第36話 賢人と英雄
「あぁん?!」
勇者とジンの間に突如ティア、レイナ、そして7番目の敵であった老人が姿を現した。
「!!」
ジンの先程までの勇者との戦いの際に見せていた余裕は、現れた老人によって掻き消されていた。老人は勇者達を庇うようにジンと相対していた。その顔には余裕の笑みを浮かべる様子であった。
「コール!!大丈夫?!」
レイナとティアが勇者のもとに近づき様子を伺った。
「陛下、ご無事で何よりです」
「ああ、なんとか生きているが・・・・・・あいつ、前より強くなってやがる。全然勝てる気がしない」
「ジン・・・・・」
老人はジンと向き合ったまま、ティアに問いかけた。
「姫様、あの者は抹殺してしまってよろしいですか?」
「な!何言ってんだあいつは?!ジンを殺すだと!!」
「・・・・・・ええ、構わないわ。可能であれば生かして捕らえてもらえないかしら」
「かしこまりました」
老人はゆっくりとジンに向かって歩き出した。
「おい、いったいどうなってるんだ説明しろ!あいつは7番目の奴だろ?!大丈夫なのか?」
「陛下、少し落ち着いてください。正直、我々にもよくわかっておりません。先に陛下の怪我を治しましょう」
老人がゆっくりとジンに向かって歩いていると、ジンが老人に向かって問いかけた。
「・・・・・・裏切った、ということか」
「ふぁっふぁっふぁ、そんなことはありませんよ。あるべき姿に戻っただけのこと」
「なら、殺すのみだ。お前は世界の異物となったのだから!」
「異物・・・・・ですか、そうですね。正しい表現かもしれません。しかし、それはあなたも同じはずですよ、"英雄”殿」
老人がジンの間合いに入ったため、ジンは一刀のもとに切り伏せた。切り伏せられるはずであった。しかし、老人は無傷で立っており、ジンも焦りの色を隠せていなかった。老人は片手で剣を掴みとめていたのである。
「ふぁっふぁっふぁ、弱いですね。なんと弱い事か。これが貴方の力とは思えません。まぁ、でも良いでしょう、好都合です」
ジンは老人の剣を老人の手から振りほどき、2歩、3歩と後退した。
「姫様からの指示は捕らえろ、とのことでしたので」
「・・・・・私を捕らえるだと。馬鹿なことを。殺すことすらできないのではないか?」
「ええ、本来であればそうでしょう。しかし、今のあなたであれば私の敵ではないですね」
「なら、そう思ったまま死ぬがいい!」
ジンは言い終える前に老人の後ろに回っていた。それは、外から見ている者にとっては一瞬のことであり、ジンは瞬きより速く動いたようであった。しかし、ジンは剣を振り下ろす前に、老人が放った衝撃波によって吹き飛ばされてしまった。
ジンは致命傷は負っていない。しかし、その顔色は悪くなるばかりであった。
「ふぁっふぁっふぁ、そうですね。私がどう思うのも、貴方がどう思うのも自由です。しかし、現実を直視できない者は勝負に勝つことはできませんね」
「では、これならどうだ!!」
ジンは数十発の魔法を一度に放った。その攻撃を受ければ、どんな者でも跡形もなく無くなる勢いであったが、老人はその全てに対して同様の魔法を撃ち込み相殺したのである。
「ふぁっふぁっふぁ!!!私に魔法勝負を挑むのですか?!いいでしょう!!受けて立ちましょう!私が持つ全てを注ぎ込んであげましょう!!!」
ジンと老人は互いに宙に浮き、激しい魔法の撃ち合いが空を覆った。その光は眩く、とても魔法のようには思えなかった。綺羅星のごとく発生する魔法の数々は、空に様々な宝石を散りばめたような景色であり、発生する爆発や魔法の軌跡はネックレスや指輪のようであった。
「ふぁっふぁっふぁ!!!質も!!量も!!思いすら!!貴方は私に及びませんよ!!」
「っく!くそ!」
老人の猛攻にジンは防ぎきれず複数の魔法の直撃を受けていた。ジンは魔法を放つ中で、老人への急接近を実施して間合いを詰め、近接戦を仕掛けていたが、それすらも魔法によって防がれ逆撃を受けている状況であった。
「あの爺、無茶苦茶強かったんだな・・・・・」
「・・・・・そうですね」
「・・・・・・あれは味方なのか?」
「わかりません。ただ、巨人を止めたのも、陛下を助けたのも、今目の前でジンと戦っているのも事実です」
「・・・・・・ジン」
勇者達はそれぞれの思いを抱きながら戦況を見守っていた。
「さぁ!準備は整いました!これで終わりです!!!」
老人が叫ぶと上空から豪雨のように魔法が降ってきた。ジンは障壁魔法を張って防いでいたが、耐えきれるものではなく、直撃を受けてしまった。
ジンは勇者達がいる場所に落下してきた。そして、老人も相対するように降りてきた。
ジンは立ち上がると老人に向かって言い放った。
「・・・・・・どうした!俺はまだ生きているぞ!これで終わりか?!」
「ええ、これで終わりです」
「な!!!」
老人が指を鳴らすと、ジンは何かに縛られ身動きか取れずに倒れてしまった。
「意外と苦労しましたよ。貴方を殺さないように戦いつつ罠を張るのは」
「この程度のこと!!さっさと破って・・・・・・」
「出来ないでしょうね、確かに貴方も同様の魔法が使えるようですが。所詮は私の模倣!中途半端な魔法しか使えない者には、それを破るのは不可能です!」
「く!」
「まぁ、本来の”英雄”であれば、それでも破ったでしょうが」
老人はティアの近くで跪き報告した。
「姫様、御命令通り奴を捕らえました」
「マジかよ・・・・」
「・・・・・ええ、ありがとう。所で貴方は自分は解放された、と言っていたわね」
「はい、その通りです。姫様の力によって解放されました」
「私の?」
「ふぁっふぁっふぁ、細かいことは、お気になさらないでください。少なくとも姫様がいなければ、私は解放されることはなかったでしょう。おそらくは、あの者と同様に人々を殺して回っていたことでしょう」
「貴方は、貴方達は何かに支配されている、ということかしら?」
「はい。そして、あの者も、そして巨人なども同様です」
「やっぱり、ジンはやりたくあんな事をしていたわけじゃないだな!おい、爺!ジンも解放する方法はないのか?」
老人は勇者の問いかけを無視していた。
「おい!聞いているんだろ、なんとか言えよ!!」
勇者が老人の肩に触れようとした。しかし、老人はその手を掴み、睨み返した。
「うるさいゴミムシですね!!捻りつぶしますよ!!!」
「ひぃぃ!」
「やめてください」
老人は掴んだ手を離した。
「ジンも解放する方法はありますか?」
「私に御命令くだされば、すぐにでも解放致しましょう」
「え?!」
「出来るのかよ!!」
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