第26話 裏切り③

 ルージュとクルルはラビリアス家の館に到達していた。そして、ジン達がいる部屋に突入した。そこには、飛ばされる前に見た光景と同じく短剣が刺されたままのラーラ姫と、探し物から戻っていたリナ、そして不敵な笑みを浮かべるジンがいた。

「姫!!ご無事ですか?!」

「リナ!!無事か?!」

「?!お兄様、お戻りになられたのですね」

「思ったより早かったですね。まさか、あの者たちがこうも容易く打倒されるとは、神に愛されていると言わざるを得ませんな」

 ジンはラーラ姫とリナの前に立ち、ルージュ達と相対していた。


「ジン!貴様、リナにも何かしたのか?!」

「お兄様?いったい、何をいっているのですか。それにジン様も。街の方の問題は解決したのですか?」

「ルージュ、心配いりませんよ。リナちゃんにはまだ何もしてません。ラーラ様と一緒に静かに待っておりました。しかし、不用意に再び入ってくると学習しておりませんね?また動きを止められたいのですか?」

「ふん、やれるもの・・・・やってみろ!!」

 その瞬間、一気にクルルが間合いを詰めてジンに襲い掛かった。ジンは自らの剣で攻撃を受け止め鍔迫り合いとなった。

「貴様が館に仕掛けていた魔法具は壊させてもらった!これで俺達の動きを止めることはできまい!」

「さぁ、姫を返してもらうぞ!」


「え?!え?!」

 リナは状況が全く理解できずに唖然としていた。ラーラ姫は刺されてから時間も経っており血も流れていたが、ルージュとクルルの姿に安堵した印象であった。


「魔法具を・・・・・そうですか」

「これで!!」

 クルルはジンを突き飛ばしルージュが雷撃を打ち込む・・・・・・・はずであった。しかし、ルージュは何もしなかった。

「な?!ルージュ!!これは!?」

「なに?!」

 ルージュとクルルは身動きが出来なくなっていた。そして、突き飛ばされたジンは再び立ち上がり、ルージュ達に問いかけた。


「あなたは館の魔法具を破壊した、と言いましたね。確かにあれは魔法具と呼べる物ですが、ただ魔力をある方向に垂れ流すだけの無意味な物ですよ。あんな物で人の動きを止められるわけないじゃないですか?!」

「馬鹿な!他に仕掛けはなかったはずだ!」

「確かに貴方程度ではわかりませんかね。気づきませんか、この街全体がおかしいことを。まぁ、怪物が出現している時点でおかしいですが、この街全体に仕掛けなを施しているんですよ!」

