第43話 将軍

 最後の敵の討伐のために出撃した将軍等は周辺の敵兵力を無力化して、目的の場所まで到達していた。動員された兵士の多くは生き残っており、その全てを最後の敵にぶつけるべく布陣していた。


「総員!放て!!!」

 最後の敵を包囲し、遠距離武器や魔法に集中砲火を浴びせていた。その火力は、嘗て勇者達が巨人に向けて放った火力を大きく上回っており、大地が消滅するのではないか、というほどの爆発や衝撃が発生していた。


「総員!その身が滅ぶまで、放ち続けろ!!」

 攻撃は止むことがなかった。攻撃を続けることで、反撃を防止しているのか、進軍の足止めをしているのか、考えは様々であったが、確かな認識としては、この程度では最後の敵を倒すことはできないと考えている、ということである。


 攻撃が降り注ぐ中で、爆炎の中より紫の閃光が放たれた。それは、包囲していた兵士達を吹き飛ばすものであり、その攻撃によって多くの兵士が倒れてしまった。

 将軍たちは、その攻撃を掻い潜り最後の敵に対して近接戦闘を仕掛けていた。長剣、双剣、拳によって三方向から同時に攻撃を仕掛けていたが、その全てを魔法や槍によって防がれ、しかも最後の敵からの反撃によって負傷してしまった。


「やはり強いな!」

「こりゃあ、こちら側に来たのは外れくじだったか!」

「愚痴を漏らすな!!総員!攻撃を加え続けろ!!例え倒せなくてもいい!今はとにかく時間を稼ぐんだ!!」


 将軍や兵士達の猛攻は続いていたが、最後の敵に致命傷を与えることは出来ず、兵士達は次々に魔法や槍によって討たれていった。




 街の戦いでは、仮面の者と回復魔法士の将軍等が戦っていたが、戦いは呆気なく決着がついていた。本来は回復しながら戦い、相手の消耗も狙っていくことが出来るはずであったが、実力差があり過ぎていた。1人は一撃で首を落とされ、もう1人は腹を腕で貫かれていた。

「おやおや、この程度でしたか?」

「・・・・・こ、こんなに・・・・・強かったのね。なら、なぜ・・・・・」

「当然ですよーーーーー!私は、道化っぷりが面白くて神に仕えることができたのですが、最低限の強さが無ければ、まず認められることはないですかーーーーらね!」

「・・・・・・ふっふ、でも・・・・・・それもここまでよ!!」

「お?」

 その時、将軍は仮面の者の腕を掴み自爆した。


「ふぅぅーーー。全く無茶をしますね。街ごと私を吹き飛ばそうーーーーとするとは」

仮面の者は爆心地の中心にいたが、僅かに傷つくのみであった。

「さて、次はーーーーー!あそこだ!!」


「?!!」

 ティアやレイナは後方で起こった爆発に気を向けたが、その一瞬の隙を後悔した。

「危ない!!」

 剣の者がティアに向けて叫んだが、一歩遅く、ティアは仮面の者に後ろから斬られてしまった。

「ティア!!!」

「このぉぉぉーーー!!!!!」

 すぐにティアと仮面の者の間に剣の者が割り込み、攻撃を仕掛けていた。レイナはティアに近づき、状態を確かめた。


「ティア!大丈夫?!ティア!!」

 ティアは息はあるものの、後ろから斬られた傷が深かった。短剣を用いて戦っていた従者のような将軍も近づき、魔法による応急処置を実施したが、本格的な治療が必要な状態であった。


