第12話 覚醒?

 勇者達は以前に遊びに行った商店街に向かっていた。今回はジンやルージュ、クルルも参加していたため、勇者に奇異な目が向けられることはなかったが、集団としては非常に目立っていた。


「今日は何食べよっかな~~」

「そんなこと言っても、結局は目についたもの全部食べるんだろ」

「もう、コール!私、そんなに食い意地張ってないよ」

「確かにレイナなら、そうだろうな。うん、うん、容易に想像ができる」

「ジンまでーーー!」


 勇者達が広場まで来ると、クルルが皆に止まるように言った。

「皆さん、戦闘中準備をしてください。どうやら敵が現れたようです」

「え?!どこだよ?!」

「正面です」

 勇者達の進行方法には1人の男が立っていた。その男は独り言を繰り返しぶつぶつ言っていた。クルル達は勇者を守るような配置に着き、男に問いかけた。

「そこの男、我々に何か用か?!」

「勇者さえ、勇者さえ・・・・・・」

「どうやら話が通じないのは共通のようだな」

「うおおおおおおぉぉ!!」

 男は炎の魔法を放ったが、事前に構えていたルージュの障壁魔法によって防がれた。男はそのままの勢いで襲い掛かってきたが、クルルによって防がれたため勇者に近づくことは出来ていない。


「みなさん、一旦ここから離れてください!」

 ティアは周辺住民に呼びかけると共に回復魔法の準備をしていた。ソーラは既に付与魔法を仲間にかけており、ルージュとクルルが突破された時に備えていた。ジンとレイナは勇者の両脇を固めており、勇者自身も剣を構えていたが出番があるように思えなかった。男は剣と魔法を駆使して挑んできていたが、勇者達とは人数差が大きく、また単体の実力でもクルルやルージュの敵ではなかった。クルルは相手の攻撃を受け流しつつ、ルージュの攻撃魔法によって怯んだところで懐に入り右腕を斬り落とした。男の敗北は誰にも目にも明らかであった。


「何か言い残すことはあるか?」

「くそ!くそ!くそぉぉぉぉ!邪魔するな!!」

 男は帯刀していたもう一つの剣を左手に持ってクルルに襲い掛かったが、クルルは振り下ろされた剣を躱し、男を斬り捨てた。


「あぁぁぁぁ、勇者を、勇者を殺さなければ、勇者を!この世界が・・・・」

 男は地面に倒れ、呪いの言葉を吐くように呟き絶命した。

「終わったようだな」

「ああ」

ルージュとクルルが男の死と紋章の確認を実施した。

「やはり、この男が5番目の敵のようだな。勇者、安心しろ。これでまた一歩前進だ」

「そうか、今回は誰も傷つかなくてよかった」


 その時、男の紋章が黒い光を放った。そして、男の体が異常な変化が始まった。体が大きく膨らんでいき、馬と牛を組み合わせたような顔となり、腕が4本に増え、その全長は4mを超える怪物となった。


「グォォォォオオオオ!」

「なんだ、こいつは?!」

「ルージュ!まずい!!」

 怪物は4本の腕から魔法を勇者や周辺に放った。

「きゃぁーー!」

 まだ、周辺に残っていた住民に魔法が飛んだが、ソーラがぎりぎりで防いだ。周辺の住民は我先にと逃げ出していき、広場には怪物と勇者達7人が残るのみであった。


「これ以上はやらせん!」

 ルージュは雷撃の魔法を怪物に放ったが、怪物の障壁魔法によって防がれてしまった。しかも、怪物は別の攻撃魔法を同時にルージュに向けて放っていた。系統が異なる魔法を一度に複数放つことは、読解の問題と計算の問題を一度に解くようなものであり、思考や核のコントロールが追い付かないため非常に難しい技能とされている。この怪物は一度に4つの魔法を同時に放てている。ルージュは怪物からの魔法攻撃をまともに受けたことで重症を負い倒れこんでしまった。同時に勇者達にも魔法が放たれていたが、ジンとティアによって防がれていた。しかし、防御するのが精一杯であり、攻撃に転じたとしてもルージュのように逆撃を受けると考えられていた。


