第25話 裏切り②
ルージュとクルルは怪物に阻まれながらもラビリアス家の館に向かっていた。周辺では助けを呼ぶ声が聞こえていたが、ルージュ達は自分たちの大切な者を守るために構わず進んでいた。
「クソ!どけ!!僕の邪魔をするな!!」
「早くリナの元へ戻らなければ!」
流石は国を代表する騎士と魔法士である。怪物達は次々に倒されていった。しかし、彼らの前に長剣と双剣を使う黒い人型が現れた。そして、二人に襲い掛かった。
「く、貴様らのようなやつらに、構っている暇はないんだ!!!」
クルルは長剣と戦いになったが、クルルの気迫とは裏腹に戦いは接戦であった。激しい剣と剣の打ち合いが起こり、互いに僅かづつ傷を付けあっていた。クルルがぎりぎりで長剣の攻撃を躱し、懐に入りこみ攻撃を仕掛ければ、敵は相手に向かうように攻撃を避けながら、返す剣で攻撃を仕掛けていた。互いに僅かに傷を負い、そして再び攻撃を仕掛けていた。それは死の狭間での剣の打ち合いであった。クルルは死を恐れてはいなかった。大切な者を失うこと、それがクルルにとって死よりも耐え難いことであった。だが、その気迫を持ってしても目の前の敵に及ばないでいた。
「たかが雑兵の分際で!!」
ルージュは双剣の相手をしていた。双剣は素早い動きで巧みにルージュの魔法を躱し、隙をみて接近戦を仕掛けてきた。だが、ルージュも一流の魔法士である。接近された瞬間に障壁魔法によって敵を弾き、魔法による追撃も加えていた。しかし、双剣もすぐに態勢を立て直し、回避運動へと移ってしまった。ルージュの魔法では回避運動に移ってしまった敵に当てる術がなかった。しかも、双剣の方もルージュの力を正確に測っているようであり、不用意には近づいて来ないでいた。
ルージュ達は焦っていた。目の前にいる敵は自分と同等かそれ以上の実力者であり、短時間で片づけるには苦しい相手であった。だが、彼らには一刻も早く駆けつけて救い出さなければならない人がいる。激しい応酬の中でルージュとクルルは背中合わせになるタイミングが発生した。彼らは敵に挟まていた。
「ここで貴様らに時間を掛けるわけには行かない!!」
「僕たちには救わなければならない人がいるんだ!!!」
そして、敵が攻撃を仕掛けてくる次の瞬間、互いに立ち位置を入れ替えた。身体能力を限界を超えて向上させたクルルは、双剣の速度を上回る速さで一気に間合いを詰め敵の防御の構えごと一刀のもとで両断した。ルージュは長剣に雷撃を加えたが、長剣は雷撃を弾き飛ばした。長剣の刃がルージュに届くかと思われたが、敵の足元で大きな爆発が垂直に発生した。それはルージュが事前に仕掛けた魔法であった。ルージュは訓練のすえ同時に2つの魔法を操ることに成功していた。彼らは敵に勝利したが余韻に浸る時間は無かった。
「急ごう!!」
「ああ、姫を、リナを助けに行かなければ!!」
ルージュ達は急いでラビリアス家の館に向かった。
ソーラとティアは飛ばされた位置関係からラーラ姫の救出は諦め、兵士達と共に周辺住民の救出や護衛にあたっていた。それは、ルージュ達と示し合わせたような形であったが偶然であった。彼女らは次々と怪物を葬っていったが、そこにルージュ達と同様に黒い人型の敵が2体現れた。敵は近くにいた兵士達を魔法で一瞬のうちに燃やし尽くしてしまった。
「な!こいつらは・・・・ちょっとやっかいそうね!」
「そうですね。今までの敵とは違うと思います。注意して対処しましょう。他の者は下がってください。あの敵は我々が相手をします!」
2体の敵は特に武器を持っていなかった。ソーラとティアは先制攻撃として炎と爆発の魔法を放ったが、敵に躱されてしまった。それは自体は特に問題ではなかったが、方法が驚愕であった。
「な!あいつら!!」
「あれは・・・・空を飛んでいるのですか」
