第39話 出陣

「こいつがリオっていうのか?!」

 勇者は驚きを全く隠せていなかった。

「そうだ、俺達は力を大きく封じていたが、リオは封じすぎて無力な子供となってしまったようだな。解放されたことで本来の力が戻り、力を十分に発揮できる肉体、つまり今のような好青年になったわけだ」

「好青年って・・・・・すげぇ、イケメンだな!あの可愛らしかったリオが、こんなイケメンになるなんて、お兄さんはうれしいよ!」

「そんなことはどうでもいい!話を続けよう!」

「なんだーーーー。リオ、照れているのか?」

 勇者とジンがリオをからかっているとムーが口を挟んできた。


「そろそろ、本題に移って欲しいですね。あまり時間はないと思いますが?」

「はっはっは、そうだな。それに、お越しになったようだしな。なぁ、神よ!」

 ジンがそう言うと、周りの者も一斉にジンが見ている方向に目を向けた。そこには、いつからいたのかわからないが、ジン達を召喚したあの女、神がいたのである。


「あらあらーー、気づいていたのね。せっかく談笑中に1人殺してみようと思ったのにーーー、残念!」

「ほぉー、ではここで決着をつけに来たのか?」

 ジンの言葉に、その場にいた全員が戦闘態勢をとった。


「いやいやーーー、結構面白い展開だからこのまま続けてもらおうと、思います!」

「続けるだと?!何言ってんだぁ、てめぇは?!」

 勇者は自分達を弄んだ張本人が目の前にいることで、冷静さを失っていた。


「別に難しいことではないなわ。この世界を滅ぼすだけよ。そうねぇ、せっかくなので世界の敵の皆さんに実施していただきましょうか」

「滅ぼすだと!馬鹿か、てぇは?ジン達は既にこっちにいるんだぞ!」

「問題ないはーーー、残りの者達でも十分に滅ぼせるでしょ。なんせ、今回は勇者特権は解除するからね!」

「勇者・・・特権?」

「まぁ、貴方に言っても理解できないでしょうねーーー、そこら辺にいる人たちに、あとは聞いてね。私は上で待ってるから、私と戦いたかったら来ることね。その間に世界が滅んじゃうかもしれないけど!」

「な!待て!!」

「じゃあね!」

 神は消えてしまった。


「おい、ジン。あいつを無傷で行かせてよかったのかよ?!ここで倒した方が良かったんじゃないのか?!」

「あれはただの影だ。倒したところで意味はない」

「くそ!そうかよ!!しかし、どうするんだ」

「・・・・・神のいる場所まで赴き、奴を倒すだけだ」

「だが、街の方はどうするんだ?あいつの口ぶりじゃあ、街を破壊に来る奴らがいるんだろ?」

「そちらは大丈夫だ、俺の仲間達に守ってもらう」

「ん?仲間って誰のことだ?流石にレイナやティアだけじゃあ厳しいだろ」

「少し待て、今呼ぶ」


 ジンは目の前に広がる平野に手を向けた。そして、手を向けた空間が大きく歪みだした。歪みからは歩兵、騎兵、弓兵、魔法士など兵種を問わず、多くの者達が現れた。そして、彼らの前に13人の将がおり、ジンからの指示を待っているようであった。