「ルージュ!くっ、勇者様!ジンたちと共にお引きください。ここは私が食い止めます」

「な!こんなやつを1人では無理だ!」

「なんとか、時間を稼ぎます」


 クルルは身体能力を向上させることで、怪物の魔法を掻い潜り、懐まで潜り込むことに成功した。そして、足を斬りつけようとした。しかし、怪物は想像以上に俊敏に動くことができ、攻撃は躱されてしまった。しかも、怪物はクルルの一瞬の動揺を見逃さず、巨大な腕によってクルルは弾き飛ばされてしまった。


「クルル!!・・・・これは、やるしかないわね」

 勇者達とは離れたところにいたソーラは遠距離から魔法を怪物に向けて放っていった。怪物は当然防御と攻撃を両立させながら反撃していった。ソーラは周辺の障害物を利用しながら相手の魔法を避けつつ、魔法を放っていった。勇者達の方は防御はティアに任せ、ジンが魔法攻撃を放っいたが、怪物に直撃を与えるには至っていない。


「おい、コール!やはり、お前は逃げろ。こいつはやばい!!」

「馬鹿な!俺は勇者だぞ。世界の敵を倒すための勇者が一番先に逃げるわけにいかないだろ!」

「きゃあ!」


 ソーラは怪物の魔法を回避しきれずに直撃を受けてしまった。後顧の憂いが無くなった怪物は勇者達に突撃を敢行した。その速度は速く、あっという間に距離が詰められ、怪物は拳を振り上げた。怪物の攻撃を防ぐためにティアが障壁魔法を展開したが、魔法ごとティアは吹き飛ばされてしまった。続いて怪物を攻撃をしようとしてきたが、ジンは魔法の切り替えができておらず障壁魔法を展開する前に攻撃を受けてしまい、弾き飛ばされてしまった。続いて怪物の攻撃が勇者を襲った。


「このぉぉ!!」

 怪物の攻撃は身体能力を限界まで向上させていたレイナが槍によって防いだが、怪物とは手数が違うため押されていた。攻撃に耐えながらレイナは勇者に言った。

「コール!・・・・速く・・・逃げて」

「お、俺だって!」

 勇者は伝説の剣にて斬りかかろうとしたが、怪物が瞬時に発生させた衝撃波によって後方に飛ばされてしまった。

「がはぁ」

「コール!あ!!」

 レイナは一瞬の隙を突かれてしまい、吹き飛ばされてしまった。周辺の障害を排除した怪物は勇者を粉々にするため、4本の腕によって魔法の収束し勇者に放った。激しい爆音と光が周辺を支配した。


「ぅん? あ!!ジン!!」

 間一髪のタイミングでジンは勇者と怪物の間に入ることに成功し、その攻撃を防いだ。しかし、展開した障壁魔法だけでは防ぎきれなかったため、その体はボロボロであった。

「ジン!!大丈夫か?!」

「・・・・コー・・・ル。早く・・・・逃げ・・・ろ」

「しっかりしろ!おい、こんなところに俺を置いていくなよ!!!」


 怪物はもう一度魔法を放とうとしたが、後方から魔法の攻撃を受けた。ルージュが連続で攻撃を仕掛け、防戦となった怪物の脇からクルルが腕を斬り落とした。

「こちらを無視してもらっては困るな!」

「騎士の意地を舐めるな!!」

 ルージュとクルルの攻撃は凄まじく、怪物は防戦一方となり多くの傷を負った。怪物は周辺に衝撃波放ち、クルルが怯んだところで、勇者に突撃を始めた。ルージュも攻撃魔法を繰り出していたが、怪物は無視して勇者に突撃した。

「グォォォ!!!」

「この野郎!!よくもやってくれたな!!こいや!!!!」


 勇者は怪物に向かって高く飛んだ。そう、とても高く飛び、そのまま怪物の顔に向けて突撃した。

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「グォォォ!!」

 勇者の剣は怪物の顔に突き刺さり、大量の血が飛び出した。怪物は絶命し、大きな音を立てて地面に倒れこんだ。


「どうだ!!!これが勇者の力だ!!!」

 勇者は高らかに宣言し、5番目の敵を打倒すことに成功した。


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