第5話 3番目の敵
勇者とその仲間たちは基礎体力訓練と魔法の訓練に明け暮れていたが、勇者は依然と変わらず水を作ることが出来ないでいた。教官として教えていた貴族も身体向上系は得意であるが、放出系の魔法は専門ではないため、専門家に教えを請うことになった。
「俺も今日ついに水が作れるようになる!」
「といいな」
「うぅぅー。あんなに練習したのに出来ない!なぜだ!!」
無駄話をしながら歩いている場所は魔法大学の廊下である。ここでは様々な魔法の研究がされており、多くの新たな魔法が生み出されいた。その中で高名な魔法士に教えを請うことになっている。大学の職員に案内されていると向いから大魔法士のような黒い衣装と守護騎士のような白い衣装の2人の青年が歩いてくる。
「おや、これは勇者様でないですか。初めまして、ルージュ・ラビリアスと申します。このようなところでお会いするとは。勇者様専用の魔法の開発か何かですか?」
黒い衣装の青年は嫌味ったらしく質問を投げかけてきた。
「いや・・・・これはちょっと魔法の勉強に・・・・」
勇者は言葉に詰まりながら返答した。
「おやおや、そうでしたか。勇者様でも勉強が必要なのですね」
「こら!ルージュ!あまり勇者様に失礼なこと言うな。これは失礼しました。私の名はクルル・リーネットです。お見知りおきください」
白い衣装の青年は好感の持てる人柄であり、また気配りのできる人であった。
この二人は今後の国の未来を担う人材と目されている。黒い衣装の方は見た目通りに放出系の魔法を使うことに長けており、既に国の中で最高位の魔法士の称号を得ている。対する白い衣装の方は身体向上系の魔法に精通しており、その武芸は国の中で随一であり、先の武芸大会でも優勝を勝ち取っている。また、この2人は王女の婚約者候補である。
「勇者様も色々と大変でしょうが、お互いに国のために頑張りましょう!」
クルルは握手を求め、勇者も応じる形で互いの手を握った。
「まぁ!勇者の手に掛かれば世界の敵なんて一捻りですよ」
「過去2回とも寝てただけ、だがな」
後ろに控えていたジンが小さく勇者に呟いた。
「次!次こそは大活躍して見せる!」
「それは楽しみですな!是非、勇者様の雄姿をこの目に焼き付けたいと思いますよ」
ルージュは小さくニヤリと笑みを浮かべた。勇者達と2人の青年は別れ再びそれぞれの目的地に向かった。
勇者達は目的地の部屋まで辿り着き、ノックをしたところ中から応答があったため部屋の中に入った。
「これはこれは勇者様、よくお越しくださいました」
「今日はよろしくお願いします」
「本日は魔法の基礎訓練である水の生成について教えてほしい伺っておりますが、正しいでしょうか」
「恥ずかしながら、練習をしているのですができない状況でして。何かコツなどを教えてもらえないかと思いました」
「成長の速度は人それぞれ。最初は順調でも後で躓く者も多いものです。逆もしかり。気にするほどのことではありません。それであれば、実戦の訓練の中で学ぶのが一番でしょ。大学に存在する訓練所の方で練習いたしましょう」
「よろしくお願いします!」
勇者達は訓練所に移動した。訓練所では様々な実験が実施できるように壁が特殊仕様になっており、衝撃や音が外に漏れることがないようになっている。そこに高名な魔法士と勇者達3人が入っていった。
「へぇぇぇ。広い場所ですね。でも誰もいないですね」
「本日は勇者様のために貸し切りとさせていただきました。思う存分使うことができます」
「それはわざわざ、ありがとうございます」
「えええ。当然ですよ。ここで勇者様は最後を迎えるのですから!!」
「え?それはどういう・・・」
「伏せろ!!!!」
直後にジンが勇者を押し倒した。そして、頭の上を炎が通過していった。
「おやおや、今ので死んでいれば楽にいけたのに勿体ない」
「てめぇ!!」
勇者はすぐに立ち上がり剣を抜き魔法士に突撃した。日々の基礎訓練によって剣を扱いに慣れたこともあり、突撃自体は様になっていたが、相手の方が格上であった。勇者は近づく前に魔法士が発生させた衝撃波によって吹き飛ばされてしまった。
「うわぁぁ」
「大丈夫か?!コール!!」
ジンとレイナは吹き飛ばされた勇者に近づき状態を確認しつつ、魔法士から庇うように立ちはだかった。ジンやレイナも勇者と共に剣や槍の訓練を積んでいたが、勇者と大差ないレベルである。勇者は既に立ち上がれないほどの怪我を負っており、戦うことも逃げることも出来ない状態であった。
「なんと弱い、これが勇者ですか。このような者が世界を救う存在とは」
「レイナ、コールを背負って逃げろ!俺が時間を稼ぐ」
「そんな!」
「や・・・めろ。そん・・・なこと」
「お前は大切な存在なんだ。こんなところで死ぬわけいかないだろ!」
「お別れはすみましたか?なあに、すぐに再開できますよ。死後の世界でね」
魔法士が構えたその瞬間、魔法士の横から雷撃が飛んできた。魔法士はギリギリのタイミングで避けることができたが、焦りの色は隠せていなかった。その雷撃に見覚えがあったからである。訓練所に2つの足音が近づいて来る。
「おやおう、せっかくなので見学にでも来てみれば。このような面白そうなことになっていようとは」
「既に弁解の余地は無いと判断します!」
勇者は2人の姿を見て気を失った。それは安心からだったのか、体力の限界からだったのかは不明である。
勇者は仲間たちが殺させる風景を見ていた。しかし、自分は動くことができない。仲間たちの腕が切られ、足が切られ、最後には頭が切り落とされる。それでも自分は動くことができない。
「やぁ!やめろ!!!! は!ここは?」
「コール?!大丈夫?!」
「このやりとりも慣れたものだな」
勇者はベットの上に寝かされており、近くにはジンとレイナがいた。
「ジン!レイナ!無事か?!」
「ああ、問題ない大丈夫だ」
「大丈夫だよ!」
「はぁぁぁ。良かった」
「心配なのはお前の怪我の方だ。大丈夫か?大学の職員に治療してもらったが完全ではないと言っていたが」
「大丈夫だ。あっちこっち少し痛いが問題ない。あいつはどうなった?って言っても誰かが倒してくれたんだよな」
「そうだな。たまたま来てくれた、あの2人が倒してくれた。圧倒的だったぞ!黒い奴の雷撃は相手の魔法ごと打ち抜き。白い奴はその身のこなしで攻撃を避けつつ、近づいて相手の防御魔法ごと敵をたたき斬ってしまったからな。流石は国を背負うって人達だったぜ。あと、あいつは3番目の敵だった」
「そうか。なんとなく、そんな気がした。結局は勇者は役立たずだな」
「そう言うなって」
「そうだよ!コールが生きているだけで良かったよ!死んじゃったらもう会えなくなるんだよ!!」
レイナは泣きながら勇者に抱き着きついた。勇者はレイナの頭を優しく撫でながら落ち着かせた。本当に勇者は必要なのか。勇者は自らの存在意義を考えながら、仲間達が無事に生きていることに感謝した。そして、もっと強くなり仲間たちを守れるようになることを心に誓った。
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