第19話 準備

 勇者は7番目の敵を打倒したことで住民は眠りから目覚めた。幸いに住民や仲間に特に異常はなく、人々は今までの日常に戻っていった。国王は勇者を労うとともに、次に来る敵に備え、国中の兵士や魔法士に臨戦態勢を整えるように伝えた。今までの敵には常に後手となっており、有効な手が打てているとは言い難かった。先の戦いまでは勇者の活躍もあり、何とか敵を打倒すことに成功していたが、その強さの増大や狡猾さに危機感を抱いていた。


 勇者はリオの件以来ふさぎ込んでいたが、先の老人との戦いで吹っ切れたのか、積極的に訓練に励み、より強くなっていた。勇者は日々の生活の中で、世界の敵がいつ襲ってくるかわからず館に籠るようにルージュに言われていたが、訓練の無い日を選んで館を抜け出して街に買い物に出ていた。当然、ジンやレイナに見つかり、護衛の当番であったソーラにも止められたが、勇者が土下座でお願いするので、仕方なく同行することを条件に許可を出していた。


「なんか物々しいな」

「そりゃ、仕方がないだろ。流石に前回の敵はしゃれにならん」

 勇者はジンやソーラと共に街に買い物に出ており、既に目的の物の購入を済ませ、館に帰る途中であった。勇者も久しぶりに街に出たことで気分転換が出来ている様子であった。


「でも、みんな寝ていたんだろ?そんなにやばいと感じているのか?」

「自分だけならともかく、国全体が眠りについたんだ。もともと、コールは寝ていたからわからないだろうが、突然意識を失ったんだぞ。焦りたくもなる。もし、同様な手をもう一度やられたら次はわからないからな」

「確かにな。だが、警備を強化しても効果があるのか?」

「ばかね、敵は基本的に1人よ。十分な警戒をしていれば前回のようなことにはならないわ」

「でも、前回はみんなやられたんだろ?」

「あれは・・・・・あの人は、この国一番の魔法士で敵との戦いのために防御魔法を街に掛けることになっていたの」

「で、してやられたと」

「し、仕方ないじゃない!」

「こら、コール。別にソーラのせいじゃないんだから、そんなに責めてやるなって」

「べ、別に責めているわけじゃないが」

「それにな、コール以外でも世界の敵に有効打が与えられることがわかっているのが大きい。この前の老人にもティアの加勢は効いたのだろ?」

「ああ、ティアから受けた攻撃のためか、魔法の収束も操作もボロボロで簡単に避けることができたからな。あれが無かったら、負けていたかもな」

「それなら、最終的には勇者の力が必要でも、事前に兵士や魔法士の力で敵を弱らせることが出来るってことだからな。みんなのやる気も上がるってもんだ」

「そんなもんかなー?」

「さぁ、無駄話もその辺で早く館に帰るわよ!あまり遅くなるとレイナが心配するわ」



 勇者達は館に帰るとレイナが出迎えてくれたが、ルージュとクルルが訪ねて来ていた。

「コール、お帰り!」

「ただいまって、げ!」

「はぁ、まったく、お前たちはこんな時に買い物か?」

「そう怒るなって、ちょっと出てきただけじゃないか。それにこの前のような感じだったら、どこにいても安全じゃないんだし」

「・・・・・・まぁ、そうだが」

「ルージュ、そんなに心配するな。コールのことはちゃんと見張っておく。いざといいう時は俺達だけでも時間ぐらいは稼げるさ。それで、今日はいったいどうしたんだ?訓練などは無かったと思ったが」

 ルージュは話す気が失せたのか、代わりにクルルが説明を始めた。


「皆さんの新しい装備が準備できました」

「本当か?!そりゃあ、いいな。どこにあるんだ?」

「こちらに準備してあります。ジンやレイナの分もありますので、各自の名前が書かれた場所の装備を確かめてください」


「どれどれ、っと?前と同じやつ?」

「そうだな、見た目はそんなに変わらないんだな?」

「ええ、最初に皆さんに渡された装備も十分な物でしたが、度重なる戦いで消耗しておりましたので交換です。あと、新しい物は以前の物よりも丈夫で軽くなっております」

「へーー。確かに着てみると前より軽い気がする!あと、ちょっと可愛くなったかな?」

「女性が着るということで、多少は気にされて製作されていると思います」

「あれ?ソーラの分は無いのか?」

「私は既に貰ったわ」

「そっか、しかし新品はいいなーー。なんか少し強くなった気がするわ。ジンとレイナには武器もあるんだな」

「ああ、だが以前より重いな。だが、しっくりくる」

「勇者は伝説の剣で問題ないが、ジンやレイナの武器は体に合わせて新しく製作した。以前は基礎体力が十分でなかったが、今なら使いこなすことができるだろう」

「ありがと!ルージュ!クルル!」

「ああ、ありがたい」

「なぁに、勇者がまだまだ弱いままだからな。少しでも周りが強くならないと」

「ぎく。な、なにを言っているですかね。最近ではルージュやクルルとだって互角に戦えるようになってきたじゃあないですか」

「はぁ、互角では困る。それに互角なのはジンやレイナも同じだろ。勇者にはもっと強くなってもらって、世界の敵を倒して貰わなければならいなんだから」

「だ、大丈夫だ!敵もあと3体だし、俺達も強くなっている!きっとなんとかなるさ!!」

「そうだといいがな」



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