第Ⅺ話:「師匠(じゃない)と弟子(未満)」
「色々買って来たんで丁度良かったです」
「そうか。それにしても……」
「はい?」
「多くないか?」
卓に所狭し……と言うか完全にキャパオーバーして床にまで置かれた食べ物の数々。内訳は寿司と天ぷら、フライドチキン、骨付き肉、ポテト等々。何故かフライドチキンと骨付き肉が半分以上を占めている。
因みに理由としては寿司と天ぷらは
「……そうですか?
義妹はかなりの大食いだった。元々かなりの健啖家な上、奥の手の使用に
「そいつの胃の中ブラックホールがあるんじゃないのか?」
「相棒も同じ事言ってました」
因みにその時の義妹の返答は……
『ブラックホールッスか?吹き荒れてるッス!』
との事。
そしてカイが何処からともなく出したのは――
「……
「みたいな物です」
外側が刃になっている中心に穴の付いた円盤――
「師匠は飲めましたよね?」
「……まあな」
「なら開けます」
そう言って盃を二人分出して開封した酒を注ぐ。
「酒精強いですから注意してください」
「おう。……というかお前も飲むの?」
「ええ。俺の酒ですし」
「……適性年齢じゃねえよな?」
戸籍の上ではカイは十六歳(四月誕生日であり、今は九月)である。今の大倭帝国では飲酒と煙草は十八歳からである。当然カイは未成年なのだが――
「良いんですよ。もう超えてますから」
「……そうかい」
実際カイは異世界で何年も過ごしており実年齢は二十を超える。だからこそ酒は飲める。
その奇妙な物言いに特にツッコミは入れないオノダ。何かしらあったと勘づいているからこそである。
「……良い酒だな。清酒か。でも……強いな」
「親友が好きな酒の一つです。アイツに言わせれば『アルコール度数三十%以下は水と同じ』との事です」
暴論である。
因みに……辛党(酒好きの事。辛い物好きの事ではない)の親友に対し、下戸且つ甘党なのが悪友である。ここでも仲が悪かった。そしてカイはどっちもいける口である。
閑話休題。
そのまま二人で酒と食事を楽しむ。とは言え二人ともそこまで多弁ではないので言葉は少ない。カイは友人達の話をオノダは近況をぽつぽつと語り合う位。
そして一時間程経ち用意した酒と食事が九割方彼らの胃袋に収まった時にカイは問いかける。
「……師匠」
「だから師匠じゃねえ……けど何だ?」
「聞かないんですか?」
カイとオノダは付き合いは結構長い。だからこそカイの変化に気づいたはずだ。何せオノダは『
そんなカイの問いかけにオノダは――
「別に」
「……そうですか」
「まあ色々あったのはわかる。血の匂いがかなり濃いからな」
「わかります?」
「俺が今までどれだけ殺して来たと思ってる?」
「……まあそうですね」
カイはオノダの正体を知っている。だからこそ彼が二十一回の虐殺の末に
「でもまあ……快楽や愉悦で殺した事はないんだろう?」
「はい」
それは間違いない。大量虐殺をしている
「ならいいさ。俺にどうこう言う筋合いはない」
「そうですか」
オノダは酒を飲みカイはフライドチキンを食べる。そのまま残りを二人は片付ける。そして卓が空の皿と容器、瓶だけとなり――
「おいカイ」
オノダが立ち上がる。
「はい?」
「戦るぞ」
その言葉と同時にオノダが出したのは右手に収まる程の小さな箱。色は赤と青と灰色の三色でルービックキューブにも見える。それが宙に静かに浮かび上がり光を放つ。思わず目を背けるカイ。そして数瞬後目を開けると――
「ここは……?」
赤土色をした地面にオーロラのような光が満ちた空。一体何処だろうと思っていると――
「ここは異空間。さっきの箱は[戦闘空間]……って俺は勝手に呼んでいる」
その声に振り向くと三メートル程離れた位置にオノダが立っていた。
「随分昔に手に入れた物でな……」
オノダ曰く対象者と自分を異空間に隔離する道具らしい。そこはドッタンバッタンどころか核兵器級の火力を叩きこんでも壊れる事のなく現実空間に被害を与える事もない。そして自分有利、相手不利となる訳ではないが、使った本人が解除するか死亡するかでしか解除出来ない。
彼はこういう道具――
「でもこういうのって次元干渉でどうにか出来るんじゃ……」
こういう術技は魔導や異能力で希少だがあるにはある。そういうのは空間系や次元系等(こちらも希少)でどうにかするのが常套手段だが――
「無理だ。ここでは空間と次元の術技は一切使えない」
「つまり……絶対に逃げられない?」
「ああ。……神ですらな」
そう言うとオノダは構える。
「来い。全力でな」
いつもの雰囲気から一変。殺気を放つオノダ。それにカイは――
「わかりました」
両拳を握り構える。そしてオノダに向けて駆けだした。
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