第33話 終わりの始まり

 世界の敵は勇者によって倒された。その情報は世界中を駆け巡り、人々を歓喜の渦に巻き込んだ。世界は救われた。誰もが願った平和が訪れる。そう信じて疑わなかったのである。




「・・・・・なぁ?」

「・・・・・なんでしょうか?」

「世界は平和になったんだよな」

「その通りです。勇者様の活躍によって世界は救われました」

「・・・・・・・そうか」

「・・・・・・・休憩はそのくらいにして早く仕事に戻ってください。王様」

「わ、わかっているよ!少しは余韻に浸ってもいいじゃないか!」

「それは結構ですが、やることは山のようにあります。少しづつでも進めてください」

「わかった、わかった。やるよ」


 勇者は最後の敵を倒した後に国の王様に就いていた。勇者は国の英雄であり、世界を救った者として国民から迎えられていた。初めは勇者も断っていたが、国民の希望となるために一時的にでも国王として国を救ってほしい、とティア達に説得される形で就任していた。難題などはティアを中心とする生き残った貴族達に任せており、勇者は人々の鼓舞や見舞い、演説などによって挫けそうな国民の心を支えていた。


 レイナはあれから口数は少なくなったが、少しづつ立ち直り、事務作業などでティアの手伝いをしていた。勇者とは話さないわけではないが、互いに気を使う形となり、よそよそしいやり取りが行われる程度であった。


 ティアは最後の敵との戦い以降で、最も働いた人であると言えた。勇者を旗印として、国内の調整、各国との外交、国家の復興計画、勇者のお目付けから戦いや厄災によって家族を失った遺族への対応まで、各種の仕事を実施していた。おそらくは何人もの人が何年も掛けてやることを実施していたのである。ティアは残された者としての責務を果たすことを心に誓っていたのである。



 ある日、勇者はレイナとティアを伴って街に着ていた。それは復興計画の内容についてティアより説明を現地で受けるためである。9番目の敵による厄災によって街のほとんどは崩壊してしまっていたが、安易に元に戻すのではなく、より効率的な都市機能を持たせるための変更点をティアから説明されたのである。


「以上が復興計画になりますが、何か質問はありますか」

「・・・・・・いや、特にない!」

「・・・・・・聞いていました?」

「き、聞いてたよ!?」

「はぁ、まぁ陛下が把握していなくても問題はありませんが。帰ったら計画の概略を渡しますので、もう一度しっかり読んでください」

「・・・・はい」

「今日はいつにもまして集中力がないですね。どうしましたか?」

「・・・・ここは・・・・前に皆で買い物に出て5番目の敵と戦ったところだな、と思ったんだ」

「ああ、そういえばそうですね。既に見る影もありませんが、よくわかりましたね」

「俺は外に出る機会も少なかったし、皆で一緒に外に出たのはあの時くらいだったからな」

「そうですか」

「あの時はルージュやクルルもいて、ソーラや・・・・・ジンも」

「っ!」

 一緒に来ていたレイナは、唇を噛みしめ下を向いてしまった」

「ああ、すまん。別にジンの事を思い出させたかったわけじゃないんだ。ただ、あの時はよかったなぁって、思っただけだ」

「・・・・・懐かしむのは悪い事ではありません。しかし、私達は今を生きています。亡くなった人のために前を向いて進むしかありません」

「そうだな!うん!! 頑張らないとな!」

「ええ、ですから帰ったらしっかりと計画書を読み込んでくださいね」

「はっはっはっはぁぁーー・・・・・わかりました」


 勇者達が帰ろうとした時、何処からともなく声が聞こえてきた。

『つまらない・・・・・・』


「え?何かいったか?」

 勇者は振り向き問いかけたが、ティアもレイナも首を横に振った。


『つまらない・・・・』

「!?だれだ!!」

 勇者はただならぬ気配に身構えてしまった。


『つまらない!つまらない!つまらない!つまらない!つまらない!!!!!!』

 勇者達の間の前が突然歪み、歪みの狭間から1人の女性が現れた。女性は20代前半くらいの可愛らしい容姿で、髪は輝くばかりの黄金色でありながら、地肌は黒く、目は赤かった。


「な、なんだお前は?!」

「つまらない!!なに、これで終わりなの!!はい、世界は平和になりましたってぇ!!!何が面白いのよ!!まぁ、面白さが主目的の世界では無いけれど、これで終わりはつまらなすぎる!!」

「何言っているんだお前は?!」

「陛下、お下がりください!!この者は危険です!!」

 ティアとレイナが勇者を庇うように前に出た。


「つまらないのでーーー!!延長戦といきまーーーーす!!!どおぉぉぉん!」

 勇者達の後ろで大量の煙が発生した。勇者達は突然のことに驚き、後ろを振り返ると愕然としてしまった。


「うそ・・・・だろ?」

「え?」

「なんで?」

「・・・・・・また会ったな・・・・勇者」

 そこに立っていたのは倒したはずの9番目の世界の敵であるジンであった。

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