「な?!!」

「規模が大きすぎて気づきませんでしたか。この街の中では俺は無敵です!!」

「え、え、え?!お兄様やジン様は先ほどから、何のお話をしているのですか?!」

「そうですね、そろそろリナちゃんにも種明かしといきましょうか!」

「き、貴様!!リナに何をするつもりだ!!何かしたらタダじゃおかないぞ!!」

「その状況で良く言えますね。なんのこともありません、貴方が望んでいたことをするだけですよ」

「何を?!」


 ジンはリナの目に手を当てた。リナの体は光に包まれた。

「さぁ、リナちゃん。目をゆっくりと開けてください」

「え?!でも、私は・・・・」

「大丈夫です、さぁゆっくりと開けてください」

 リナはゆっくりと目を開けた。

「あああ!見える、見えます!ジン様!!凄い、凄いです!」

「リナ!お前、目が見えるように?!」

「お兄、様?!お兄様なのですね!初めてお兄様の姿を見ることができました!え?!お兄様、怪我をなさっているのですか?!すぐに治療しないと」

「リナちゃん、その必要はないよ。もう少し周りを見てごらん」

「え?そちらの方も怪我を!」

「リナ・・・・・」

「あ、あなたがラーラ様ですね。え、お腹に何か刺さっていますか?!あと赤い物が流れて・・・・・」

「リナちゃん、あれは血だよ。ラーラ様は短剣を刺されて血を流しているだ」

「そ、そんなすぐ治療しないと!!ジン様、ラーラ様を早・・・く・・・」

「やっと気づいたかい。そうだよ、俺が皆を傷つけたんだ」

「な、なんでジン様が・・・・・」

「さて、役者は揃った!」

 そう言うと、部屋の中に多数の怪物が入ってきた。怪物の口には無数の人の亡骸が加えられていた。

「え、え、え、え?」

「さぁ、リナちゃん。あれは、だれかな?」

「え?」

「あれはねぇ、執事の人だよ。よく勉強とかを教わっていたね」

「え?でも、血だらけで・・・・・体が半部しか・・・・・」

「そうだよ、あそこにいる俺の友が食いちぎってしまったんだ。まったく食い意地が張ってるよね。顔もぐちゃぐちゃだし、丁寧に扱うように言ったんだけどね」

「え、え、え、え」

 リナは完全に錯乱状態であった

「貴様、何がしたいんだ!!」

「何がしたいか、と言われても回答は難しいね。これが俺なんだ」

「あなたという人は・・・・どこまで残酷なのかしら」

「お褒めにいただき恐縮です。しかし、ラーラ様はそろそろ限界ですね。ではメインディッシュといきましょうか」

 ジンは怪物中から蜘蛛型を一体呼び寄せた。そしてラーラ姫に近づけた。

「な、何をする気だ!!」

「なにをですか?貴方たちは見てきたはずですよ、街の惨状を。それをこの場でも再現するだけです」

「や、やめろ!!!!やめてくれ!!!ちくしょぉぉぉ!なんで体が動かない!!動け!動けぇぇぇぇ!」

「貴様!!、ふざけるな!!やめろ!!お前は、人を助けるために力をつけたのだろう!!罪の意識はないのか?!!!」

「おやおや、街中で起こっていることを全て無視して、自分達は大切な人だけを助けに来ておいてよく言いますね」

「い、いや!や・・やめてぇぇ!!!」

「え、え、え?」

「さぁ!」

 怪物はラーラ姫の腕から噛みつき、引きちぎった。

「いやぁぁぁーーー。痛い、痛い!た、たすけて!!」

「さぁ!続きですよ!」

「「やめろぉぉぉぉ!!!!!」」

 怪物は次々に体の部位を引きちぎり、骨ごと食っていった。ラーラ姫の悲鳴は部屋中に響き渡り、目の前の狂気に理解が追い付かないリナと泣き叫ぶルージュとクルルの声が渦巻いていた。そして次第にラーラ姫の声は聞こえなくなり、その骨が砕ける音だけが部屋に響いていた。


「な、なんで?・・・・どうして?ジン様がこんなことを??」

「それはね、俺が世界の敵だからだよ!」

「世界の・・・・敵?」

「殺してやる、殺してやる!!ジン!!!」

「おやおや、いつものお優しいクルル様が、そのようなことをおっしゃるとは」

「貴様だけはこの手で殺してやる!!!!」

「ふふふぅ、早くそうして欲しいですね。でも残念ながらあなた方では無理なようです。せめてもの情けです。ラーラ姫を食べたこいつに同じように食べてもらいましょう!!!!」

 ラーラ姫を食べた怪物はクルルに近づき同じように部位毎に引きちぎりながらクルルを食べていった。違うのはクルルはジンに対する恨みの言葉を吐き続けていた、ということ位であった。

「殺してやる!絶対いつか殺してやる!!!」

 そして、クルルの声も聞こえなくなった。

「つまらないですね。他に言うことはないのですか。是非、残りの方には楽しませていただきたいものです。ねぇ、ルージュ」

「ジン、リナに何かしてみろ。お前は終わりだ」

「おやおや、強気ですね?何か策でもあるのですか?」

「お前が狂気に身をやつしている間に俺は体の中で魔法を練っていた。自爆の魔法をな!!この建物くらい吹き飛ばせるぞ!!」

「・・・・・・いいのですか?リナちゃんも巻き添えですよ?せっかく目が見えるようになったのにもったいない」

「怪物に食われるくらいなら俺の手で!・・・・・リナ、すまない。力のない兄で」

「お兄様・・・・」

「そうですか・・・・ではやってもらいましょうか!!兄の手で妹殺しを!!早くしないと怪物が食べてしまいますよ!!!!」

 クルルを食べ終えた怪物がリナに近づいていった。

「き、貴様!!!!!これで終わりだ!!!!」

 ルージュは体は激しく光り出した。その瞬間、軽くジンがルージュに触れた。そうするとルージュの光は収まってしまった。

「え??」

「ほら、ほら、ほらほらほらほら!!早くしないとリナちゃんが怪物に食べられてしまいますよ!!!」

「え?」

「お兄様・・・・お兄様・・・・お兄様!たすけてぇ!いやーーーー!」

 リナも他の者と同じく腕を引きちぎられ、足を切られた。

「いたい・・・・いたいよ、お兄様・・・・た・・・すけて」

「リ、リナ!リナーーーーー!」

 そしてついには頭を食べられ、その音が部屋を覆いつくした。

「あーーあ、食べられちゃった。まったく酷い兄ですね。かっこいい事を言っておきながら、ただただ妹を苦しめるだけなんて」

「き、貴様!!!!!!!!!!!!!!!!!!何をした!!!!!!??」

「馬鹿ですか?貴方が相手にしているのは世界の敵ですよ。その程度の小細工の魔法を封じ込められないわけないでしょ?あっはっはっは!!!」

「ジン!!!!!!!!!!!!」

「あなたは別の殺し方にしましょう」

 ルージュはジンの魔法によって炎に包まれてしまった。

「どうです?生きながらに体が焼かれ、しかし動くことができない状況は?」

「殺してやる!ぜったい!!!」

「はぁ、つまらない言葉ですね。さようなら、ルージュ」

 ルージュの燃えた後には何も残らず燃え切ってしまった。

「さて、次の客を待ちますか。その前に館を綺麗にしておきましょうか」

 ジンは怪物に命じて館中の死体を食べつくさせた。館の中にはジンと怪物のみが存在していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る