第16話 決断
「殺すしかないだろ」
「馬鹿な、そんなことできるわけないだろ!」
リオの胸から紋章が浮き出たが、その後も熱にうなされベットの上で苦しんでいた。ルージュやクルルが急遽呼び出され、今後の方針について会議がもたれた。リオの治療や監視はレイナに任せ、別室にて話し合っていたが議論は平行線を辿っていた。ルージュはリオを世界の敵として処刑することを進言していた。それに対して、勇者は何とか救う方法がないか模索するべきだ、と発言していた。
「ルージュ、考えなおせ!リオはリナちゃんの友達でもある。妹の友達をその手に掛けても良いのか?!」
「良いも悪いも、やつは世界の敵だ。それは出会った時から危惧されていたことだ。今更どうこうできるものではない」
「あああ、もう!わからずやだな!!ジンからも何とか言ってくれよ」
「俺は・・・・リオは俺達の大切な弟であると思っている」
「そうだろ!」
「ただ・・・・同時に世界の敵であり討たねばならない、という言い分もわかる。そして、世界の敵を放置すればコールやレイナを危険に晒すということも。俺は・・・・あいつが、リオがコールを殺すところなど見たくもない」
「なら俺があいつを殺すのは良いのかよ?!」
「勇者様、そのあたりで落ち着いてください。誰一人、リオを心から殺したいと思う者はおりません。しかし、手立てがないのです」
「だけど、だけど・・・・・・なんとか、隠しておくことはできないのか?」
「無理だな。勇者、あいつの核の流れをお前も見ただろ。どんどん増加している。異常な状態だ。おそらくだが、あいつも5番目のやつと同じく、いずれ怪物に変わるのだろう」
「・・・・何とか止められないのかよ?」
「時間が無さすぎる。長い時間があれば手も考えられるだろうが、あの様子ではもう時間は・・・・・」
「コール!リオが!!」
レイナが突然部屋に入ってきた。リオが目覚めたこと、そして話があるということを伝えた。
「リオ!!大丈夫か?!」
「勇者・・・・様、僕は・・・・世界の・・・敵なのですね」
「そ、そんなことはない。大丈夫だ!!」
「勇者様は・・・嘘が下手ですね。お願いです・・・・僕を・・・殺してください」
「そんなこと、出来るわけないだろ!!」
「お願いです。僕は勇者様を・・・・・皆さんを殺したくない。だから・・・うぅぅあああああああああ」
「リオ!大丈夫か、リオ!!」
「コール!!!離れろ!!!」
リオから凄まじい核の波動を感じ、そして近くにいた者たちを吹き飛ばしてしまった。そして、リオは唸りながら窓から部屋を飛び出した。
「ま、待て!!リオ!!」
「クソっ!!追いかけてあいつを討つぞ!!クルル、手伝え!!」
「ああ、わかった!」
「待て、俺も行く!!」
「勇者はここで待ってろ!お前には無理だ!」
ルージュとクルルは同じく窓から部屋を飛び出しリオを追った。
「俺も行く。レイナはコールを頼む」
「な!お前まで!」
「俺にとってもあいつは弟のようなものだ。だから・・・・・あいつが怪物になる前に、この手であいつを止める」
「くっ、ちくしょう、ちょくしょう!!折角強くなったのに・・・・・俺は何のために強くなったんだよ!!ちくしょぉぉぉぉぉぉ!・・・・・・俺も行く」
「良いのか?辛い思いをするだけだぞ?」
「このまま皆に任せたら、この先ずっと後悔する気がするからな」
「わかった、一緒に行こう」
勇者達は先行したルージュを追った。そして、すぐに追い着いたが、そこで驚愕の物を見た。
「あれは・・・・・なんだ?」
「勇者、あれが今のリオだ」
「え!!?」
それは全長6mは超える巨大な丸い物体であった。それは各所に数えきれない程の手が生え、目があった。まさしく怪物、化け物であった。そして、その怪物は徐々に大きくなっていった。
「これ以上はやらせない!!」
ルージュは連続で攻撃魔法を繰り出し、クルルも接近して斬撃による攻撃を加えた。しかし、攻撃したそばから回復、膨張していきどんどん大きくなっていった。
「くぅ!このまま大きくなれば街にも被害が出る!火力が足らない!!魔法士団にも応援を頼まなければ」
ルージュは緊急救援を伝える発光信号を上空に放った。クルルやレイナは近接戦を仕掛けていたが、多数の腕による反撃で容易に近づけないでいた。ジンとルージュで攻撃魔法を放っていたが、とても削りきれる物ではなかった。勇者はその光景を呆然と眺めていた。だが、レイナやジンが攻撃を受けるのを見て我に返り、リオであったものに言い放った。
「リオ!!やめろ!!お前は戦うことが嫌いだっただろ!?」
その声に怪物は反応し動きを止めた。
「ユウ、シャサマ?ソコニ、イルノデスカ?」
「リオ、リオなのか?!大丈夫だ!!今助ける!!」
「馬鹿!!不用意に近づくな!!!」
しかし、勇者はルージュの言葉に従わず怪物に近づいていった。
「ユウシャサマ、オネ・・・イガアリ・・・ス」
「なんだ?!ちょっと待ってろ今助ける!!」
勇者は怪物のそばまで来て、どうにかできないか探り始めた。
「ボ、クヲコロシテ・・・・クダサイ」
「何を言っているんだ?!今助けるっていっただろう!!」
「モウ・・ダメデス。ジブンガ・・・・・カイブツニナッテイクノ・・・・ワカリマス、ダカラ!!」
怪物が丸い体を2つに割り、中の急所らしき物をさらけ出した。
「オネガイ・・・・・モウカラダガ!!」
「リオ!!!」
「コールやるんだ!!これはリオの最後の願いだ!!!」
いつの間にか近くまでジンとレイナが来ていた。
「でも!リオは、俺達の・・・・」
「コール、リオは苦しんでいる。助けてあげよう」
「くっ、クソ!!!・・・・・・・・・わかった」
勇者は剣を抜き急所に剣を向けた。
「お前だけに背負わせはしない!」
「一緒にリオを止めよう!」
ジンとレイナも共に剣を握り、そして急所らしき場所を貫いた。
「グヒャァァァぁぁぁ!!!!」
怪物は大きなうめき声を上げ崩れ落ち、そして、どんどん小さくなっていき無の核へと変わっていった。
(兄さん、ありがとう)
勇者はそんなような声が聞こえた気がした。
「ああああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
勇者はその場に膝をつき泣き叫んだ。その声は町中に響き渡るのではないか、というほどであった。
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