第41話 防衛

 街に残ったティア達は防衛のための準備を進めていた。既に偵察から最後の敵が根城としていた周辺に、先の戦いと同様の敵が出現したことが報告されていた。最後の敵の時と異なる点としては、その者達が街の方角に進軍しているとのことである。


 既に周辺の村や町の住民の避難は完了しており、ほどなくして神が遣わした敵に対する準備が完了した。


 街に進軍してきた敵は大軍であったが、戦いは優位に進んでいた。先々の戦いで生き残った兵士や魔法士、ティアやレイナの働きも大きかったが、ジンが呼び出した軍隊および13人の将軍の実力が桁違いであった。


 それは、直接戦ったことがあるティアも驚くほどであり、確かに力を封じられていた。いや、力を封じていたという言に偽りはなかったのである。


「ぐぉぉぉぉ!!!!」

 敵の中には世界の敵として戦った怪物や騎士、魔法士なども混じっていた。

「はぁぁぁぁっ!」

 しかし、将軍等の敵ではなかった。攻撃、防御、回復、索敵など全ての面で優れた力を発揮していた。


 ティアは複雑な心境であった。かつて街を破壊し国民や兵士等を殺し尽くそうとした力が、今は味方として人々を守護している。敵の時は恐ろしく、勝つことが難しかった者達が、味方となり頼もしい存在であった。


 戦いの優勢さにティアは口を緩めたが、その余裕は一瞬で打ち砕かれてしまった。敵の後方から巨大な力が近づいて来る事が感知できたのである。

「これは!!!!」

 それは過去に感じたことがある力であった。その力は最後の敵が発生して力に似ていた。似ていない事としては、その力の大きさである。感じられる雰囲気は同一でありながら大きさは、もはや別物と言っていいものであった。



「総司令、意見具申をお許しください」

 ティアの近くに1人の将軍が近づき、ある提案を持ちかけてきた。

「軍を分け、あの怪物に・・・・・最後の敵に対処したいと考えております」

 その将軍は、ジンが呼び出した軍隊の全体指揮ならびに司令官の役目を果たしている者であった。

「そんな作戦は採用できません。軍を分けるなど各個撃破の良い的になるだけです」

「もっともな判断です。しかし、あの敵を街に近づければ、その余波だけで多くの民が犠牲になる可能性があります。さすれば、街から離れた位置で戦わなければなりません。出撃の御許可をください」

「しかし・・・・・・あの敵の中に出撃するのであれば、ほとんどの者は生きて帰れませんよ」

「もとより生き残る事は考えておりません。・・・・・・・我々が犯した罪は重々承知しているつもりです。少しでも償いをさせてください!」

「・・・・・・・・わかりました。しかし、必ず生きて帰還してください。あなた方の力は街の防衛には不可欠です」

「は!承知しました」


 司令官らしき将軍は、自分を含めた6名の将軍とその部下たちを選抜し最後の敵を討伐すべく敵の真っただ中に出撃した。出撃した将軍は長剣、双剣、盾、浮遊魔法士、拳の者等であった。いずれも勇者達を苦しめた豪の者であり、最後の敵を討伐するには十分な実力を備えていると判断されていた。


 防衛に残った将軍は剣や短剣の者等、7名とその部下たちであり、数を大きく減らしたが、戦況の優勢は変わらなかった。

 特に剣の者の活躍は凄まじいものであった。その者は金髪の長い髪を持った女騎士であり、黄金の鎧と赤いマントを身にまとい、剣を青く輝かせて戦っていた。その剣技は複数の剣を持っているのではないか、と思わせる程の速さであった。また、短剣の者や長弓の者、浮遊魔法士の攻勢は敵を圧倒しており、傷ついた者達も2人の別の将軍の手によって次々に治されていった。


 戦況は圧倒的な優位を保っていた。奴が現れるまでは。

 街の後方で負傷者の治療にあたっていた部隊の中に奴は現れた。その剣技は一瞬のうちに周囲にいた者達を切り刻み、対応する隙すら与えなかった。すぐに近くにいた2人の将軍が異常を察知し、救援のために現地に到着していたが、焦りの色を隠せていなかった。

「貴方は!!!」

「はーーーーい!お久しぶりでーーーーーーす!」

 そこにいたの仮面の者であった。

「道化がこのような場所で何をしている?!」

「はいはい、私は道化です。そのために、戦いを面白くしなければなりません。しかし、現状は圧倒的優勢でーーーーーす!これでは面白くありませーーーーーん。そこで、私自らあなた方を殺してしまうことにしましたーーーー!」

「戯言を!私達が簡単にやられると思ったら大違いです!」

「まぁ、その方が面白いですねーーーーー。精々頑張ってください!!」

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