第30話 裏切り⑦
ラビリアス家の館に取り残された勇者は必死に体の呪縛を解こうとしたが、解決の糸口すら見つけることが出来ないでいた。
「クッソーーーー!動けねぇ!!!!」
勇者は身動きが取れない中で、自分の行いを悔いていた。なぜあの時、手を緩めてしまったのか。なぜ世界の敵を倒さなかったのかと。だが、当然の出来事である。何度も助けられ、励まされ、共に死線を潜ってきた仲間を、幼馴染をこの手に掛けることが出来なかった。ただ、それだけである。
もはや外からは悲鳴すら聞こえてこなく、戦闘が行われている雰囲気も無かった。全ての人が死に絶えたような雰囲気すら漂っていた。これが自分の起こしたことであると考えた、勇者は深く絶望した。
そんな中、目の前の空間を歪み始めた。と思ったら歪みから人らしき者が現れた。
「初めましてーーーー!元気ですかーーーー!勇者様ーーーー!」
「な?!」
それは明らかに場違いなテンションで現れた。顔には仮面を付けており、素顔を見ることはできないが男の人間のようであり、先に戦った人型の敵とは異なっていた。
「なんだてめぇは?!ジンの手下か?!」
「私ですかーーー。私はあいつの手下でも仲間でもないですよーーーー!私はですね、そう!調・整・者!です!」
「はぁ?・・・・調整者?」
「そうです!!世界の力関係を調整する者です!お見知りおきくださーーーーい!」
「で、何しに来たんだ。こちとら、取り込み中で身動き一つ取れないんだが」
「そう!それです!困ったものですよーーーー!本当に!これではまったく盛り上がりませんよねーーーー!」
「・・・・・・何が言いたい?」
「ですから、その魔法を私が解除しに来たーーーんです!!ぽいぽいっとな!」
仮面の男が妙な動きをすると、勇者の体が少し光った後に、勇者は動くことができるようになった。
「・・・・確かに動けるようになった」
勇者が立ち上がり、体を確認していると続けて仮面の男が何かを勇者に掛けた。
「これは、お・ま・けです!」
「・・・・・体の傷も治してくれたのか」
「はい!ではでは!!さぁ、世界の敵を倒しに行きましょうーーーー!!」
「・・・・・お前も手伝ってくれるのか?」
「そ・れ・は、ありません。私は調・整・者!物語の本筋に登場することはありません!」
「そうか、ふふふ、はぁはぁはぁはぁ!」
「どうしましたか?」
「いや、動けるのようになったのは良いがあいつに、ジンに勝つことはできないだろ。滅茶苦茶強かったぞ、俺なんて遊ばれているだけだったからな。しかも、怪物やよくわからん強い敵もいるし、・・・・・どうしよう・・・・・もないだろ」
勇者は再び床に座ってしまった。
「ルージュやクルルもいなんだ。まして敵はジンだ。こちらの打つ手は全て見抜かれるだろ。無理だ、俺には」
「大丈夫ーーーー!勇者様なら必ずできます!!」
「はっはっは、何か理由でもあるのかよ。それとも何か力か武器か作戦でも貰えるのか」
「それはありません。が、勇者様なら必ず世界の敵を倒せます。勇者様が本気で世界の敵を倒すと決めさせすれば!!」
「馬鹿なことを・・・・・せめて、ソーラやティア・・・・・レイナと合流できればなぁ」
「それはちょっと難しいですね」
「・・・・・・何か知っているのか?」
「ええ」
「教えろ!あいつらは今どうしてる!!」
「ええ、教えますとも、少し落ち着いてください。えっとですねーーーー、ソーラ様は既に死んでいます」
「な!・・・・ジンが殺したんか?」
「いえ、あいつの部下に殺されたようですねーーー。あの人型っぽい黒いやつに」
「・・・・そうか、他の奴は・・・・」
「他の方は・・・・ティア様とレイナ様は生きてますよ」
「そ、そうか!今どこにいる?!」
「2人は王城のいますねーーー!」
「わかった、なら王城に行こう!」
「少し待ちください。近くにあいつもいますよーーーー」
「あいつって、ジンのことか」
「はーーーーい、今あいつとティア様が戦っております」
「くっ!レイナもジンと戦っているのか?!」
「いえ、レイナ様はあいつに降伏?----したようですね」
「な、何を言ってやがる。レイナも世界の敵になったというのか?!」
「そういうわけではありませんが、少なくともーーーあいつに敵対しているわけではないようですねーーー!」
「くそ!とにかく王城に向かう!」
「そうしてください、先ほども言いましたが!勇者様ならあいつに勝てます!勇者様が本気であいつを殺そうと思えればですがねーーー!」
