第27話 裏切り④
勇者と黒の人型の敵は剣と拳で激しい戦いを繰り広げていた。勇者は日々の訓練や数々の敵を打倒していく中で強くなっており、その強さは国の中でも一二を争う程の剣士にまで成長していた。また、特殊な方法にて身体向上系の魔法を使用するため、他の者よりも発動速度や柔軟性が高く、その奇抜な動きや特異な強さにはクルル達を上回るものがあった。通常の身体向上系の魔法では体全体の強化が主であり、局所強化は実戦に耐えうるものではないはずであったが、勇者はそれを可能にしており、驚異的な跳躍や爆発的な膂力の増加を可能としていた。
勇者の得意な攻撃パターンとして、下半身を強化し跳躍による素早い動きによる連続攻撃があるが、直進的な動きなためか、敵に攻撃を受け流されていた。敵の動きは決して速いわけではないため、一撃必殺の攻撃も繰り出していたが、ぎりぎりのところで躱されている状態であった。
敵は勇者の変則的な動きや戦い方に臨機応変に対応しており、しかも敵の拳や体は鋼のように固く、伝説の剣を以てしても致命傷を与えるに至ってなかった。何合目、何十合目かわからない位に打ち合った後、勇者は愚痴をもらしていた。
「おいおいおいおい、俺も大分強くなったはずなのに。なんだよこいつは!?」
敵は最初の時と変わらず、ラビリアス家の館に向かわせない立ち位置にて戦い続けていた。そして、その戦い方は勇者を倒すというよりも、時間稼ぎに専念するような戦い方であった。勇者は焦りもあったため、隙の大きい攻撃も繰り出していたが、敵は隙を突くことなく確実に攻撃を防ぐことに集中していた。勇者としては隙を突いてもらえた方が戦いようもあったが、敵の慎重な行動なために攻めあぐねていた。
「クソ!お前なんかに構っている時じゃあないのに!!・・・・・こうなったら!!」
勇者は全力で地面を叩きつけ地面を崩した。そして、剣を地面に打ち、一気に振り上げることで砂混じりの衝撃波を敵に向かって放った。むろん、衝撃波自体の威力は無いが、砂埃にて視界を塞ぐには有効であった。敵は全周を警戒する形で構えていた。勇者は敵の死角より攻撃を仕掛けてたが、大振りをしていたため振り下ろす前に敵の拳を腹に受けてしまった。
「がはぁ!だが!!!!」
先までの戦いであれば吹き飛ばされていたところであったが、勇者は腹に全ての力を集中することで防御を固め、敵の攻撃を耐えていたのである。
「これで終わりだ!!!」
勇者は剣を振り下ろし敵を真っ二つにしたのである。通常の身体向上系の魔法の使い手であれば、局所集中や強化個所の入れ替え速度が速くないため、実現できない攻め方であるが、勇者の特異な魔法の使用方法によって可能にしていた。
「はぁはぁはぁはぁ、こいつ強い。こんなやつが、他にもいたら・・・・・・いや、今は先を急ごう!」
勇者は走りながらいくつかの可能性を考えたが、黒い人型の敵を倒した後にも怪物達が出現したため、目の前の戦いに集中する必要があった。手を打てる時間も無く、考える時間も無いと判断したため、勇者は先を進むことのみに集中した。
「このぉぉぉぉ!」「はぁぁぁ!」
ソーラ達の戦いは続いていた。しかし、反撃の糸口は見つけることが出来ないでいた。相手は複数の魔法を雨のように放ち、宙を舞うことでソーラ達を翻弄していた。対するソーラ達は協力して障壁魔法や攻撃魔法を放っていたが、その手数は圧倒的な差があると言えた。
周辺にいた兵士達は人型の敵の魔法の餌食となるか、怪物達の餌となっていた。ソーラとティアは人型の魔法を避けつつ、怪物とも戦わなければならないため、敵の餌食になるのも時間の問題であると思われた。
ソーラ達は崩れた街を盾にして敵に相対していた。
「ティア!あなたはラビリアス家の館に向かって!!」
「そ、そんなことはできません!ソーラだけではあの者たちを倒すことは・・・・・」
「2人でも一緒よ!!残念だけど・・・・あいつらには敵わないわ!」
「しかし!」
「世界の敵を・・・・・・ジンを倒せば、こいつらも一緒に倒すことができるかもしれないわ。だから、お願い!このままじゃあ、街の人が全員・・・・・」
「・・・・・わかりました」
「ありがとう。私が一瞬隙を作るわ!その隙に館に向かってちょうだい!」
「はい、ソーラも必ず後追って・・・・・・・」
ティアは何かを察したのか、途中で言うのを止めてしまった。
「・・・・・ええ、私も後から追うわ!大丈夫よ、逃げるだけならなんとかなるわ!」
ティアは唇を噛みしめながら頷いた。
「さぁ!!いくわよ!!!!」
ソーラは人型の敵の前に立ち、両手に魔力を貯めて敵の周辺に向かって放った。激しい爆音と光が周辺を支配し、近くにいた怪物達もその魔法に対して気圧される程であった。
ティアは魔法が放たれたタイミングを見計らって戦場を後にしていた。ソーラは先程の言葉とは異なり、敵の前に立ち続け、人型の敵が無傷であることを確認していた。
「当然よね。ただの目くらましの魔法じゃあ、傷一つ付けることはできないわね」
本来であれば魔法を放った後に、ティアと共に戦場を離脱するのが正しい選択のはずであったが、ソーラはそれをしなかった。いや、出来なかったのである。
ソーラは脇腹と左足を大きく負傷していた。回復魔法による応急処置と付与魔法による補助によって戦闘を継続していたが、先ほどの目くらましの魔法で全ての魔力を使い切っていたのである。
ソーラは敵を見つめながら自分の死を悟っていた。
「はぁ・・・・まったく、へっぽこ勇者のせいでボロボロよ。勇者だったらこんな時に颯爽と現れなさいよね」
ソーラは軽口を叩いていたが、既に立っているのもやっとであり、敵の攻撃を受ける間もなく命を落とすのではないか、という程であった。
「・・・・・・私、頑張ったかな・・・・・頑張ったわよね」
ソーラはふと周りを見渡した。そこには見慣れた街が崩れ落ちると共に燃え上がり、兵士や住民が無残に殺され、子供たちが無邪気に遊んでいた大好きだった広場は怪物達が跋扈する地獄へと変わっていた。
「ぐぅすん、なんでよ・・・・なんでこんなことに。なんでよ!!!」
ソーラは両目に涙を浮かべ宙を舞う敵を睨みつけていた。敵はソーラに魔法を放つ構えをしていた。そして、人を葬るには十分すぎる程の炎の魔法をソーラに向かって放った。
「・・・・・こんなことなら、あいつにちゃんとお礼をいっとけばよかったわ」
ソーラは周辺の物体共々炎の渦に包まれ、何一つ残らない程に燃やされてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます