第32話 最後の敵
9番目の敵であるジンが死んだことで、街中を跋扈していた怪物達や人型の敵は姿を消した。街の死者の数は住民の9割を超え、生き残った者も怪我を負っていないものがいない程であった。勇者とティアは生き残った者達の救助に心血を注いだ。レイナはジンを刺したことに対する悲しみから寝たきりとなっていた。
周辺に救援を呼びかけたことで判明したが、他の街や国でも同様の厄災を受けており多大な犠牲が発生したことがわかった。他の場所では怪物のみの出現であったが、その数は駐屯していた兵士達の数の超えており、各地で重要な役職を担う人材が命を落としていた。
勇者が在籍している国では、ほとんどの王族や貴族、国民が殺されてしまい、国家として成り立たないと判断される程の被害を受けていた。残された者達は復興に着手しようとするのも束の間、最後の敵、10番目の世界の敵が現れたのである。
10番目の敵は、今までの敵と異なり明確な宣戦布告を各国に実施した。
10番目の敵は勇者が滞在している街から近い砦を一夜にして陥落させ、そこを拠点として巨大な魔法を使用して、各国に呼び掛けたのである。
『我は最後の世界の敵なり、9番目の敵まで退けた勇者および各国の国民に敬意を表する。これが最後である!我に挑んでくるがよい!我はここで待つ。今より10日を超えても我を倒せない時は、この世界は終焉を迎えるであろう。9番目の敵の時よりも更なる地獄が貴様らを待っている!さぁ、急ぐがいい!!貴様らに時間は無いのだから!!』
勇者とティアは残された兵士や魔法士を結集すると並行して、各国に協力仰いだ。最後の敵が待っている砦には無数の人型人形がおり、偵察に行った兵士達が殺されてしまったのである。人形は並の兵士より強く、現状のままでは最後の敵の元に着くことすら難しかった。
協力を仰いだ各国ともに怪物達の襲撃によって多くの兵士や魔法士を失っていたが、動員できる最大の数を集めることに成功した。誰もが9番目の時の厄災を繰り返したくないと願っていたのである。
各国の軍勢を取りまとめ、最後の敵が待つ砦に到達した時には既に9日が過ぎていた。この機を逃せば再びあの厄災が世界を覆う。参加した兵士や魔法士は覚悟を決め戦いに臨んでいた。
敵側の人形の数は多く、勇者達が動員できた倍の数は存在しており、まともにぶつかっても最後の敵まで到達できることは不可能であった。そこで、まず二方向から攻撃を仕掛け、タイミングを見て撤退を行い人形たちを引き釣りだし、手薄となった中央部を勇者達が率いる部隊で強襲する作戦が取られた。
作戦自体は上手くいったといっていいだろうか。勇者達は最後の敵がいる砦内部に侵入することができた。しかし、先鋒として囮となった2部隊は壊滅し、勇者と共に来た部隊も血路を開くために多くの兵士や魔導士が犠牲となった。勇者とティアの他に砦内に侵入できた兵士達もいたが、奥に進んでいく途中で敵に殺されるか、傷のために動けなくなってしまった。そして、勇者とティアだけが最後の敵が待つ部屋に到達することができた。
部屋の中には最後の敵だけが待っていた。最後の敵は普通の人よりもふた回りの程度の大きさであり、王族が余暇の際に着るようなゆったりとした衣服を身にまとい、悠然と佇んでいた。敵から発せられる力は、今までのどの敵よりも強く凶悪であった。
勇者達と最後の敵はどれほどの時間を戦っていたのだろうか。一瞬のようであったようにも感じたが、おそらく長い時間を戦っていたのだろう。最後の敵と戦い始めたときは、まだ日が高かった。しかし、決着が見えた段階では既に日が沈みかけていた。勇者もティアも多くの怪我を負い、立っているのも不思議な状態で戦い続けていた。彼らの心には何が宿っているのかはわからない。幼馴染の言葉であったか、親友の言葉であったか、亡き友の願いであったか、わからない。だが彼らは戦い続けた。
最後の敵は確かに強かった。しかし、勇者達にとっては9番目の敵であるジンとの戦いに比べれば望みがある戦いであった。魔法の量・質、身体の力や速度、全てにおいて高い領域であった。ただ、それだけである。
戦いは決着した。伝説の剣が最後の敵の心臓を貫いた。勇者は勝利したのである。最後の敵や人形は無の核へと変わっていき天に昇っていった。
10の世界の敵は全て倒されたのである。そして・・・・・・・・・。
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