかった。……すら驚いていたし。


 そして二人は死んでしまったが、そのチカラはカイへと受け継がれた。その結果――親友のチカラは更に強化された。元々カイ自身が異世界あちらで人を殺している上に、この時点でチカラを受け継いだ友人達も殺害人数キルスコアは結構高い。更に殺害人数キルスコアが六桁に達している悪友からも受け継いだので当然と言えば当然かもしれない。

 そしてカイはチカラの完全解放しなくても常にその余波のようなモノが使える。《熱変化無効》と《雷電吸収》が良い例である。そして親友の場合は弱体化しているものの法則歪曲が使用可能。解放前で使用可能なのは十分の一以下だがそれでも総殺害人数トータルキルスコアがとんでも無い事になっている彼が使えば凄まじい事になる。それのおかげで彼はチカラのデメリットを克服していた。


 且つては魔導による身体強化がほとんど使えないカイであったが、今はそれに代わるモノが使える。だからこそ今ならパワーファイターの魔導士とも殴り合う事ができる。

 本来であれば数多の手数を使って相手と戦うカイであるが、親友の手札だけに縛っても十分に強い。だからこそ――




 ☆★☆




 カイのチカラを込めた斧の振り下ろしをサクヤは槍の柄で防ぐが――


「ッ!?(重い!?)」


 片手の単純な振り下ろしのはずがかなり重い。

 それもそのはず。その一撃は腕一本の力だけでなく、全身の力で振り抜かれた一撃。

 剣の達人であった悪友の得意技にして通常技。知識や技量を受け継いだので当然の如く使用可能。その攻撃はほとんどの相手は一撃の元に防御ごと叩き潰され斬られて死ぬ。犠牲者は余裕で千を超える。……まあ今回は斧でやっているので少し違うが。

 その攻撃にサクヤは受け止める事から、受け流す事に変更する。柄を軋ませながらも受け流す。


「流石」


 一言称賛し攻撃を続行するカイ。次に選んだ手段は近くにあった剣を拾い上げ二刀流での連続攻撃。これも悪友の通常技。スタミナ配分や疲労、乳酸など知らぬ存ぜぬの連続攻撃。しかも無我無心で行い、決まった型がないため法則・規則は存在しない。こんな攻撃をし続ければではすぐに力尽きると思うがの攻撃ならカイと悪友ならば三日三晩は繰り出せる。というかカイ、悪友、親友の三人は特に継戦に優れている。

 そのまま押し切ろうとするカイ。何とか受け流し防ぐサクヤ。だが……


(このままでは……潰される!)


 サクヤの槍の技術は確かに高い。だが“三槍”に比べれば劣る。それに本来サクヤは槍だけで戦う訳ではない。

 だからこそ――


(使う気はなかったのですが……)


 サクヤはカイの戦闘技術を舐めていた。確かに先日の模擬戦ではあっという間に相手を屠り去った。だがそれは相手が油断していたのもあるし、頭に血がのぼっていたせいでああなったと思っていた。それに且つての彼は戦いの才能はなかった。だから槍術だけでどうにかなると思っていたがこのままでは負ける。


(仕方ない!)


 カイの渾身の振り下ろしの一撃。それをサクヤは槍ではなく展開した障壁バリアで防ぐ。中央には文字――ルーン文字が描かれている。軋みながらもどうにかカイの一撃を防ぎきる。


「……ようやっと使ったか」

「ええ。すいません。貴方を舐めていました」

「そうかい」


 短く言葉を交わしお互い戦闘を再開する。

 サクヤは戦闘方法を一変させる。ルーン文字を使い攻撃や防御、移動、補助に使う。これこそが彼女本来の戦闘スタイル。

 火球や氷弾を撃ち、火柱や氷柱を発生させる。腕力を強化させ相手の一撃を逆に押し返す。カイの動きをルーン文字で止め妨害し、時に変わり身すら使うetc。遠近問わず多彩な手札で攻めたてる事こそが彼女の真骨頂。だからこそ交流戦の新人戦の種目の一つで優勝したのだ。

 それに対してカイは法則歪曲で対抗。親友の戦闘スタイルそのものを借りる。

 ステータスを引き上げ攻撃力、防御力、機動力を引き上げる。拘束や妨害を無理矢理振りほどき、炎や氷は効かないので無視し、色々な武器を使い、時に拾った武器を放り投げ、口をすぼめて息を吐き魔弾として対抗する。

 両者互角であった。……確かにお互い殺す気はない上にカイは手札を絞っている上に完全解放していないがそれでも拮抗している。


「なあ」

「はい?」

「楽しいな」

「……そうですね」


 そしてそんな二人の口元には笑みが浮かんでいた。

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