第17話 迷い

 6番目の世界の敵は打倒された。その情報は国中を一瞬で廻ったが、リオのことについてなどは、ルージュとクルルの判断により伏せられた。怪物から国の危機を勇者が救った、その事実のみを伝えたのである。事実として怪物となったリオは魔法士団を全員動員したとしても、倒せるとは思えなかったのだから。

 肝心の勇者はリオを殺したことに対する罪悪感と無力感と自己嫌悪で自室に引きこもってしまった。毎日ジンやレイナが様子を見に行き、ルージュやクルル等も慰めたが勇者の心は折れたままであった。


 今日も勇者は自室のベットの上で何をするでもなく、外を眺めていた。そして、いつも通りジンが訪ねてきて食事を持ってきた。

「ほらーー、コール。レイナの特製スープだぞ!食べると元気がでるぞーーー」

「はぁ、レイナのスープか。そういえばリオの奴もレイナに教わって、よくスープを作っていたな」

「・・・・・・・いい加減立ち直らないとリオに申し訳が立たないぞ」

「そんなこと言ったって・・・・・リオはもういないんだ」

「お前は正しいことをしたんだ。あのままリオを放置すれば、どれほどの被害が出ていたか。それは救ったんだ、勇者として立派な行いだ」

「でも、リオは救えなかった。それどころか、俺はあいつをこの手で!!」

「・・・・・リオも救われたさ。とりあえずスープはしっかり食べろよ。あんまり我儘言うと無理やりにでも食わせるからな!」


 ジンはそう言うと部屋を後にした。勇者はジンの言う通りスープを口に入れたが3口で食べるの止めてしまった。

(勇者ってなんなんだよ!世界を救う者じゃないのかよ!!なんで子供1人救えないんだよ!)

 勇者は何のために戦っていたのか、何と戦えばいいのかわからなくなっていた。そして、再びベットに横になった。



「に・・さん、・・・・兄さん、・・・・兄さん!起きて!」

「あああ?」

「もう兄さん!いつまで寝ているんですか。ジンさんもレイナさんも来てますよ」

「・・・・・リオ?!生きている!どうして?!ここは、俺の・・・家?」

「はぁ、いつまで寝ぼけているんですか?今日は皆さんと森に行って狩りや釣りをすると言っていたじゃないですか。もう外で待ってますよ」


「やっと起きたか、さっさと行くぞ。もたもたしていると日が暮れてしまう」

「相変わらずコールはお寝坊さんなんだからーーー、しっかりしてよね」

「ああ」

 コール達は村から少し離れたところの森に事前に仕掛けていた罠の確認に出かけた。いくつかの罠には獲物が捕まっており、その場で血抜きを行い、次の罠へと移動していった。一通りの確認が終わったとで川で獲物を洗い、空いた時間で釣りを楽しんだ。

「なぁ」

「なんだ?」

「俺達って勇者になって世界を救うじゃなかったか?」

「・・・・・・驚いた。まだ寝ぼけているの?」

「いや、だってこの前の選定の儀で俺が勇者に選ばれただろ?!」

「・・・・・・・いや、選ばれていないだろ。普通に札の色はみんな変わらなったし。それに変わっていたら、のんきにこんなところで釣りなんかしてられないだろ」

「・・・・・いや、確かに・・・・勇者になってリオをこの手で・・・・」

「リオがどうしたって?まぁ、あんまりリオに迷惑かけるなよ」

「リオは生きて・・・・いる?」

「はぁ、全くどうしたんだ。今日はこの辺で帰るか。獲物もばっちり確保できたし。おーーーい、レイナ!帰る準備だ!」

「わかったぁぁ!」

 コール達は道具を片づけを獲物を持ち村へと戻った。


 コールが家に帰えるとリオが待っており、一緒に獲物を整理したり夕食の準備に取り掛かった。

「なんか、今日兄さん、おかしくない?僕のことをチラチラ見てきて」

「そ、そんなことはない!さぁ、さっさと終わらそう」

「そうかなーー」


 リオと一緒に家族で夕食を取っていたが、皆はいつもと変わらず食事を取っていた。夕食後に気分が優れないと言ってコールは先に寝ることにした。コールは横になりながら今日のことを考えていた。

(やはり、おかしい。リオは実の弟ではないはず。なんでみんな普通に受けれているんだ?!それより俺は勇者であったはず、どうなっているんだ?)

 答えの出ない自問自答を繰り返していると、部屋にリオが入ってきた。

「兄さん・・・・大丈夫?」

「あああ!?、大丈夫だ」

「そお?それなら良かった。・・・・・・あの」

「ん?どうした、リオ」

「今日は一緒に寝たらダメかな?」

「い、いや!ダメだ!」

「・・・・・・やっぱり、兄さんは僕のことが嫌い?兄さんの本当の家族じゃないから。捨て子・・・・だから・・・・・」

「そ、そんなことはないぞ!そう!ほら、俺は今日体調も悪いし、移すと悪いし・・・・・」

「・・・・・うぅぅ、兄さん」

「・・・・・はぁ、わかった。一緒に寝よう」

「ありがとう!!」

 そういうと、リオはコールの寝具の中に入ってきた。

「温かい」

「ああ、そうだな。さぁ、もう寝るだ」

「うん」

 コールは考えるのを止めていた。自分にとって欲しかった日常が広がっていたのだから。ジンがいて、レイナがいて、リオがいて、誰も傷つくことなく平和に生きている。ただ、それだけで幸せを感じていた。




「お・・・・て、・・・・・おきて、・・・・・起きて!勇者様!!」

「あああ?なんだリオ、まだ早いだろ?」

「寝ぼけている場合ではありません!勇者様、大変なことになっております!」

「ん、ティアか?あれ、リオはどこいった?」

「まだそんことを。もう夢は覚めたのです、リオはもう、・・・・いません!」

「・・・・・そうか・・・・夢・・・・か」

「そんなことよりも、大変です。皆が!!」

「何かあったのか?!」

「皆が起きません!!」


 

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