敵は宙に浮いていた。一瞬だけ宙に浮くことは魔法を使える者にとっては難しいことではない。浮き上がる推進力を上手く使うことができれば、体を宙に浮かすことはできる。ただし、それは一瞬の時間の話であった。常に浮き続けるには、魔法の連続的な発動、その力の操作、複数の魔法の発動などが条件であった。しかしそれは、現状の国の魔法研究水準では解決が難しいとされている課題ばかりである。しかし、敵はそれを実践で使用する水準であった。
そして、敵は魔法を放つ準備をしているようであった。
「な、まさか飛んだ状態で魔法が放てるの?!!」
2体の敵は魔法を放ってきた。しかも1発2発ではない、雨のような攻撃が飛んできたのである。
「このおおおおお!」
「くううぅ」
「ぐはぁぁ!」「た、たすけ」「ぎゃぁぁ」
ソーラとティアは障害物に隠れつつ、2人で障壁魔法を張っていた。他の兵士達は敵の魔法を受け次々に倒れてしまった。ソーラ達も障壁が耐えきれずに攻撃を受けてしまった。
「「きゃあぁぁ!」」
「このぉぉ!やったわね!!お返しよ!」
ソーラは敵に向かって魔法を放ったが、難なく避けられてしまった。そして再び敵の攻撃が始まった。
「ソーラ!!」
ティアの突き飛ばされることで何とか敵の攻撃を避けることはできたが、戦況は圧倒的に敵に有利と判断される状況であった。味方の兵士達はほとんどがやられてしまい、生きている者も動けるものはいなかった。
「どうしましょうか」
「どうするもこうするも!こいつらを倒さないと私達の未来はないわ!!やるわよ!!!」
「ソーラのそういうところは好きです」
「ありがとう!じゃあ行くわよ!!」
「はい!!」
降り注ぐ魔法の雨を避けながら、ソーラ達は敵に攻撃を加え続けた。
勇者とレイナはラビリアス家の館に向かっていたが、途中途中で怪物の討伐や住民の救助をしていたため、遅々として進んでいなかった。彼らにとってもラーラ姫やリナは大切な友人であり、何より幼馴染であるジンの裏切りに対して本人に問いたださなければならないと考えていた。だが、現状の進み方では館に着くことは非常に難しい状況であった。
「・・・・コール!先に行って!!!」
「な!馬鹿なことを言うな!!お前を置いていけないだろ!!」
「でもこのままじゃあ、被害が広がるばかりだよ!!ジンを止めないと!!」
「だが、レイナだけでは!!」
「私なら大丈夫!!ここはなんとかするから、ジンのことをお願い!!」
「く、くそ!!わかった!!絶対に死ぬなよ!!」
「もちろん!また、3人で会いましょう!!」
「ああ、絶対あいつを止めてみせる!世界の敵だとしても、あいつには正気があるようだった!なんとかできるはずだ!」
「うん、お願い!!! さぁ、掛かってきなさい!」
レイナは勇者のために血路を開き、先に行かせることに成功した。
勇者は先に進むことができたが、ラビリアス家の館に向かう途中で目の前に何かが落ちてきて大きな砂煙が発生した。そこには黒い人型の敵がいた。
「なんだお前は!?」
黒い人型の敵は何も言わずに襲い掛かってきた。敵は拳を勇者に叩きつけた。
「な!!」
勇者は伝説の剣で攻撃を防いだが、その腕力は凄まじく、そのまま吹き飛ばされてしまった。
「ぐぅ、てめぇ邪魔するなら容赦しねぇぞ!!」
勇者は敵に斬りかかったが、敵は難なく片手で受け止め、もう片手で勇者の腹を殴り飛ばした。
「ぐはぁ!」
勇者は咄嗟に腹の強化をしていたため、致命傷にはならなかったが、大きなダメージを受けていた。
「ち、ちくしょぉ!こいつ、ジンより強いじゃないか?!」
敵はラビリアス家に向かせないような立ち位置で陣取っており、無視するのは不可能であるように感じられていた。勇者は覚悟を決め、目の前の敵を倒すことに集中した。
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