第18話 夢

「おい!起きろ!!ジン!ジン!」

「こっちも起きませんか?」

「ああ、ジンもレイナも起きない。いったいどうなってんだ?!」

「街の方も同じでした。みんな死んだように眠りついていました」

「でも、まだ死んではいない!息はある。何か方法があるはずだ」

「そうですね!勇者様と私が起きれた理由を見つけられれば、あるいわ」

「あとは、元凶を探し出せれば・・・・・やはり世界の敵の仕業だろうか」

「おそらく、そうだと思います」

「だが、どこにいるかわからなければ、どうしようもない。ティアはどこか思い当たる場所はないか?」

「・・・・・・これが魔法による影響ならば、魔法士が集まっている魔法大学または街全体に力を広めやすい王城かもしれません」

「そうだな、ここからなら王城の方が近いな。準備を整えて王城に行ってもみよう」

「はい!」


 勇者達は戦闘準備を整え王城に向かった。通り道沿いにも眠り着いた住民がおり、街の様子から、住民全員が眠りについているようであった。王城内の様子も同様であり、兵士や召使いなども全て眠りについていた。しかし、他と違った点があった。

「・・・・感じるか」

「はい、これは5番目の怪物と相対した時と同じ空気です」

「ああ・・・・・リオの時も、こんな感じの力を放っていた」

「・・・・・・とにかく、力を感じる方向に向かってみましょう」

「そうだな、これは上の方だな」


 勇者達は力の放つ方向に向かって進んでいくと、城の屋上にたどり着いた。屋上からは街全体を見渡すことでき、そして1人のローブを着た男の老人が立っていた。力の放つ様子から目的の相手であることは一目でわかるほどであった。


「おい!そこのお前!!お前が酷いことをしたのか?!」

「はいーーーーー?ホッホッホ、これは異な事をおっしゃる。私は!皆を!救っているのですよーー!」

「馬鹿のことを言わないでください!みんなを眠らせてどうするつもりですか?!」

「だから救っているのですよ!!この世を生きる苦しみからね!!」

「何を馬鹿な!!」

「ホッホッホ、あなたは勇者ですね!流石は勇者です。私の魔法を受け付けないとは、本当に神に選ばれたのですねーー」

「そうだよ!恐れ入ったか。でも、もう1人眠らせ損ねるとは、お前の魔法も大したことないな!!」

「それは・・・・・まぁ、そうでしょうねーー。あなた様を眠らせることはできませんよーー。女神様」

「・・・・何を言っているのですか?!」

「いえいえ、こちらの話です。お気になさらないでください。それで勇者よ、私を討伐に来たのですかーー?」

「当たり前だ!みんなを元に戻せ!!」

「ホッホッホ、本当によろしいのですかーー?勇者様は見たはずです。どんな夢を皆が見ているのかをねーー」

「何を・・・・いっている?!」

「私が見せているのは、みんなが望む世界を見せているのですよーーー!であれば、このまま寝かせておく方が良いのではないでしょうかーー?」

「望む世界だと?!」

「ええ、そうです。とても幸せだったしょーー?あんな世界に一生暮らせたら、と思いませんかーー?勇者様の一存でそれを奪うのは、どうなんでしょうーーか?」

「あの世界で・・・・ずっと・・・暮らせる」

「勇者様、惑わされないでください。寝た状態でいつまでもいられるはずありません。いつかは死んでしまいます」

「ホッホッホ、その心配はありませんよーー。私の魔法に掛かっている者の体には、常にエネルギーとなる核が補充され続けますので、寿命が来るまで死ぬことはありませんよ。そして、私の魔法はどんどん広がり、この国どころか、この世界全てを飲み込みまーーす!!」

「それで、世界を滅ぼすのですか」

「ホッホッホ、滅ぼすなど、とんでもない。救うのですよ、この苦しく悲しい世界からーー」


 勇者の心は揺れていた。あの世界で一生暮らしていけるのであれば、どんなに幸せなのかと。戦うことも、仲間が傷つくことも、大事な人がいなくなってしまうこともない世界。そんな世界で暮らしたいと心が願っていた。


「勇者様!この者の戯言に耳を貸す必要はありません。これほどの魔法を使用しているのです。どんなに強敵でも、つけ入る隙はがあるはずです」

「・・・・・・・・」

「勇者様!しっかりしてください!くっ、私だけでも」

「おやおや。出来れば、あなた様とは戦いたくないですが」

「なら、皆を解放しなさい!」

「出来ない相談ですねーー!」


 ティアはローブを来た老人に爆発系の攻撃魔法を放ったが、老人の障壁魔法に阻まれてしまった。老人も先の怪物と同様に複数の魔法を同時に発動できるようであった。老人は炎系の攻撃魔法を繰り出した。ティアは勇者に攻撃が当たらないような位置取りをしつつ、相手の攻撃魔法を避けていた。老人は攻撃を続けながらティアに問いかけた。

