第42話 相対

 勇者達は神のもとに到達していた。

「よく来たわね!褒めてあげるわ!これほど早く来るのは、流石!といったところかしら」

「貴様の準備した試練なんざ、余裕よ!障害にすらならねぇな!なぁ、ジン!!」

 勇者がいつもの軽口で答えたが、ジンの返事はなかった。先ほどまでであれば、ジンが返答するか、ムーが毒舌を飛ばしてくると思っていたが、どうやらその余裕は無くなっていたのである。


「なぁぁに?このゴミムシも連れてきたの?」

「はぁ?!!誰の事をいっているんだ!!!」

「貴方よ、貴方。なぜ、貴方のような弱者が神のもとに来ているのかしら?役に立たない事なんてわかっているでしょ?」

「すざけんなぁ!俺は勇者だぞ!世界を救う者だ!役に立たないわけないだろ!!」

「勇者ねぇ、それは私が選出してあげたこと位わかっているのでしょう?しかも、特別な力も与えていたのに、あの体たらく。私もなんで、こんな弱い奴を勇者にしたのかしらね」

「うるせぇ!それでも、俺は世界を救ってみせる!!世界の敵との戦いのように!!」

「貴方・・・・・・・まさか、自分の力で世界の敵を倒したと思っているの?はははははっはあっははあはははっは!お笑い種ね」

「何が言いたい?!」

「そう設定していたのよ。でなければ、そこにいる者達があんな簡単に倒せるわけないじゃない。まぁでも本当だったら、もっと簡単に倒せるはずだったのよ、勇者ならね」

「なんだと?」

「貴方がもっと本気でやれば、全員簡単に倒せたってこと。でも、逆に貴方が迷ったおかげで、あんなに面白いものが見れたのだから感謝しないといけないか。弱くてありがとうね!」

「てぇめ!!!」

「コール、挑発に乗るな。あいつは俺達を弄ぶことを楽しんでいるだけだ。気にすることはない!」

「くそ、わかっているよ!」


「あらあら、お優しいことで。あんなことをさせられたのに怒っていないのかしら?」

「怒っているさ。だから、ここまで来た。お前をぶっ倒す!!!」

「まぁ、がんばってやってみなさい」

「言われずとも!!!」


 その時、既に巨人の剣が神に当たる寸前であった。予備動作を含め、巨人の動作は神速の域であると思われた。そして、その巨大な質量と莫大な核の力は神を消滅させるに十分であると思えた。


 しかし、神は難なく巨大な剣を片腕で受けとめた。それと同時に、ジンが正面から、リオが後方から剣による攻撃を仕掛けていた。神も反応しており、障壁魔法が既に展開されていたが、ジン等の剣が魔法と衝突する前に障壁魔法は消し去られていた。ムーが展開した瞬間、いや展開する前から魔法が解除されるように仕掛けていたのである。


 ジンは神の腕を、リオは神の胴体を切り裂いた。そして、受け止める物が無くなった巨人の剣は振り下ろされると同時に全てを消し去る光が輝いていた。それは凄まじい爆発を伴うものであった。

「うぉぉぉぉぉ!!死ぬーーー!!」

 勇者は爆発によって吹き飛ばされそうになるのを、岩にしがみ付いて耐えていた。


 爆発が収まると、そこにはジンやリオ、巨人やムーが立っているのみであった。神は跡形もなく消滅したようであった。

「やったのか?ジン!!」

「・・・・・・・・・・・いや、そんなことはない」

 ジンが空を見上げたので、勇者も同じところを見ると、そこには神が浮いていた。しかも、先ほどジンが切り裂いた腕も、リオが切り裂いた胴体も、巨人が押し潰した力も全て無かったかのごとく、無傷の状態であった。


「マジか!あいつ無傷かよ!!」

「やるわねーーーー。今回は楽しめそうだわ。でも、このままじゃあ、ちょっと厳しいわね」

「コール。おそらく、これからは援護が出来ない状態となると思う。だから頑張って生き残って欲しい」

「あ?まぁ、問題ないが。ジン達なら余裕なんじゃあないか?あいつ1人くらい」

「・・・・・・・・1人ならな」

「え?」


 神が腕を横に振ると、周辺の空間が歪みだした。

「あいつ!味方を呼ぶのか?!!」

「味方か・・・・・・まぁ、その表現は正しいかもな」

 歪みから現れたのは、神と同じ者であった。

「え?神が2人??」

「もっとよく見ろ、2人どころの話ではない」

 全ての歪みから神と同じ者が現れたのである。その数は空を覆う程であり、数えるのが馬鹿らしくなるくらいであった。


「おいおいおいおい!なんだよ、あの数は!!どんだけ、いるんだよ!!あれが全部神なのか?!!張りぼてだったりしないのか?」

「・・・・・・・全員神だ。まぁ、神と同じと思って問題ないだろう」

「本体とかいるんだろ?!そいつを倒せばいいんだな?!」

「本体・・・・・か。果たしているのだろうか。残念ながら、様々な方法を試したことがあるが、全部同じ個体としてしか認識は出来なかった」

「まさか!!あれを全部倒さなければならないのか?!!」

「とりあえず、そんなところだ」

「くっっそーーーー!やってやろうじゃないか!!」


「話は終わったかしら?じゃあ、行きますわよ!!」

「くるぞ!!」

「おう!!」

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