第50話 心と記憶

 世界は核によって形成されている。多くの世界で共通の認識であった。剣や槍、鉄や水、体を構成する物質の全てが元を辿ると核にたどり着く。それが世界の仕組みであった。


 では、心や記憶は何で出来ているのか。記憶に関しては、核によって構成された頭または脳の中に蓄積された情報であるとされている。しかし、これでは辻褄が合わない。


「なぜ俺は記憶を取り戻せるだ?」


 勇者は様々な世界で記憶を取り戻していた。当然ながら別の体、別の頭、別の脳である。


「しかも記憶という情報だけじゃない、辛かった、苦しかった、悔しかった、その思いも蘇ってくる」


 勇者は1つの仮説を立てた。それは、記憶や心は脳や心臓が構成するのではなく、”核”に保管や蓄積がされているのではないか、というものである。脳や心臓は、あくまで記憶や心を正常に動作させる器であって本体ではない、というこである。


「そうならな・・・・・もしかしたら別の世界の記憶も・・・・・・」


 勇者が取り戻せる記憶は[10の世界の敵]の世界以降で、記憶を取り戻すことが出来た世界のみである。もし、それ以外の記憶も取り戻すことができれば神を打倒する手がかりが掴めるかもしれない。


「仮説に仮説・・・・・いや願望を乗せた妄想かもしれない。だが、他に手が無い以上はやるしかないか」


 それから勇者は自らの記憶を、心を、核を感じる、探ることを重点的に取り組んだ。それは雲を掴むよりも難しいものに思えたが、予想外に簡単に知ることが出来た。


 勇者は自らの核を探ったことで、今まで知ることが出来なかった[10の世界の敵]の前の記憶や、前世の記憶を取り戻すことなく一生を終えた世界の記憶などを手に入れることに成功した。しかも、自らの記憶以外も合わせて手に入れることが出来たのである。


「なぜ・・・・・ジン達の記憶も?核は他人の記憶も保管するのか?」

 その記憶は、かつて神に反逆した者達の記憶であった。なぜ自分の核の中に他人の記憶があるのかわからないが、勇者は全ての記憶を自らの中に取り込んだ。


 勇者は他人の記憶を覗き見たことで、反逆者達と神との長い戦いを知ることになった。


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