第21話 巨人②

 勇者達は巨人の足止めを諦め、ルージュ達と合流をしていた。

「まったく、少しも足止めができないとは。それでも貴様は勇者か!」

「そんなこと言ってもよ、あれは・・・・無理だぜ」

「まあいい、こちらの準備は完了している。あとは巨人が来るのを待つばかりだ」

「・・・・ってことは、俺達の足止めはもともと不要だったのかよ!」

「時間的には間に合う予定だったが、規模が規模だけに確実性を上げたかっただけだ。意味は無かったがな」

「・・・・・・・ぐぬぬぬ、だったらあんなに必死に足止めしなかったのに!」

「ホントだよな、コールは伝説の剣まで失う始末だし」

「ふん、この作戦が上手くいけば伝説の剣も返ってくるだろう。問題は無い」

「ほんとかよーーー。あんな巨人をなんとかできるのかよ」

「まあ、見てろ」


 ルージュ達は軍勢を巨人を囲うように半円を描いて布陣させていた。

「これで本当になんとかなるのか?」

「心配するな、勇者!巨人はまっすぐ街に向かっている。そのため、進軍経路を予測することは容易い、そこに罠を仕掛けた」

「とりあえず、お手並み拝見だな」


 巨人は軍勢が目視できるところまで来ていても歩みを変えなかった。巨人が軍勢の半円の中心に着たところで足を崩し倒れこんだ。

「よし!」

「ああ、落とし穴か」

「ふん、あの程度の知能のやつには丁度いいものだ。総員!構え!放て!!!!」

 布陣していた兵士や魔法士から大量の火矢や攻城兵器に用いられる火炎玉、炎の魔法が巨人に放たれた。

「すげえぇ量だが、果たしてこれで倒せるのか?」

「細工は流々といったところだ、よく見ていろ!」


 大量の攻撃が巨人に撃ち込まれる中で巨人の足元が爆発し炎の渦が舞った。それは地響きがなるほどであり、人が近くにいればひとたまりもない程であった。

「な、なんだ!!」

「落とし穴に圧縮した空気と油を大量に仕掛けておいたんだ。普通は使えない手だが、経路と時間が確実なら準備も容易い。ふふふ、燃えろ燃えろ!どんなに頑強でも、これだけの炎だ!ただでは済まないだろ!!!」

 あまりの熱さに人がまったく近づけない程であった。しかし、兵士や魔法士は攻撃を続けた。それは、巨人が完全に沈黙したわけではなかったからだ。


「おい、あいつまだ動いているぞ!」

「ぐぬぅーー、総員、手を休めるな攻撃を放ち続けろ!!!」

 巨人は徐々に態勢を立て直していった。そして、炎に囲まれながらもついに落とし穴から這い出てしまい、そして今までと同じく街への歩みを始めた。


「ルージュ!もう無理だ。いったん引こう!」

 クルルがルージュの元に具申してきた。

「だが、ここで引けばあいつ防げる場所がないぞ!」

「しかし、ここで大事な兵を失うわけにはいかないよ!」

「・・・・・わかった、総員!退避!」


 ルージュ達は巨人から退避した。あれほどの攻撃を加えたのに巨人の様子は変わっておらず、しかも攻撃してきた者たちを気にも留めなかった。


「おい、どうするんだ?!このままだと巨人が街まで行ってしまうぞ!!」

「く、こうなったら」

「お、まだ手があるのか?!さすがだな、ルージュ」

「ああ、働いて貰うぞ!勇者!!」

「え・・・・・嫌な予感」

「諦めろ、コール。あの目は本気だ」


 勇者達は巨人に先んじて街の方に戻っていた。巨人と街との間には巨大な峡谷があり、巨人はここを抜けて街まで来ると考えられていた。勇者達は峡谷まで到達し作戦会議を実施していた。

「・・・・・・おい、本気でそんな作戦を実施しするのかよ?!」

「ああ、これしかない」

「絶対無理だろ!!」

「無理でもやるしかない、やらなければ街が滅ぶんだ!」

 ルージュが立てた作戦は非常に実施が難しく危険が伴うものであったが、勇者は自らの役目のためしぶしぶ承諾した。


 巨人が峡谷の中間に到達したのを見図って全員が行動を開始した。

「放て!!!」

 既に軍勢の攻撃が効果が無いことはわかっていた。そのため、軍勢が攻撃したのは峡谷であった。峡谷は崩れ落ち、巨人を生き埋めにする形となった。

「よっし!」

「まだ、これからだぞ!勇者!さぁ、行くぞ!」

「わ、わかってら!」

 勇者達は峡谷を降りて一気に巨人に近づいた。ルージュが立てた作戦は巨人の身動きを止めた上で一気に近づき、接近戦にて勝負をつけるというものであった。遠距離からの魔法や熱による攻撃は効果が無かったが、接近した状態であればあるいは効果があるのではないか、と考えたのである。

