第54話 鍵の者

 勇者の核に記憶が深く刻まれたことで、その後の世界では、ほとんど全てで記憶を取り戻す結果となった。そして、記憶を取り戻した全ての世界で神に挑戦した。それは、常人から見れば、無謀としか思えず、まともな状態とは思えない程であった。


(あの者は既に正気を失っている)

(なぜ、あのような事を)

(あれでは神には届かないだろう)

(あの者では無理だ)


 勇者他の反逆者達からは揶揄されてしまうほどに、それほどまで絶望的な戦いを勇者は挑戦していたのである。


 神に挑戦した回数だけであれば、英雄など遠く及ばす、4強どころから、他の反逆者達の全員の回数を足しても届かない程に達していた。


「次こそは何か手がかり、次こそは無限の宝箱を、次こそは数多の神の攻略を、次は・・・・次は・・・・」


 勇者は何度も何度も世界に創生され、成長し、挑戦した。


 これは勇者が最も神を憎んでいたからではない。神を倒したい気持ちだけであれば、英雄や4強の方が強かったかもしれない。しかし、彼らは強かった、優秀であった、神に届くのではないか、と思われるほど、才気に溢れていた。故に彼らは神の目に留まり、封印されるまでに至ってしまったのである。


 しかし、勇者は弱かった。目障りとまで思えるほど挑戦であったが、神の眼中には無かった。それは、人の体の中に入った小さな異物が自然と排出または治癒されるようなものであったからである。


「もう繰り返させない、悲しみにの世界を終わらせる!誰かが不幸になることを望む世界なんて間違っている!」


 勇者は生まれる度に、記憶を取り戻す度に、心に、核に刻み込み神に挑戦した。本当は、勇者自身も出来ないと思っているのかもしれない。何度も諦めそうになった事がある。しかし、出来るから挑戦するのではない。実現したい事があるから挑戦しているのである。


 どんなに出来ないと判断される事実があったとしては、それは勇者が挑戦を諦める理由にはならなかった。



 そして・・・・・・勇者は再びある世界で人として生を受けた。まだ自らの足で歩くことすらできない赤子であった。勇者の周りは火の海であった。近くに両親の姿は無く、この赤子は火に飲まれ、無の核に戻るのではないと思われた。


 しかし、近くにいたある者が勇者に触れた。


「ほーーーー、これは・・・・・。ふふふ・・・・ふぁふふふふふふっふぁぁぁぁぁ!」


 その者は勇者に触れると大きく笑い出した。それは何かに気づいた様子であった。


「はぁぁはぁははははは!そうだ!無駄ではなかったのだ!お前の、お前達がやってきたことには意味があったのだ!!いや・・・・・俺が必ず意味を持たせてやる!!」


 その者は後に少しだけ、”鍵の者”、”最強たる者”と呼ばれる存在であった。


 勇者が刻み続けた多くの記憶は、小さな、しかし重要な歯車として、世界を絶望のループから抜け出すきっかけを与えたのである。

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