第31話 裏切り⑧
ティアと人型の敵との戦いは苛烈を極めたが、ティアが魔法士の敵の弱点に気づいたため戦況は大きく傾いた。
通常、人の魔法士は近接戦闘は不得意であるため、護衛の兵士が周りを固めている。敵の魔法士は驚異的な魔法操作と魔力量、魔法の連続発動に隠れていたが、この定説に逃れることは出来ないでいた。
先の戦いまでは宙を舞っていたため、魔法以外の攻撃方法としては弓矢が限界であり、魔法同様に障壁魔法によって弾かれてしまっていた。しかし、ティアを宙を舞うことができるようになたため、近接戦闘が出来るまでに近づくことが可能となった。当然、前衛を務めている剣の敵が邪魔になるが、多数の魔法を撃ち込むことによって隙を作り出し、その間に敵の魔法士に近づくことに成功した。
敵の魔法士は近づかれることが今までにほとんどなかったのか、近接戦に全く対応出来ずに2体ともティアに討たれた。
ティアは地上に降り、残った剣の敵と相対したが、今まで沈黙を守っていたジンが前に出てきた。
「十分だ、よくやった。後は私に任せなさい」
ジンが剣の敵に声を掛けると、黒い人型の敵は空間の歪みの中に消えていった。
「もういいのかしら?私は何人掛かりでも構いませんが」
「ああ、もう問題は無くなった。君の負けだよ、ティア。時間を掛けすぎたね」
ジンが言葉を放った瞬間、ティアの体から光が消え、その場に倒れこんでしまった。
「な、なにをしたのですか?!」
「なに簡単なことさ、君の力を分析させてもらった。そして、この空間にそれを打ち消すように仕掛けを施したまでさぁ」
「何を馬鹿な!!そんなこと出来るはずがありません!」
「君はラビリアス家の館で起きたこと忘れたのかな?あれも同じさぁ、ただ先ほどのまでの君の力は特別なものだからね。分析に時間が掛かっていたんだよ」
「そ、そんな・・・・でも、諦めるわけには」
ティアの体は既に人型の敵との戦いでボロボロになっており、魔法の補助無しでは起き上がることもできないでいた。ジンはゆっくりティアに近づいていき、剣を抜いた。そしてティアのすぐそばまで来て問いかけた。
「何か最後に言いたいことはあるか?」
「・・・・・まだ、世界は滅んでいません。必ずや貴方を打倒する者が現れます。覚悟しとくことですね」
「・・・・・・・・・面白くもない言葉だな。どうせなら命乞いでもしてもらえると盛り上がるのだがね」
「貴方の思い通りにはさせませんよ」
「では、さようならだ」
ジンはティアに向かって剣を構えた。
「・・・・・貴方達と過ごした日々は嫌いではありませんでした」
「ああ、私もそう思うよ」
ジンが剣をティアに向けて突き刺し、血が地面を流れた。
「だめ!!」
ように見えたが、血を地面に流したのはジンであった。
ジンがティアに剣を刺す前に、レイナがジンを後ろから短剣で刺したのである。
「だめ・・・・・それだけは、だめ!」
「ああ・・・・・・そうだな」
ジンは心臓を貫かれており、その場に倒れこんだ。レイナは地面に倒れこんだジンに近づき、顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら何度も声を掛けた。
「ごめん・・・・なさい・・・・ごめんなさい!ごめんなさい!」
「こ・・・れは?」
ジンの元に向かっていた勇者が城の屋上に到着したのである。しかし、状況がまるで飲み込めていなかった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「大・・・丈夫だ、レイナ。ありがとう」
「なんだよ、おい!なんで既にやられているんだよ!!余裕しゃくしゃくだったじゃねか!!俺ともう一回戦うっていってたじゃないかよ!!なんで死にかけてんだよ!」
「コール・・・・・やっときたか。すまんな、俺はここまでだ」
「ふざけんなぁ!!!調子良いこと言ってんじゃねぇ!!そんな傷なんかどうってことないだろ!!」
レイナはこの世の終わりのように泣き続けていた。それはジンが最後を迎えることを明確にわかっているためであり、周りもジンの死をを悟っていた。
「ごめん・・・・・なさ・・・・い!ごめんなさい!」
「レイナ、気に・・・・病むな。俺は・・・・救われたんだ。お前と結婚式が出来て・・・・幸せだったんだ。俺は・・・・・・大好きな人に見守られて死ねるんだ。これ以上の幸福はない」
「あ、貴方は何がしたかったのですか?」
ティアは起き上がりジンに問いかけた。
「何がしたかったか・・・・・みんなと・・・・平和に生きたかったなぁ」
「な、なら!なぜ、こんなことを!!!」
ジンはティアの問いに答えることはなく、勇者に向かって言葉を掛けた。
「コール、後のことは頼む」
「ふざけんなよ!こんなことしといて、自分はおさらばかよ!!少しはこっちの身にもなれよ!!!」
「すまない、あと・・・・・」
「なんだ・・・・言ってみろよ!最後の願い位は幼馴染の誼で聞いてやるよ!」
「・・・・・諦めないでくれ・・・・・この先、何があっても諦めないでくれ。それだけが俺の願いだ」
「ああ、わかった」
「ありがとう・・・・・・ああ、しかし・・・・・お前達と過ごす日々は・・・・楽しかっ」
「・・・・ジン!・・・・ジン!死なないでぇ!!ジン!!!」
レイナは何度もジンの名を呼び続けた。しかし、ジンは二度と呼びかけに答えることはなかった。
「うわわわあぁぁぁぁぁぁぁ!」
レイナの泣き声は街中に響いていた。
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