勇者は王城に向かって走り出していた。先ほどの場所には既に仮面の男の姿はなく、勇者が見た幻であったのではないか、と思う程であった。
王城ではティアとジンが戦っていた。いや、戦いという名の遊戯に興じているという方が近い程にジンは遊んでいた。ティアも必死に魔法を練り、短剣による攻撃を繰り出していたが、かすり傷さえ与えることが出来ないでいた。
「はぁはぁはぁはぁ」
「どうしたんだ?もう終わりか?つまらないな」
「・・・・・・お喋りが好きな男ですね」
「ああ、せっかくの戦いだ。楽しまないとなぁ!」
ジンはティアが躱せないぎりぎりの攻撃を放っていた。しかも、致命傷にならない程度の攻撃魔法を放っていたのである。ティアは痛めつけられ、既に体はボロボロであった。何度目かの攻撃を受けティアは倒れてしまった。
「そろそろ、終わりにしようか!」
「くっ!」
ジンはティアを一撃で消し炭にできるように魔法を収束させた。
「これで終わりだ!!!」
「・・・・・・こ、ここまでなの」
ジンはティアに向かって魔法を放った。
『ホッホッホ、それは困りますね』
ティアに魔法は直撃した。しかし、無傷であった。
「これは、まさか・・・・」
ティアの体は輝き始め、傷は癒えていった。
「体に力が戻ってくる。いえ、これは前よりも強い力が体から溢れてくる」
ティアの体は宙を浮き、溢れる力は背中から羽が生えているようであった。全身から溢れ出る力は周囲を明るくし、神々しい何かが降臨したように見える程であった。
「ふっーー。まさか、一部だが力を取り戻すとは」
「・・・・・・貴方は何を言っているのかしら?」
「記憶は戻らなかったよだな。まぁいい、結局は殺すことに変わりはない」
ジンは宙を舞うティアに向かって連続で魔法を放った。ティアは避けれなかった。いや、避けなかったのである。ティアは複数の障壁魔法によって全てを防いでいたのである。
「少しはやるようだな!」
「余裕でいられるのも今のうちだけですよ!」
ティアは複数の魔法を使いこなし、ジンに向かって放った。それは、魔法の数もさることながら、質も高く、ジンも不用意に受ければ無事では済まない程であった。
激しい魔法による撃ち合いとなった。周辺は魔法同士の衝突による爆音と光が綺羅星のごとく散らばっていった。そして、魔法の撃ち合いに関してはティアに分があるのか、徐々にジンは守勢に回らなければならなかった。ジンは隙を見て間合いを詰め剣による攻撃も仕掛けたが、ティアの高速な移動によって躱され、逆に傷をつけられてしまった。
「ふうぅー、これはこれは何とも厄介な」
ジンは後退して態勢を立て直した。
「あなたはここで終わりです」
「それを決めるのは君ではないと思うがな!」
ジンは何かを放つためか構えを変えた。ティアは次に来るであろう攻撃のために身構えた。しかし、ジンが行ったのは攻撃ではなかった。
ジンの目の前の空間が歪み、そして3体の黒い人型の敵が現れたのである。
「この者達は!!」
ティアには見覚えのある敵が現れたのである。3体の内、2体はソーラと共に戦った敵であった。
「知っているだろ?なんせ実際に戦ったのだから」
「・・・・・・ソーラはどうなんたのですか?」
「ああ、お前が見捨てた後、すぐにこいつらに殺されたよ。最後は泣きながら死んだみたいだな」
「・・・・・好都合です。ソーラの仇も合わせて討ちましょう!」
「こいつらは強いぞ!せいぜい頑張ることだな!!」
3体の内、2体は宙を舞う魔法主体の敵であったが、残りの1体は剣を主体とする敵であった。
「はぁぁぁ!」
ティアは人型の敵に向かって魔法を放ったが、回避されると共に、剣の敵が急接近してきた。敵の近接攻撃に受け止め、なんとか弾き飛ばすことに成功したが、すかさず敵の魔法攻撃を連続で受けることになった。
先ほどまでのジンとの戦いに比べて守勢主体にならなければいけない状況に陥ってしまった。息つく間もない剣による攻撃と間隙を縫って2体の魔法士の敵に挟まれるように魔法を撃ち込まれ、ティアは次第に攻撃を放つことさえ難しい状況になってしまった。
戦況を見守っていたジンの近くに、レイナが近づいてきた。
「大丈夫?」
「ああ、まったく問題はない。ティアが死ぬのも時間の問題だ」
「ティアは死ぬの?」
「そうだ、心配するな。俺達の敵は全て倒して見せる」
レイナはジンの言葉を聞き、震える手を抑えつけ同じように戦況を見守っていた。
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