「・・・・・すげぇぇぇ数だな!こんな大軍を隠し持っているなんて

やるじゃん!」

「彼らに街や地上は守ってもらおう」

「数は十分だと思うだし、人形みたいな雑兵相手は問題ないと思うが、世界の敵は単体でも強いぞ。こいつらで大丈夫か?」

「ああ、彼らは強いぞ。手前にいる13人は特にな。コールも戦ったことがあるはずだ」

「はぁ?そんなことあったか?」

「あの黒い人型の奴らだ」

「な!あいつらかよ!!それはつえぇな」

 ティアはジンの話を聞いて複雑そうな顔を浮かべた。


「・・・・・・信用できないか?」

「・・・・・いえ、そういうわけではありません。ただ、ソーラのことを少し思い出しただけです」

「・・・・・・・ソーラやルージュやクルルなどには悪いことをしたと思っている」

「・・・・・全てを納得できたわけではありませんが、今は貴方を信じています。街を、世界を守るためには必要であると」


 話を聞いていたムーが口を挟んできた。

「ふぁっふぁっふぁ、私は反対ですね」

「な、なんでだよ?ジンが連れてきた奴は信用できないっていうのか?!」

「信用?いいえ、信用はしていますよ。なんせ英雄の麾下の者達です。しかし、その者達を地上に残すことに反対ですね」

「・・・・・・・お前が反対するのは意外だな」

「当然でしょう、相手はあの神ですよ。少しでも勝てる確率を上げるために、この者達も連れていくべきでしょう」

「貴様!街の人間がどうなってもいいのかよ?!」

「神に勝てなければ同じことです。地上だけ勝利を収めても、次なる神の使徒が破滅へと導くだけです」

「しかし、俺達が神に勝利しても、守りたい者を守れないのであれば価値はないだろ。お前がもっとも気にするところだと思うがな」


 ムーは苦虫を嚙み潰したような顔でジンに食って掛かった。

「私は、私はなんとしても神を打倒しなければならない!そのためなら、どんなことでもやりましょう!!この者らを残しても、英雄無き状態では大した力を発揮することはできまい!結局は地上は滅ぶ!!ならば、神との戦いに全てを掛けるべきです!!」

 沈黙を守っていたジンの麾下の将達が、一歩前に出てムーに反論した。


「ご命令いただければ、必ずや街を、地上を守ってみせます!この命が燃え尽きるまで!!」

「ふん!口では何とでも言える。貴様らなど英雄の指揮下で無ければごみ屑も同然ではないか」

「な!!!」

 将達は剣を抜こうとしたが、ジンが静止した。


「・・・・・・・ムー、この状況であれば、本来はお前自身の手で地上の守りを固めたいことだろう。だが、我々にはやる事がある。それでも、それでもなお守りたい者があるはずだ!俺達が、俺達であるために!!彼らに任せては貰えないだろうか」

「・・・・・・・まぁ、いいでしょ。私が神をさっさと倒せばいいのですからね。それで、神に挑戦するのは我々4名ですか?」

「ああ、それと・・・・・・コールも一緒に来てくれるか?」

「もちろんだ!!何て言ったって俺は世界を救う勇者だからな!絶対行くぜ!」

「・・・・・・ジン」

「レイナやティアはこの者達と一緒に街を守ってくれ。なぁに大丈夫さぁ!すぐ帰ってくる!」


 ジンがレイナをなだめている隣で、ムーがティアに向けて頭を下げ、1つのお願いをしていた。

「姫様、行ってまいります」

「ええ、ジンや陛下をお願いするわ」

「かしこまりました。あと1つ、お願いがあります」

「なんでしょうか?」

「私に、”勝て”と御命じいただけないでしょうか。神を打倒せよ、と」

「・・・・・・・・理由はわかりませんが、承知しました。ムーよ、必ず神を打倒し私のもとに帰ってきなさい!」

「は、ありがたき幸せ!必ずや神を打倒致しましょう」

 ムーは頭を垂れた状態で返事をしたため、周囲にはわからなかったが、目を熱くしていた。


「そろそろ向かおう」

 区切りをつけるためか、リオが全員に向かって言った。

「ああ、そうだな」

「それでは姫様、再会を楽しみにしております」

「へっへっへぇ!腕がなるぜ!神の野郎、覚悟しとけよ!!」

 全員の準備が出来たことを確認すると、ムーが指を鳴らした。


 次の瞬間には勇者やジン、リオ、ムー、巨人の姿が消えていた。残されたレイナやティア、ジンの仲間達は空を見上げて彼らの無事を祈っていた。ティアは次なる戦いに向けて気合を入れなおし、眼前に広がる軍隊に向けて言った。

「指揮系統を統一します。諸将は私のもとに集まってください。すぐに対策を会議を実施します!!」


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