第Ⅹ話:「悪友と親友=馬鹿二人」

 ☆★☆




「♪~」


 学園帰りにカイは気分良く鼻歌混じりで歩いていた。

 追試結果は文句なしに合格だった。とは言えそのチカラはどうした?一体何があった?とか色々聞かれたが――


『覚醒しました』


 とか――


『気合と根性です』


 とか――


『滅茶苦茶頑張りました』


 で誤魔化した。

 ……誤魔化しきれていないかもしれないが、後天的に何かしらの異能力や特性に目覚める人はいるうえ、元々こういうものはあまり見せびらかしたり、ひけらかすものでないのでどうにかなった。

 ただ――


(警戒はされているな……)


 幾人かには凄い目で見られた。特にこの学園でも強い部類に入る人達には有り得ない者を見る目で見られた。そして教師の一人であり“五剣”候補だったと噂されている担任教師――イブキ=イオリからは二度見され――


『キミ……本当にシンゲツ=カイ君?』


 とまで言われてしまった。

 曰く――


『別人が成り代わったって言った方が本人って言うより信じられる。歩き方や立ち方が変わった。それに隙がなくなってる』


 との事。そしてこれは[遮音結界]を張られて近くで小声で言われた事だが――


『キミ……どれだけ修羅場を潜った?どれだけ殺したの?』

『……わかります?』

『ボクは分かる。と言うか実戦経験者なら気づくよ』

『香水でも付けようかな……』

『……それでも消えないよ。あまりにも濃過ぎる』


 との事。そして帰り際には――


『担任として忠告しておくよ。色々注意した方がいい。面倒事に巻き込まれるよ』


 と言われた。


 イオリの言う通りカイは異世界で人を殺している。とは言え悪友と親友馬鹿二人のように積極的に殺した事はない。だが……


(受け継いじゃったからな……)


 カイが友から受け継いだのは友人達の強さと能力だけではない。その記憶や技量、経験、知識すら受け継いだ。……これらは確実に受け継げる訳ではないが。だからこそ彼の今の強さは凄まじい事になっている。ただしそのせいで彼と彼女ら(半分以上性別女性)の殺害人数キルスコアまで継承してしまった。お嬢様であった心友はともかく――それでも幾らかは殺している――他の面々は実戦経験豊富な戦士達。殺害人数キルスコアは二桁三桁にはなる。


 そして問題なのが悪友と親友馬鹿二人。最強を目指す求道者と連続殺人鬼(言葉だけを聞けば恰好良いが実体を聞くと唖然とする馬鹿共)。……もう一人ずば抜けているのがいるが彼女は訳アリなので除外する。と言うか馬鹿二人と一緒にされたら悲しむだろう。きっと。

 どちらも大量虐殺を行っていた二人であり、殺害人数キルスコアは余裕で五桁を超えていた。……特に悪友は六桁に達していた。彼は親友と違い広範囲を高火力で殲滅する技を幾つか持っていたので当然と言えば当然かもしれない。

 ただし殺戮は片や手段、片や目的であるうえ、趣味や嗜好、戦闘スタイルなど全てが真逆。因みにどちらも狂人(凶人?)ではあるが親友は先天的異常者、悪友は後天的異常者である。余談だが、カイも異常者ではあるが、彼の場合は先天的と後天的が混ざったハイブリットである。

 全てが真逆な二人は恐ろしく仲が悪く、正に水と油、炎と氷、犬と猿。会えば会うたびにぶつかり殺し合っていた。……この二人の戦いに巻き込まれ死んだ人も数知れない。実際カイも巻き込まれた事がある。


(俺……なんでアイツらの友人やっていたんだっけ?)


 そんなことを疑問に思う。


「ああそうだ!」


 思い出す。思わず声に出る。

 ……周りの人からはぎょっとした顔で見られた。


 親友とはひょんな事から出会って戦った。両方本気の殺し合いの末――


『その眼……貴方は私と同じなのね』


 お互い戦いを止めて友人同士となった。

 その後はよく食事をしたり話す仲となった。……というか半分同居してた。


 悪友とは偶然遭遇した。そして戦闘となり――


『この勝負、預けるでござる』


 どうにか引き分けの痛み分けに持ち込んだものの殺されかかった。……どっちも真っ二つとなった。お互い回復・再生系の能力を保存ストックしてなかったら死んでいた。

 その後は戦ったり、戦ったり、戦ったりした。


 そんな馬鹿二人との交友はまで続いた。


(俺……よく生きていたな)


 そんな事を思いながら歩く。道中色々買い物をしてから自宅である集合住宅に辿り着く。階段を上がり、自分の部屋の前に立つと――


「……」


 扉を開けずカイはその前い佇む。


(やっぱり誰かいる……)


 かなり前から気づいた事だが誰かがこの部屋にいる。泥棒かとも思ったが悪意を感じない。そしてここのセキュリティはしっかりしているうえ特に取られる物はない。貴重品や金目の物はしているので盗まれる心配はゼロに近い。


「……鬼が出るか蛇が出るか」


 そう言いながら扉を開ける。そこにいたのは――


「よお、カイ」


 浅黒い肌をした長身瘦躯の男だった。黒い髪に金の眼、服装は着崩したスーツ。そして――誰であれ一目見れば強いという事が感じ取れる人だった。彼は――


「師匠!」

「だから師匠じゃねえよ」


 カイの師匠(みたいな人)であるオノダ=リシだった。

 オノダがなぜここにいるかと言えば――


『端末に連絡しただろう?』

『ええ。しましたけど』

『それ見てな、丁度近くまで来たから寄った訳だ』


 との事。

 そういう訳で二人で卓を囲んで食事にする。

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