 仮面の者と剣の者の戦い続いており、一進一退の状況であった。

「総司令を連れて城の方にお下がりください!ここは私がなんとかします!!」

「しかし!!」

「大丈夫です!私は、主の部下の中で最強を自負しております!この者程度に遅れはとりません!そこの者と一緒に、さぁ早く!」

「行きましょう」

 応急処置を完了した短剣の者がティアを抱きかかえ、レイナに移動するように促した。

「・・・・・・・わかりました。ティアを安全なところまで運んだら、すぐ戻ってきます!それまで、耐えてください!」

 レイナと短剣の者はティアを連れて後退した。


「いいのですか?1人でーーーー?それとも、別の場所で戦っている者達を呼んでも、私は構いませんよーーーーー」

 街にいる健在な将軍は存在したものの、既に半数が出撃してしまったうえに、総司令であるティアが離脱したことで、兵士達の指揮や防衛に手一杯の状態であった。

「問題ありません。先ほども言った通り、私は我が軍最強です。貴方程度に遅れをとるつもりはありません!!」

「それはそれはーーーー。では、楽しませて貰いましょうか!!」

 仮面の者と剣の者の攻撃の応酬を続いていた。



 最後の敵と戦っていた者達は将軍を残して全て討たれてしまった。しかし、将軍達の士気は衰えていたなった。

「はぁぁぁ!!」

「おらら!!!」

「うぉぉぉぉ!!!!」

「はぁ!」

 長剣、双剣、盾、拳、魔法、そして剣、様々の攻撃をが最後の敵を襲っていたが、その全てを防いでいた。将軍達は確かに強かった。それは、最後の敵を倒した時の勇者の実力を遥かに凌ぐものであった。しかし、最後の敵を倒すことは出来ないでいた。


 長剣の者は粉々に切り刻まれ、双剣の者は体内部から爆発させられてしまい、盾の者は盾ごと一刀両断され、拳の者は攻撃を受け止められたところで拳も頭も握りつぶされてしまった。


 浮遊魔法士は紫の閃光によって片腕、片足を吹き飛ばされてしまったが、ギリギリのところで生きているものの、戦闘継続は難しい状況であった。


 司令官の将軍も既にボロボロであり、体力も魔力も底をつきかけていた。しかし、それでもなお戦いを止める気配はなかった。最後の敵は不思議そうに問いかけた。

「わからんな。なぜ戦いを続ける。勝てないことはわかっているだろうに。時間稼ぎにしても無駄だ。神を倒すことが出来ないのだから、全て無駄だろう」

「・・・・・・・ふふふぅ。・・・・・・俺もわからんな」

「既に正気ではなかったか。もはや冷静な判断も下せないとは」

「・・・・・俺から見たら、なぜ貴様がそんなことを言うのかわからないな!!神を倒せない?誰がそんなことを決めたんだ?!そして、今神に挑んでいる者達は最強の布陣だ!!勝てない道理はない!!そして!!!!」

 将軍は剣をまっすぐ世界の敵に向けて言った。


「俺が負けていいのは世界で、全ての世界でただ1人だ!!そして、それは貴様ではない!!!故に俺は貴様に勝つ!!!」

「・・・・・ふん、戯言を。まぁ、良い。もう少し実力差というものをわからせてやる」

 最後の敵は将軍達の献身によって、未だ足止めをされている状態であった。



 仮面の者と剣の者の戦いは決着がついた。剣の者は城壁に背中を預け、空を見上げていた。

「いやーーーーーなかなか面白かったですよーーーー!流石は最強の騎士ですね!」

 その近く仮面の者が歩いてきた。剣の者の四肢は全て切り離されていた。既に剣を持つことも立つこともできない状態であった。剣の者の近くには、別の3人の将軍の首が転がっていた。異常を察知して救援に来たが、仮面の者の実力に及ばすに討ち取られてしまったのである。将軍や多くの兵士が仮面の者に討たれたことで、戦線は崩壊してしまい、既に街の城壁は破られてしまっていた。


「・・・・・・き、貴様は・・・・・げぇほ!・・・・・あの・・・・方達の命も取るのか?!」

「誰の事を言っているのか知りませんが、全員死んでいただきます」

「・・・・・そ、それだ・・・けは、それだけは・・・・・・やらせ、ぐふぅ」

 剣の者は仮面の者によって心臓を貫かれていた。

「・・・・・・もう黙りなさい。貴方達の負けです。もう、この世界は終わりなんですよ。だったら・・・・・・だったら私の手で!!!!!」

 仮面の者は静かに城の方へ向かった。

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