第20話 巨人
「あああああーーーーーもう!あんなもん、どうすりゃあいいんだよ!!!!」
勇者は目の前を通り過ぎていく巨人に喚き散らしていた。
時は遡ること2日前------------------------
ある日、勇者達が訓練をしていると、世界の敵が見つかったと連絡が入った。勇者達は急遽王城まで呼びだれ対策のための会議に参加した。勇者達には事前に敵について全く知らされずに来ていたが、敵の偵察をしてきた者の情報を聞いて愕然とした。
敵の大きさは30mを超える巨人という報告であった。
「はぁ!ちょっとまてよ!!その情報は本当か?!」
「コール、落ち着け。まずは話を全て聞こう。」
勇者は偵察に行ってきた者に対して問いただしたが、正確な数値はともかく、街の城壁よりも高いことは確かであり、胸のあたりに紋章があることも確認しているとのことであった。その巨人は周辺の村や町、人、動物には目もくれず、ゆっくりと王城に近づいており、5日後には街に到達する速度であるとのことだった。周辺で駐屯していた兵士や魔法士が足止めのために攻撃をしかけたが、効果は見られず、兵士たちは無視された、とのことであった。話を聞いた一同は言葉が出ない状態であった。
「おいおい、どうすんだよ。そんな巨人、どうすることも出来ねぇだろ」
「勇者がそんなことを言うな!みんなの士気が下がるだろうが!」
「だってよ、ルージュ。そんな巨人に対してどうしろって言うんだよ?!魔法も効かないみたいだし・・・・・」
「それを考えるのが俺達の役目だ!策はある、すぐに出撃しよう!」
「え、外で迎え撃つのか?」
「当たり前だろ!!この街で迎え撃ったら、どれほどの被害が出るか!街に近づく前に討伐するぞ!」
(街の外に出るなんていつ以来だろう・・・・)
勇者達は行動制限がされているため、選定の儀より街の外へは一度も出ていなかった。
勇者達は装備を整え巨人を迎え撃つべくルージュ&クルルが率いる軍隊と出撃した。
「せっかく装備が新品になったが・・・・・役に立たなそうだな」
「ぼやくな、コール。巨人相手なら掠っただけでも大怪我だろう。その意味でも軽くて丈夫になった今の装備は有効さ」
「そうだけど、紙切れみたいなもんだろ」
「まぁ、そうだろうな・・・・」
「しかし、久しぶりの遠出がこれとは・・・・・」
「まぁまぁ・・・・そうだ、世界が平和に戻ったら、旅に出るのもいいじゃないか?俺も付き合うぞ」
「それいいな、のんびり世界を巡る旅かーーー。きっと報奨金とかも出るだろうし、いろんな場所を見て、いろんな物を食べて、それは楽しそうだな!」
「なんか面白そうな話をしている!!それ、私も参加する!」
「いいぜ!みんなで旅だ!!」
「その前に世界の敵を倒さないとな」
「現実に戻すなよ・・・・・」
勇者達は2日で巨人と接敵した。そして、初めて巨人を見たところで絶望と無力感を覚えた。
「あれと戦うのか・・・・」
「・・・・・・戦いになるといいな」
「・・・・・・あれはちょっとね」
勇者達はただ茫然と巨人を眺めていた。
「ちょっとちょっと!なにボケっとしているの!!ルージュから言われているでしょ。足止めしてこいって」
「いや、でもあれは・・・・・」
一緒にいたソーラが勇者達を叱咤したが、その反応は微妙であった。ルージュとクルルは準備があるということで、ここよりも街に近いところで迎撃準備をしていた。勇者やジン、レイナ、ソーラ、ティアと一部の兵士、魔法士にて巨人を足止めすることになっていたが、それは非常に難しいと感じる状況であった。
「と・に・か・く!やるだけやって見ましょう!勇者はここで見ていなさい!ジンとレイナは勇者をお願い。ティアと兵士・魔法士は私と共に来なさい!!」
ソーラは右翼側から巨人に近づいていった。
「総員!構え!目標、巨人の左膝!・・・・・・放て!!!!」
ソーラは巨人の膝関節を攻撃することで足止めをする様子であった。
「どお?!」
巨人は攻撃を受けても全く動きを変えずに進み続けていた。
「効果は無さそうです」
「むむむーーーー。とにかく攻撃を続けるしかないわ!総員!目標、変わらず巨人の左膝!自由射撃開始!!撃ち続けなさい!!!」
