第11話 苦闘

 勇者の身体向上系魔法の取得は苦難を極めた。万が一の場合に備え、ルージュやクルルの他にソーラやティアが参加できる日に限り訓練を実施していた。初めはソーラやティアも勇者の身体向上系魔法の取得には難色を示していたが、勇者の思いに触れることで、その強い気持ちに気づき訓練を実施することを承諾した。勇者は放出系の魔法が使えないが、体内で核をコントロールすることや別の物に変えることはできた。しかし、本来であれば体内で生成する物を体外に放出させることで正しい物が生成できているか確認し、問題ないことが確認できてから体内で生成するのが常道である。勇者は、その過程を実施することが出来きないため、目的の物が生成できたか確認できないまま体内で生成を実施していた。ある時は無反応、ある時は体の中を傷つけ、ある時は訓練後に突然倒れるなど問題が多発した。そのたびにティアやソーラなどの回復魔法によって治療をしていた。たびたび問題が発生することからルージュ達は何度も止めるように勇者を説得したが、頑なに譲らずに訓練は続いていた。


 そのうち眠りについていたレイナも目を無事に目を覚まし、ささやかな復帰祝いが開催された。勇者はレイナに身体向上系魔法の訓練を実施していることを伝えた。レイナは驚き勇者の体を心配した。一度は止めるように伝えたが、勇者の覚悟を見て協力することを約束した。そして、魔法の訓練は続いた。


「がはぁ!」

「大丈夫か!勇者!!」

「今治療いたします!」

 何度も繰り返した光景である。既に数えられないほどの失敗を繰り広げ、そのたび回復魔法によって治療がされていた。しかし、回復魔法も万能ではない。あくまで体の回復を促すように魔法を掛けているのみであるから、深い傷を負ってしまった場合は手の打ちようがなくなる可能性がある。


「もう一度だ!!!」

「やめろ!勇者!これ以上は体が持たない!」

「うるせぇ!やるんだよ!なんとしてでも強くなるんだ」

「だが・・・・・以前と変わらず進展はない。いや、体が傷ついていることを考えれば悪化している」

「くっ!だが・・・・しかし・・・・」

「コール。日も暮れてきた、とりあえず今日はこの辺りにしておこう。明日また頑張ればいい」

「・・・・・・ああ、わかった」


 勇者の覚悟は全員がわかっている。しかし、目に見えての進展はない。確かに体を傷つけたり、異常をきたしていることから何かしらは生成できているはずであるが、身体の能力向上に繋がっていないことから成功しているとは言い難い。正しい状態であることが確認できれば続ければいいのだが、それが分り難くいため指導も難しくなっていた。勇者は肉体的な問題からか日々の食欲が減退しており、誰の目にも限界が近いことが明らかであった。


「それでは、本日はこれで失礼します」

「勇者、しっかりと休息をとるんだ。わかったな!」

「ああ」


 勇者達は就寝の準備をしていた。それぞれの部屋に分かれる際にジンから勇者に釘が刺されていた。

「ちゃんと寝ろよ。お前はいつも無茶が過ぎる」

「ああ、わかっているよ」

「はぁーーー。その顔、今日も練習するつもりだな」

「・・・・・気づいていたのか」

「そりゃあ、隣の部屋から毎日苦しそうな声が聞こえれば察するさ」

「時間がないんだ。もう敵はどこかきっとにいる。次はどうなるかわからない!」

「だがな・・・・・」


 ジンとレイナは困ったように顔を見合わせた。そして、レイナからある提案が持ちかけられた。

「じゃあ!今日はコールと一緒に寝る!」

「はぁ?!何言ってんだ?」

「前はよく一緒に寝てたでしょ?!」

「前って、小さい頃だし。それに3人で寝ていただろ」

「なら俺も一緒に寝よう」

「おい!」

「けっーーーてーーー!はい、みんな部屋に入って入って」

「って、俺の部屋かよ」

「そうだろうな」

「おい、ジンもレイナ!ふざけるのもいい加減にしろよ」

「ふざけてないよ。このままだとコールがどっかにいってしまうような気がする」

 レイナは勇者の両手を持ち、顔を近づけ真剣な眼差しを勇者に向けた。勇者は恥ずかしくなり目を逸らした。

「ああ、わかった、わかった。一緒に寝ればいいんだろ」

「やった!」


 3人は勇者を真ん中に一緒にベットに入った。それは昔と同じ配置であった。レイナは勇者の腕を抱えながら、安心したのかすぐに眠りについていた。勇者は大きくなった幼馴染が気になり、緊張して眠りにつくことが出来ないでいた。レイナを起こさないように静かにジンに話しかけた。

「ぉぃ、ジン起きているか」

「ああ・・・・寝れないのか?」

「あたりまえだろ。なんでこんなことになったんだろうな」

「だいだいコールのせいだろ。昔からレイナが3人で寝たがる時はコールが無茶して怪我したり、山に入って帰るのが遅くなったりした時だったからな」

 勇者は小さく唸りながらレイナに目を向けた。


「明日は久しぶりに皆で街に出よう」

「だが、魔法の訓練が」

「気分転換も必要さ。それはルージュ達も感じていることだろう。これ以上、皆に心配かけると毎日3人で寝ることになるぞ」

「はぁ、わかった」

「さぁ、もう寝ろ。いくら緊張していても体はボロボロだ。目を閉じてゆっくりと呼吸を繰り返せば自然と寝れる。おやすみ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る