第14話 迷い子

 勇者は日夜、魔法の訓練に励んでいた。以前には見られなかった笑顔や余裕が訓練中も現れるようになり、周りも安心して見ていることが出来る程であった。

 ただし、実力自体は同じく身体向上系の魔法を使いこなすレイナと同等、身体向上系と放出系の両面を使用するジンには一歩及ばず、一流の領域であるルージュやクルルには歯が立たない、という位置づけであった。

 5番目の敵であった怪物の討伐についても、事前にルージュやクルルが与えていた傷と、勇者の予想外な動きに対応できなかった怪物の隙が大きく影響していたと考えられた。それでも、着実に力を付けている勇者は以前にはなかった自信を付けたようであった。


「本日は、ここまでとする」

「「お疲れさまでした!」」

「しかし、勇者の魔法の使い方は見れば見る程、不思議なものだな。気持ちが入れば、それに応えるように魔法が発動するとは」

「へっへっへ!どうよーーー、これが勇者パワーだ」

「でも、気持ちが入らないと激弱になるのはどうなんだ?俺との模擬戦も放出系魔法にビビらなければ勝ててただろうに」

「ちょ、ちょっとびっくりして魔法が解けてしまっただけだ!次は勝つ!」

「しかしながら、勇者様の成長は目を見張るものがあります。今までの基礎訓練をしっかり実施してきた賜物ですね」

「ふふん!次までにもっと強くなって華麗な活躍を見せてやるぜ!」


 確かに勇者は並の正規兵や魔法士を凌駕する力を付けるに至っていた。しかし、世界の敵と戦っていくには、まだまだ心もとない強さであった。それは勇者自身も感じており、より強くなるために早朝訓練も自主的に実施していた。ある朝、勇者はジン達と訓練をしていると館の外に男の子供が倒れているの発見した。勇者は急いで子供に近寄った。


「おい、大丈夫か?!」

「うぅぅん」

「だいぶ衰弱しているな。急いで部屋に運んで治療しよう」

「そうだな!」


 勇者達は子供を客間に運び、急いでティアに連絡をつけ、館まで来てもらった。ティアは館に着くと子供容態を確認し必要な処置を実施した。

「特に大きな外傷や病気は無さそうです。十分な食事が取れていないためか衰弱しておりますが、起きて食事を取れば問題ありません」

「よかったーー」


 訓練の時間が近くなったため、ルージュやクルルが訪問してきた。そして、事情を聴いたところで呆れてしまった。


「馬鹿か貴様らは!流石に罠だろう!」

「いやーーー何ていうか、子供を見つけたら居ても立っても居られなくて・・・・」

「はぁーーー、ジンも何も思わなかったのか?」

「まぁ、思ったがその前にコールが走って行ってしまったしな。念のために魔法を構えていたが、子供に紋章がなかったからとりあえず保護した形かな」

「そうそう、ちゃんと紋章が無いことを先に確認したし!!」

「ホントか?他はともかく勇者は嘘だろ?だいたい、いつ紋章が現れるかはわかっていないのだから。これから、あの子供が怪物になってもおかしくないだろ」

「まぁまぁ、勇者様達も悪気があってしたことではないと思います。その辺で止めてあげましょう」


 ルージュは相変わらず呆れたままであったが、クルルの執成しにより一旦は落ち着いた。そんな中、子供に付いていたレイナから目が覚めたと連絡があった。


「ここは?僕はいったい?」

「大丈夫だよ。ここは貴族の館で、君は館の前で倒れているところを保護されたの。君の名前は何て言うのかな?」

 レイナは優しい声で問いかけた。


「僕の名前?・・・・名前、名前。うぅ、何も思い出せない」

「おい、貴様!ふざけているのか?!」

「ルージュ、落ち着いて、相手は子供だ。あまり怖がらせるものじゃないよ」

「ちぃっ!クルルは優しすぎる」

 子供は館の前にいた理由どころか、自分の名前もわからない状態であった。ルージュは反対したが、しばらく館で面倒を見ることになった。子供は勇者達の介護もあり体の方は順調に回復していった。しかし、変わらず記憶の方は戻っていなかった。子供には暫定として"リオ”という名が付けられた。本人も気に入っている様子であり、勇者達とリオの共同生活は続いていた。


「ふぅぅぅーーーー、疲れたぁぁ」

「はい、勇者様。お水をどうぞ」

「ああ、ありがとう、リオ」

 勇者達の訓練は変わらず続いていたが、リオは勇者の弟ということで周りを説得し、訓練の補助として飲み物やタオルなどを配ったりしていた。リオは心優しく暴力などは嫌いのようであったため、一緒に戦闘訓練などをすることは無かった。教養などの勉強には共に参加し、時間が空いている時にソーラやティアから文字の読み書きなどを教わっていた。

「はい、ルージュ様もどうぞ」

「・・・・・ああ、すまない」


 リオはジンやレイナ達の方にも飲み物を配っていった。

「・・・・・あいつに怪しいところはないか?」

「まだ疑っているのかよ、特に問題はないぞ。良い子だ。最近だとジンとも街に買い物に行ったり、レイナと一緒に料理も作っている。一応一緒に風呂に入ったりして紋章を確認しているが、特に問題は無い」

「そうか、ならいい」

「お前ぇぇーーー。子供が嫌いなのか?」

「そんなことはない!俺にもあいつと同じくらいの妹がいるし、子供は好きな方だ」

「へぇーーー。それは初耳だな、今度連れてきて一緒に遊ぶのはどうだ?リオも喜ぶと思うぞ」

「・・・・・それはできない」

「全く疑り深いなーー」

「妹は・・・・目が見えないんだ。そして足も悪い」

「・・・・それは、すまない。悪いこと言ってしまったな」

「問題ない・・・・そうだな、妹を連れて来ることはできないが、今度あいつと一緒に我が家まで遊びに来るといい。歓迎するぞ」

「そうか、なら今度遊びに行くよ!」

「ああ、さてそろそろ再開するぞ」

「おうよ!」





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