ソーラ達は魔法を浴びせ続けたが巨人は気にするそぶりも見せず、歩みを続けていた。
「ありゃあ、だめだな」
「・・・・・そういってやるな。相手が悪すぎる」
「コール、どうする?流石に見ているだけだと可哀そうだよ・・・・」
「そうだな・・・・そうだ!あいつらは俺を狙っているんだから、俺が囮になればいいんじゃないか?!あの遅さなら振り回せるだろ!」
「あまり気乗りはしないが・・・・とりあえずやってみるか」
勇者達は巨人の後ろに回り込み配置に着いた。
「よし、おおーーーーーーい!そこの巨人!勇者がここにいるぞ!!!俺を狙うなら方向が違うぞ!!!」
「あの馬鹿、何やってるの?!」
「囮になるつもりかもしれません。しかし・・・・・」
巨人は振り向きもせず歩みを続けていた。
「おーーーーい!!おおおおおーーーーーーい!」
「全然振り向かないな」
「どうなってんだ?!」
「気づかないのかしら」
「とりあえず、魔法をぶち込んでみるか」
ジンは魔法を巨人の後ろから当てたが、巨人は全く気にしていなかった。
「全然ダメだね」
「うぉぉぉーーーーい!!世界の敵は勇者を狙ってくるんじゃないのかよ!!」
「まぁ、こんな弱い奴は眼中にも無いのかもな」
「それ、酷くいない?!」
勇者達は苦笑いをしながら巨人を眺めていると、足止めを諦めたソーラ達が近づいてきた。その顔は呆れたような雰囲気であった。
「あなた達・・・・・何をやってるの?」
「いや、囮になろうと・・・・・」
「完・全・に!無視されてるじゃない!!」
「いやーーーーー、ね!なんでかな・・・・」
「もう少し派手にやらないと、気づいてもらうことができないのかもしれません」
「そうねーーーー、勇者!今度は私の指示で動いて!」
「別にいいが何をするんだ?」
「後ろがダメらなら、次は前よ!」
「・・・・・いやな予感しかしないな」
「・・・・・がんばれ、コール」
勇者達は巨人の正面に回り込んで相対した。
「・・・・・おい、まさか」
「そうよ、正面なら存在感の無い勇者でも気づいてもらえるでしょ」
「ちょっと待て!気づいてもらえても、そのまま踏みつぶされるだろ!!」
「ぎりぎりまで粘って横に逃げるのよ!そうすれば、そこからは勇者を追いかけるはず!」
「はぁぁ、やるだけやってみるけど。やばくなったら、さっさと逃げるからな」
「さて、仕上げね。総員!構え!!!目標はどこでもいいわ、あの巨人に気づいてもらえるように派手にやりなさい。放て!!!!」
ソーラ達は魔法は巨人に撃ち込んだ。先と変わらず気にするそぶりや歩みが変わることはなかった。
「そろそろ潮時ね、総員退避!!あ、勇者はまだだからね」
勇者とジン、レイナを残し他の者は退避した。
「なぁー」
「なんだ、コール?」
「あれ、俺達に気づいていると思うか」
「・・・・・気づいていると信じよう」
「おい!現実から目を背けるな!!絶対、あの巨人、こっちに気づいていないだろ!」
「いや、しかし・・・・・どうする?」
「こうなったら!!」
勇者は身体能力を向上させ、伝説の剣を手に持ち、巨人に向かって構えた。それは普通の構えとは大きく異なっていた。
「おい、どうする気だ?!」
「こうするんだよ! どりゃあぁぁぁっぁ!!」
勇者は伝説を剣を巨人に向かって投げた。剣は勢いよく巨人の胸に刺さった。
「どうだ!!」
「・・・・・・・何も変わってないな」
巨人は胸に伝説の剣が刺さったまま、変わらず歩みを続けていた。そして、勇者達の目の前まで迫っていた。
「ね、ねぇ!そろそろやばいでしょ!!」
「うぉぉぉーーー、とりあえず逃げろ!」
勇者達は巨人から逃げたが、巨人は変わることなく街への歩みを続けていた。勇者は完全に無視されたのである。ソーラ達が笑いながら近づいてきた。
「ぷっぷっぷぅ、完全に無視されてやんの。全く何やっているのよ。最後は剣まで投げちゃうしーー」
「あああああーーーーーもう!あんなもん、どうすりゃあいいんだよ!!!!」
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