第9話 4番目の敵

 今日は王女が訪ねてくる日である。本来であれば先の会食の際などで親睦を深める予定であったが、毒殺の件があっため台無しとなり、訪問予定も魔法大学の件で負傷したため延期となっていた。今日は勇者とジン、レイナ、ソーラで王女を迎えることになっていた。


 勇者達は緊張した面持ちで王女を迎えた。

「はじめまして、ラーラ・クライスウールです」

「よ、ようこそお越しくださいました。本っ、本日はお日柄もよっ」

「ふふっ、そのようにかしこまる必要はありまんせんわ、勇者様。世界を救うと言われる勇者様の方が王女より上であると思います。どうぞ、いつも通りの振る舞いでお話いただければ」

「そ、そうですかー、助かります!王女様は美しいのですごく緊張してました」

「まぁ、お上手ですね。勇者様も息災なようで安心いたしましたわ。厳しい訓練に日々臨んでていると伺っておりますが、お体の方は大丈夫ですか」

「はい、教官が厳しくて、いつもヘトヘトです。もう少し可愛げがあれば違うんですけどね」

「あらあら、だそうよ。ルージュ」

「ええ、これはもっとも厳しくしても平気そうですね」

マントのフードで勇者達は気づかなかったが、王女の後ろに控えていた護衛の中にルージュとクルルがいた。


「お、おい!!いないと思っていたら、今日はそっち側かよ!!」

「そっち側も何も、王女の護衛が本来のお務めだ」

「僕も今日は王女の護衛なんだ。ごめんね」

「私も彼らにはいつもお世話になっているのよ。そのため勇者様のお話もよく聞かせてもらっていたわ」

「うわーー。恥ずかしい話ばかり聞いたのでしょ?」

「そんなことはないな。勇者として日々がんばっている、と聞いているわ」


王女と勇者達は、他愛のない話を繰り返しながら時間を過ごした。

「姫様、そろそろお時間になります」

「そうですか。勇者様、楽しい時間を共にでき嬉しく思います。本日はこれにて失礼いたしますわ」

 王女は席を立ちクルルとルージュが出口を開こうとした瞬間、王女の後ろに控えていた護衛の1人が魔法を2人に放った。それと同時に王女周りの護衛を斬り落とし、王女の首に剣を突き立てた。


「動くな!!」

「な、なんのつもりですか」

「王女様、あなたに恨みはありませんが、勇者を討つためです」

「な!」

 勇者達は突然のことに驚き、動けないでいた。不意打ちの魔法を受けたルージュとクルルは負傷しているものの、動けないほどではない様子であったが、姫を人質に取られている様子を見て動けないでいた。


「勇者よ。王女の命が惜しければ自らの命を差し出せ!勇者の命さえ奪えるのであれば、他者にこれ以上の危害は加えない」

「くっ」

「まて、コール!。おい、お前!たとえ勇者を殺せたとしても逃げ場はないぞ!」

「もとより生き残るつもりはない!勇者さえ殺せればいいのだ!!!さぁ!勇者よ!王女がどうなってもいいのか?!!」

「勇者様、無用です。私と勇者様の命は比べるまでもありません。私に構わずこの者を討ってください!」

「だまれ!!」

「「姫!!」」

「動くな!!!!」

 ルージュやクルルの動きは牽制されており、万全でない体では打開策がないような感じであった。


「さぁ!勇者!!どうする?!!!」

「・・・・・・わかった!」

「「コール!」」

「俺は勇者だが、無茶苦茶弱い。今までも皆に助けられているばかりで自分は何もしていない。こんな時に役に立たないと勇者じゃないよな」

 勇者は言葉を震わせながら呟いた。


「そうだ!お前さえ死ねばいいのだ!!! それから!!!。勇者の横にいる男!!」

「!!」

「そう、お前だ、王女と勇者の会話中もずっと防御魔法を構えていたな!今もそうだな!!その構えを解け!命令だ!」

「ジン、そうだったのか。俺は大丈夫だ。あいつの言う通りにしろ」

「だが!・・・・・くっ、わかった」

「ありがとう。ずっと助けてくれて・・・・」

 ジンは準備していた魔法を解き、勇者は護衛の前に立った。


「はっ!はっ!はっあ!勇者が殺せる!!!これで終わりだ!!!!」

 護衛は勇者に剣を振り下ろした。その瞬間、血が宙を舞った。しかし、それは勇者の血ではなかった。


「レイナ!!!」

 間一髪のところで勇者と護衛の間にレイナが割り込んだのである。護衛の一瞬の動揺の隙を見逃さずソーラが衝撃波の魔法で弾き飛ばし、態勢を立て直される前にジンの剣が護衛の胸に貫いた。

「くそ!・・・・あと・・・・・あと少しで!勇者を!!」

「貴様はここまでだ!コールは殺させない!!」

 護衛は全てに絶望したような顔で絶命した。



「レイナ!大丈夫か!!レイナ!!」

「勇者、落ち着け!今、回復魔法を掛ける!」

 必死に声をかける勇者には、周りの声は既に聞こえていなかった。

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