第48話 実力

 記憶と力を取り戻した勇者は、人形によって世界が破滅へと導かれている原因を探した。その過程で多くの人形を倒し、以前の世界とは比べ物にならない程に強くなった。


 原因を調査する過程で生き残っていた人にも会うことができたが、出会いは別れの始まりでしかなかった。ほとんどの人々は世界に絶望し生きることを諦めていた。一部の人は生きることを諦めていなかったが、生き残る力が無いものがほとんどであった。


 勇者は出会いと別れを繰り返しながら、さらに強くなった。もはや人形程度では勇者を傷つけることできない状態であった。本来であれば勇者が人々の希望となり、人々を結束させ、導く存在になるはずであった。しかし、勇者が力を取り戻すのが遅すぎたのである。


 勇者が力を取り戻した時には、既に世界の人々のほとんどが死に絶えていたのである。そして、生き残っていた人々も勇者を残して、ほとんどが死んでしまった。それでも勇者は戦い続けた。救うべき人が誰もいなくなった世界であっても、前世の記憶とこの世界での記憶が勇者の心の拠り所であったのである。


 勇者は永遠とも思える時間を戦い続けていた。そして、ついに奴が現れた。


「パンッパカパーーーーーン、おめでとうございます!!!」

 かつての世界で戦った神が現れたのである。

「貴方は、この世界で最後まで生き残った人になりました!!」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「あれーーーー?何か感想はないのですか?あと、私が現れたのに何で動揺しないのかな???あ!もしかしてビックリし過ぎて、言葉が出ないとかぁ???」

「御託はいらない!俺はお前を倒すために、ここまで生きてきたんだ!この世界で起こったことも全て貴様の遊びなんだろ?!!」

 勇者は、剣を神に向けて真っすぐと突き立てた。


「んーーーーー?貴方、私に会うのが初めてじゃあないのかしら??それは凄いはね!なかなかいないわよ!褒めてあげるは!」

「ここで貴様を倒して全て変えてみせる!!いくぞ!!」

「あああーーーーーちょっとまってね!」

「なんだ?怖くなったのか?」

「せっかく最後まで生き残ったのだから、私の庭園に招いてあげるは。こんな何も無い場所じゃあ、寂しいものね!えい!!」


 神が腕を振ると勇者達がいた場所が一瞬で変わった。そこは、かつての世界でジン達と共に最初に降り立った神の領であった。そして、神の姿はどこにも無かった。しかし、声だけは聞こえてきたのである。

『それじゃあ、4つの試練を達成してもらいましょうか。そしたら私が直々に戦ってあげるわ!頑張ってね!!』

「・・・・・・・・・・まぁ、いい。全てを倒すだけだ」


 勇者は最初の試練の門を開けた。扉の先には1人の男らしき者が立っていた。その姿には見覚えがあった。

「おやーーーーーーーーー、これは珍しい、お客人でーーーーすね!」

 そこにいたのは仮面の者であった。

「・・・・・・・貴様が最初の敵か?」

「まぁーーーーーそんなーーーところですーーーー!最初のーーーーー試練は、私を倒すことですーーーーー!」

「ふん、分かりやすくて、ありがたいことだ」

 勇者は臨戦態勢をとった。勇者は数々の戦いで高い力を身に付けており、勇者自身も強くなったこと自認していた。


「それではーーーーー始めましょーーーか!!」

「行くぞ!!うぉぉ・・・・・お?」

 勇者が一歩踏み出そうとした、その瞬間、勇者の手から剣が落ちた。いや、正確には剣を握っていた右腕が地面に落ちたのである。


「!!!!!!!!!うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 勇者は痛みに我を忘れそうになりながらも、冷静に何が起こったの知るために顔を上げ、周りを見た。しかし、起こったことは単純であった。仮面の者に一瞬で近づかれ、右腕を斬り落とされただけであった。


「おやおやーーーー、随分と簡単に腕を落とさせていただけましたね。これは罠ですかーーーー?」

「!!!・・・・・・・・・」

 勇者は驚愕していた。目の前にいる敵は、自分を遥かに凌駕する実力を持った奴であることを理解したのである。

「あれーーーー?もしかして、勝てるとでも思っていたのですか??」

 仮面の者は笑みを浮かべていた。それは、仮面をしていてもわかるほどであった。それは失笑であっただろう。


「自分は強くなった、世界一強くなった、自分に勝てない者はいない、自分は勇者で世界を救う者だから。と、でも思ってましたか?!!!」

 仮面の者は高笑いを始めた。

「はぁはははあははははぁはぁははぁあ!!!大変なお笑い種ですね!!!!!貴方程度の者が世界を!いや、神を倒せると思っていたのですか?!!無理に決まっているじゃあないですか!!それどころから、この試練すら1つも突破できることはありませんよ!!」

 勇者は現実を受け止められないでいた。前世の記憶を持ち、あれだけ戦い、かつての世界よりも遥かに強くなった自分が、まったく歯が立たない相手がいる。それも相手は神ですらない。


「馬鹿じゃあないですか?今の貴方はーーーーーそうですね!あの"英雄"とか呼ばれている部下の1人よりも弱いですよ!!彼らの方が遥かに強かったですね!!」

 勇者は誰のことを言っているのか理解していた。そして、覆し難い実力の差があることも理解していた。しかし、勇者は諦めることは出来なかった。


「うううおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 勇者は落ちていた剣を左手で拾い上げ、仮面の者に突撃した。しかし、一瞬の内に勇者の首や腕、足は胴体から斬り離されてしまった。

「本当に・・・・・弱いですねーーー貴方は」


 勇者は絶命する中で心に誓っていた。必ず、必ず神を打倒すると。

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