「くらえ!!」

「くらいなさい!」

「これでどうだ!」

「はぁぁぁ!」

 全員で一斉に巨人に飛び乗り、頭を中心に攻撃を加えた。勇者達は前の戦いで刺したままとなっている剣を探していた。

「どこにいる、俺の剣ーー。隠れてないで出てこーーい」

「・・・・・馬鹿なこと言ってないで、さっさと見るけるぞ。刺した場所からいってこの辺りだろ」

「あ、あったよ!コール!」

「お、ほんとだ!よし、引き抜いてやる!」

「次は無くさないでよ!まったく困った勇者なんだから!」

「ソーラが囮になれっていうから頑張ったのに、それはないぜ」

「と、とにかく、早くみんなに合流して攻撃を加えるわよ!伝説の剣が最も効果がありそうなんだから!」

「わかってるよって!!!」


 巨人は崩れた岩に挟まっていたが徐々に抜け出していた。

「まずい、総員!退避!!」

 飛び乗っていた兵士や魔法士は巨人から降りていった」

「勇者!勇者はどこにいる!!」

「ここだ!どうだ効果は?!」

「ダメだな、全く効果がない。どの攻撃を加えても傷一つ付けることができない!」

「マジか、伝説の剣でも本気で切りつければ傷は付くが・・・・効果はほとんどないぞ」

「そうか、とりあえず巨人から離れるぞ!このままだと巨人が立ち上がったところで振り落とされてしまう」

「そうだな!」

 

 勇者達は巨人から離れるために移動した。しかし、移動の途中で巨人が大きく動いた。

「まずい!急げ、みんな!!」

「きゃぁ!」

「ソーラ!!」


 ソーラは移動の途中で足を踏み外し、そして巨人の胸が一瞬開き、その隙間の中に入ってしまった。勇者も追いかける形で一緒に入ってしまった。

「コール!!」

「勇者様!!」

「く、仕方ない俺達だけでも先に離れるぞ!」

「しかし、コールが!」

「既に隙間が閉じてしまった。無事なことを祈ろう。さぁ、早く離れるぞ!」

 ルージュ達は勇者達を残して巨人を離れた。


「勇者!おきなさい、勇者!」

「あああん?ぐぅ、暗い、狭いな・・・」

「こら、あんまり動くな!」

「ん?これは!」

「どこ触っているのよ!」

「じ、事故だ!他意は無い!」

「どうだか、しかし困ったわね。完全に閉じ込められたわ」

「そうだな、動き回る隙間すらない・・・・・・・いっそ、ここで暴れるか」

「いいわね、流石の巨人は体の中からなら」

「なら、早速!とりゃあ!!お、結構簡単に壊せる」

「そうね、外皮に比べて脆いみたい、これなら!」



「コール、大丈夫かなーー」

「大丈夫さ、あいつは悪運が強い。今頃中で遊んでいるかもな」

「そうだね、ん?巨人の動きが変わった?」


「うりゃりゃりゃりゃぁぁぁぁ! こりゃあいい、やりたい放題だぜ!」

「そうね、どこに魔法を放っても効果があるから楽しいわ!」

 勇者とソーラは巨人の中で暴れまわっていた。魔法で壊れない箇所は勇者の剣で破壊することで進んでいった。そして心臓部らしき場所まで到達した。


「あれ、怪しいわね!」

「ああ!あれが本体っぽいな!よっしゃぶっこっ」

 勇者が言い切る前にソーラが魔法を放っていた。そして、その爆風に勇者は巻き込まれて転んでいた。

「おい、やるならやるって言えよ」

「あら、ごめんなさいね。ついやってしまったわ」

「つい、じゃねぇよ。しかし、これでぇぇぇ」

 巨人が倒れだしたため、中にいた勇者達も転がってしまった。外にいたジン達も様子がおかしいことに気づき、倒れた巨人の近くまで来ていた。


「ふぅ!なんとか外に出れた!」

「早く進みなさいよ!閊えているのよ!」

「はいはい、わかりました」

「「コール!」」

「お、みんなも無事だったか!」

「やったのか、勇者?!」

「ああ!ばっちりだぜ!!俺達の勝利だ!!」



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