「あなた様も欲しくはありませんかーー?!自分が望む世界を!!」

「くっ!」

「手に入るのですよーー!誰がそんな世界を手放そうと思いますか!」

「きゃぁ!」


 ティアは避けきれずに魔法攻撃を受けてしまった。事前に装備品に付与魔法を掛けていたおかけで、大きな負傷には繋がっていなかったが戦力差は絶望的だった。しかし、ティアの目は死んでいなかった。なんとか打開策を模索している様子であった。

「ふぅ、ご理解いただけないようですね。しかし、勇者様はご納得いただけた様子でーー」

「俺は・・・・もう・・・苦しみたくない」

「ホッホッホ、そうでしょう、そうでしょう。今、苦しみから解き放ってあげましょう」

「勇者様、待ってください!」


 老人はゆっくりと勇者に近づき魔法を掛けようとしたが、ぎりぎりのところでティアが近づき押し倒した。老人の魔法は空を切った。

「もういい、ティア。俺は、もう・・・」

「そうですよーー、無理意地するものではありません。幸せな世界にみんなで行きましょうーー」

「・・・・全部、全部なかったことにするつもりですか?!勇者様が何度も傷つき倒れたことも、レイナやジンが敵に殺されかけたことも、リオが死んでしまったことも!全部なかったことにするつもりですか!?それでいいのですか!!」

「お、俺は・・・・」

「私はそんなことは許しません!全部意味があったのだと!無駄ではなかったと証明したい、証明してみせます」


 ティアは勇者に宣言すると再び老人と相対した。

「やれやれ、もう少し痛い目をみないとわからないようですねーー」

「私は絶対に諦めない!」


 老人は再び連続で攻撃魔法を放った。ティアは変わらず防戦一方であったが、手が無いわけではなかった。どうやら老人はティアを殺しくない様子であり、ぎりぎり直撃にならない程度の魔法しか放っていなかった。ティアは自身に身体向上系の魔法を掛けた。

「無駄ですよーー。今のあなたの力では、多少身体能力を向上させても私を捉えることはできません」

「ええ、それだけなら」


 ティアは次に爆発系魔法を放った。それは老人に向けてではなく、自身のすぐ後ろに放った。ティアは高い身体能力を向上させた上で、爆発による衝撃を利用することで、一気に老人に近づいた。老人は一瞬動揺し、ティアは攻撃を当てることができたが、急所を外されてしまった。

「ぐぬぬぬぅ!やりましたね、この私に手傷を負わせるとは!しかし、これでも受けなさい!!」

「きゃあ!!」

「ティア!」


 老人はティアが態勢を整える前に攻撃を加えた。ティアは躱すことも障壁魔法を展開することも出来ず、直撃を受けてしまった。

「ティア!ティア!」

 勇者は倒れたティアを抱きかかえ声を掛け続けた。


「この!優しくしておれば図に乗りおっ・・・?ぐあぁぁぁぁ!!」

 ティアを攻撃した老人は、なぜか苦しみ始めてしまった。

「くぅぅぅ!やめろ!暴れるな!!脳が割れる!!!」


「ティア!」

「勇者・・・・様、諦めては・・・・いけません」

「だ、だけど・・・俺はもう」

「辛いことが・・・・ありました。これからも・・・・辛いことが続くかもしれません。でも、ここで諦めてしまったら全てが終わってしまいます。だから・・・うぅ」

「ティア!」

「ここで諦めたら・・・・・リオのお兄さん失格ですよ」

「・・・・・・・ああ、そうだな!リオに顔向けできないよな。わかった、やるだけやってみる」

「はい、勇者様ならできます」


 勇者はティアを寝かし、剣を手に持ち立ち上がった。老人は相変わらず苦しんでいた。

「あああああああああああ、ここまで来て!クソ!」

「随分苦しそうだな。だが、その苦しみを終わらせてやるよ!」

「勇者風情が!図に乗りおって!たかが神に選ばれただけの存在が!!!!!」


 勇者は老人に向かって突進した。老人も魔法によって迎撃したが全く集中できておらず、勇者に当てることができないでいた。勇者は身に付けていた身体向上系の魔法を巧み使うことで老人の魔法を躱し、一気に近づいた。

「これで終わりだ!!!」


 老人の胸を勇者の剣が貫いた。

「ぐふぅぅぅ、私は・・・ここまで・・・か」

 老人から剣を引き抜き、老人は地面に倒れこんだ。そして死の間際に呟いていた。


「・・・・・申し訳ありません。しかし・・・・ただでは終わりませんよ」

 老人は倒れている状態でティアと目があった。その時、ティアに向かって目で何かを放っていた。そして老人は絶命した。勇者はその行為に気づいていなかった。


「ティア、大丈夫か?」

「私は大丈夫です。世界の敵は倒されました。これで皆が起きると良いのですが・・・・」

「大丈夫だろ、城や街から人々の声が聞こえる」

 城や街に活気が戻ってくることを2人は肌で感じていた。



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